1-3 サークのリュート
「お目にかかれて幸運でした。わたしは旅の修道者、ケイルと申します。こちらは弟子のセイラ。サーク越えをしたいと思っているのですが、こちらに案内をして下さるリュートさんという方がいらっしゃると伺い、お捜ししてここまで参りました。」
「それはそれは・・。」
へえ、この男なかなかやるじゃないか。リュートは、セイラと呼ばれた、少年の脇に立つ男をちらりと眺めてそう思った。この者、以前はひとりで腕を頼りに生きてきたといった風情だが、そんな男がこのような子どもを師と仰ぐことができるとはなかなか度量が大きい。普通はなかなか、どんなにこの子が優れていると見えたって、それを認めることすらできないものだ。
“それとも余程のことがあったか。”
リュートはちょっと考えかけたが、すぐに止した。余計な詮索は誰に対しても無用というものだ。
「よくわたしが見つかりましたね。」
「ええ幸運としか言い様がありません。これも何かのお導きでしょうか。リュートさんのお話をして下さった方も、リュートさんのお姿を見た人にはまだ会ったことがない、捜すのはいいがお会いできるとは限らないので、見つからなければ早めに諦めるのが良いだろうとそうおっしゃっておいででしたし。」
ま、そうだろうな、とリュートは微笑った。もともとこの広大な荒れ地サークを越えようなんて人間が現れること自体ごくごく珍しい。それがさらに、こんなひっこんだところに棲んでいる自分に会おうなんて言うのだから、ますます彼女の姿を見る可能性は低くなる。
サークの案内人のわりにはリュートもずいぶん不親切なところに住まっているようだが、もともと案内人になろうと思ってここに来たわけではないし、何度かたまたま人間のサーク越えを手伝ったのがいつの間にか伝承となっているらしいというまでのことで、自ら進んで案内をかって出ることも特にないのだ。リュートはこの洞とこの場所がずいぶん気に入っていたし人が恋しくなるわけでもないし、この地を動く気は当分ない。ただ、自分を捜そうと思う人たちに厄介をかけているらしいのは少し申し訳なく思うけれど・・。
「では、参りましょうか。」
ついその辺にでも出かけるようにリュートがそう言ったので、ケイルと名乗った少年は、またきょとんとした目になった。
「あの、もうよろしいんですか。」
「構いませんよ。」
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