ゴーストライター

mikotonosora

ゴーストライター


「俺は死んだのか?」

自身の動かない体を空から見て呆然とした。

親善 恭一 四九歳。

平凡なサラリーマンだった。

周りが結婚していく中、コミュ障だった事もあり独身のままだった。

「それでも、いつか温かい家庭を持ってって憧れてたっけ」

これが人生の結果か・・・悔しくて涙が出てくる。


ふと、妹のことが気になりそちらへ向かう事にした。

向かう事にした、そう意識したそれだけで俺は妹の家へと着いていた。

「兄が、出社してない?えぇすみません此方からも連絡をとってみます」

妹が恐らく俺の会社からの電話をとっていた。

「無断欠勤なんてした事は無かったからな。それに今日は、弊社の商品の重大な売込み先の来社予定があったからな。先方から此方に来てくれるなんてあまりにもありがたい事だから社内が湧き上がってたっけ」

重要な書類が確か、俺のロッカーの青いファイルの中にあったが、どうしよう俺に伝える術は無いのか・・・

いや、ちょっと待てもしかしたら・・・

少しの好奇心と若干の罪悪感が混じりながら妹の中に入る

「今日の資料は兄のロッカーの青いファイルの中にあります」

やはり・・・言えた。

「あ、あら?何を言ってるのかしら私?え?ありがとう?とんでもないです。あら、やだ兄が心配なので一旦切ります」

妹はそう言うと一目散に駆け出して、支度をし始めた。

「母さん、飯できてる?」

「母さん時間ないの!勝手に食べて!」

妹と甥っ子の他愛のない会話だ。

甥っ子は毅然 夕陽 二〇歳 大学二年生だ。

月曜の午前中は授業入れてないから楽なんっすよねとか言っていた気がする。

「母さんそんなに慌ててどうしたの?」

「恭兄ちゃんが死んだかもしれない」

察しがいいな妹よ。

「急いで行った方がいい」

おお、甥っ子もなかなかの鋭さ。


かくして俺は、腐乱死体になる前に発見されたのだった。


後に知り合いになるある人はこう言っていた。

「妹さんと甥っ子ちゃんの勘が鋭かったんじゃなくて、妹さんの中に常駐していた守護霊が、妹さんじゃないものが声を発したと気づいて恭一さんの所に確認をしに行った。そしたら案の定、死んでたから妹さんを走らせた。ついでに甥っ子ちゃんでダメ押ししたって所ですね」


さて、話は戻るが、俺はバタバタと忙しく俺の葬式を済ます妹をよそにのんびりとしていたんだ。

天使が俺を連れて行ってくれるわけでもなく、地獄に落とされるわけでもなく、ただただ人々を眺めていた。

なんせ、思っただけで自由に移動できるんだ。観光し放題だ。

ただ、ちょっと悪い事もしてしまった。あまりにも食べたいご当地グルメがあったので、観光客の中に入って注文して堪能してしまった。すまなかった。


「四九日・・・経っても迎えは来ないな・・・」


幽霊ライフを満喫している時ふとそう思った。

と言うよりも四九日経っていたかも怪しい。

なぜなら、俺は幽霊になってからある能力を身につけていたからだ。

 ”時間超越”

一部の主人公にありがちなこの能力を手に入れてしまったのだ。


これも前述の彼に言わせれば、

「死んだ後の標準装備。なんら珍しくないよ。最強能力を得れる。だからと言って死んで欲しくないから僕は今日も死を阻止する。生きて這いつくばって欲しい。」

彼らしい答弁だ。


時間を自在に行き来できるようになった俺は、歴史上の出来事を見に行ったりして無限の時間の暇つぶしをしていた。

「へぇー関ヶ原の戦いの迫力すごいなあ!」

「お、未来にも行けるのか!」

その時、俺は気付いた。

「あれ?過去が、未来が変化してる?」

起きる出来事が時間が経つごとにちょっとづつだがしかし確実に変化していたのだ。

例えば、ある商談が成立するかしないかで、のちの未来での商品ラインナップが変わっていた。

一瞬、某メーカーのアイスガリ●リくんが無くなっていた時はひやっとした。

すぐに俺はメーカーへと走った。すると、開発者が交通事故で死んでいた。俺は幽霊の力を使い交通事故を防ぐ事に成功した。結果、ガリ●リくんは復活したのだ。

幽霊の力と言っても簡単である。生前ゴールド免許だった俺は事故を起こした運転手に代わって安全運転をしたまでだ。


それから俺は人命救助にハマった。事故を防ぎ、自殺を防ぎ、他殺を防ぎ。

生きながらえた命が、人生をまっとうしていくのを見ると、とても誇らしく思えた。

病気だけはなかなか難しかった。初期のうちに検査へ誘導するくらいしかできないのを歯痒く思った。

もっと真剣に考えた結果、未来の治療法を過去に送れないかと試行錯誤した。

「俺ってヒーローなのかもな」

ちょっと自惚れた。


これも前述の彼曰く、

「医療は、利権でなく人命救助にみんなの心が向いてるから、治療法を過去へ過去へと送っても咎められない。創作だとただの盗作でみんな泥沼になる、医療だと人命救助で救いがもたらされる。深いね」


確かに深い。


俺は、ヒーロー活動をしている時に、難問にぶち当たった。

「なんでだ?助けても助けても次の瞬間には上書きされて死んでしまう」

それが、呪い憑きとの初めての出会いだった。


俺は諦めが悪い奴で、何度も何度も救った。

そうしたら相手が彼女の体を借りて根を上げて喋りだしたのだ。


「あー畜生、この女は死ぬべきなんだよ!生きて幸せになるのなんて許せないんだ。私のことを邪魔するどっかの誰かさんは居なくなっとくれ」


そのセリフは一瞬で上書きされまた、自殺との闘いとなった。


俺はここでようやく自分以外の幽霊が存在していると気付いた。

そして、これはただ自殺を阻止するだけでは、ダメだと気付いた。


彼、もしくは彼女が人を殺すに至った理由を解決しなければならない。


俺は、他殺を防ぐときにその根本原因からなかった事にする手法を使っていた。

彼女の体をかりて問いかける。


「何か辛い事があったのか?解決するのを手伝うから人を殺すのをやめないか?」


何度か繰り返すと自分に言われているのがわかったようで、ポツポツと話し出した。


「この女は私のことをいじめたんだ。今は私と言う存在といじめた過去がなくなっちゃったけど私は覚えている。許せないんだ。この女の存在を私と同じように消すまで何度も何度も自殺させてやる」


思った以上にヘビィな内容だった。


「君もそうなのか!でも、もしかしたら犯人は君に恨みがある幽霊かも知れないよ?負の連鎖を止めよう!」


今度は誰だ?俺は思った。俺と彼女以外に誰かがいる。それが、彼との出会いだった。


「まず、僕が説明しよう。君と言う存在をなくしたのは君に恨みがある人間で間違い無い。ただ、君に恨みがある人間がわざわざ自分の体を使って復讐するかな?よく考えて欲しい今君がしているのと同じように、君と言う存在が完成する前に君のプロトタイプが彼女がしていたのと同じように誰かをいじめていて、その復讐で君は消されたのでは無いかと!」

「でも私はこの女にいじめられて……」

「それが他の幽霊の仕業だった可能性になぜ至らない?君がこの子を職場の人間の体を使っていじめているように、この子が真犯人によって動かされていたと。そしてその原因は君のプロトタイプの行動にあったと。そしてそのプロトタイプもまた好きでいじめていたのではなく今は消えてしまった過去の怨嗟によっていじめをさせられていたのではと」

あ、頭がこんがらがってきた……が、言いたいことはわかった


消えてしまった過去。俺たち幽霊が過去に遡り過去を変えることでこの世界は俺が生きていた世界とはちょっとずつ変わる。ちょっとずつ……

そうだ、この世界は俺が生きた世界とはもう別物なのだ。

でも、俺は自分の生きた世界を覚えている。

「変えれば変えるほど世界線は増えていく。僕らが見ている世界は編集可能な生きている世界。君が生まれる前のプロトタイプの世界も見てみたいと思わないかい?もちろん君が生きていた頃のレコードだって残っているはずさ。君たちの自殺と自殺しない世界ずっと分岐している。君らがうまく隠してもそれを見ているその世界線はあるんだ。僕だって後で僕が喋ったこと消すけどさ僕が喋ったことによってできたこの世界線のこの子の記憶にはしっかりと残るだろうね。下手したら病院に行ってしまうかも知れない僕らのせいでね。」

よく分からないが……何となく伝わってきた消しても記憶として残ってしまうという事なのか?

「記憶として残ってしまうという事なのか?」

俺は聞いた。

「おっさんは知らないでもいいけどお嬢さんは加害者にならないために知っておいた方がいい。全ての出来事は終末まで計算される。平行世界はその分増える増える……経験できるのは一つの世界だけだが、分岐した世界分自分は存在する。嬢ちゃん名前は?」

「本城 ゆかり」

それに反応してもう一人の彼女が喋った。

「っ本当に私以外の私がいるの?嘘でしょ?」

「私?」

「私はこの身体の持ち主の早苗と親友だった本城ゆかり。死んでからずっと世界がおかしいことになっていて、早苗が私をいじめるし、私が消えるし、せめて早苗のことを守ろうと一緒にいたの。まさか、いじめられていた世界の私が自殺の犯人だったなんて……」

「嘘だ!こいつと親友だったなんて信じられない!何かの間違いだ!」

俺は第三者として頭がこんがらがっていたが何とか整理できた。

「二人の本城ゆかりさんがいるのか……」

「そういうこと。ゆかりさんの片方は守護霊にもう片方は呪いになっていたんだよ」

すると早苗さんの体が大きく動き叫んだ。

「あははははは!馬鹿みたい!別の世界では仲良くやってたなんて信じられない!」

「気付いたのなら誰かにはめられたってことも分かるだろ。もう無意味なことはやめて遊んでると良いさ」

「はーい」

そして、俺らの手によって会話は無かった事にされ、早苗さんの自殺は防がれた。

それが、俺の呪い憑きとの初めての出会いだった。

俺は、この場を収めた彼が何者か分からなかったが、俺と志を同じくするものだとは伝わって来た。


それから俺は、何度か呪い憑きに会う事があった。

俺は、自分なりに解釈した解説で何とか自殺を阻止して乗り切っていた。

「しかし、埒があかないな……」

そこで、俺は考えた……

これを小説の形で伝えたらみんな呪いになるのを思いとどまってくれるのではないかと。

そして、俺は生きている時の自分の空き時間を使い小説を書き始めた。

しかし、中々人に見てもらえずに俺の小説に呪いを解く効果があるのか謎だった。

執筆がひと段落して、何も変わったように見えず不貞腐れながらヒーロー活動に明け暮れていた。

「おいお前」

ある時、俺の生前の体に話しかけてくるやつがいた。

「知ってるな」

「何のことですか?」

俺はこのままでは俺がやばい事になると思い生きている体に入り話した。

「俺は死んでいます。呪いになってしまう幽霊を救うために小説を書いています」

「やはりな……ならいい……」

謎だった。俺は、先程の会話を無かった事にして、いつものヒーロー活動に明け暮れた。

特に俺の寿命や運命は変わることが無かったが俺の体に話しかけては無かった事になるそんな幽霊同士の会話が多くなってきた。

その会話によると俺以外にもヒーロー活動をしている人が多く、どこも呪い憑きの対処に困っているとの事であった。

「この小説を広く拡散できればなあ。」

「そんな事して運命が変わるとお前さんが大変じゃないかい?」

「いやいやどの道、身体の限界で死んじゃいますから」

「そうか……」

俺は、そんなやりとりをしながら今もこの世界を見守っている。

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