第4話 灰被りの乙女

「未悠~」

「どうしたの?アリア」

「呼んでみただけ~」

「そっか」

「うん」


季節は、冬。

今日は、クリスマスなのだ。

未悠は、冬休みになり、基本的には私の家で過ごしている。

「そういえば宿題ってあるの?」

「急なお母さん感出たな。でもまあありますよ。終わってますけど」

「そこは奥さんと言って欲しいけど・・・。ってもう終わってるの!?冬休みって今日からよね!?」

昨日の今日で宿題を終わらせたのかと驚きを隠せない。

「まあ宿題って担当の先生が授業中に範囲教えてくれるから、学校で少しづつ終わらせたよ」

「凄いね」

「まあな。冬休みぐらい自分のやりたい事したいしな」

「しっかり考えているのね」

最近の高校生ってここまでしっかり考えているものだろうか。

「何にも考えてないよ。未だになにがやりたいかなんて分かんないんだから」

「でもやりたい事考えてるから、そんな答えが出たんでしょ?それだったら、良いじゃない」

未悠は、真面目だからね。

真剣に考えてるのでしょうね。

「そう言ってもらえると、うれしい」

「ふふっ」

私、今恋人やってるなぁ。

「未悠はさ、欲しいものとかはないの?」

「欲しいもの?」

「うん。だって今日、クリスマスでしょ」

「あーそういえばそうだね」

「だから欲しいものはあるかなぁって」

未悠のために何かしてあげたいな。

「欲しいものかぁ。・・・特には無いなぁ」

「そうなの?」

「うん。だってアリアのおかげで、バイト代で欲しいものとかは買えてるし」

「そっかぁ・・・」

何もしてあげらないのかなぁ・・・。

「逆にアリアは、欲しいものないの?」

「私?」

「うん」

「私が欲しいもの・・・」

何が欲しいんだろう。

こうして170年も生きていれば欲しいものなんて、限られてくる。

「・・・家族」ボソッ

「え?」

「ん?」

「あの・・・。それは来年でお願いします」

「・・・へっ?もしかして、聞こえてた?」

「はい」

「うぅぅぅ・・・」

恥ずかしい。

こんな年甲斐もなくはしゃいで、欲しいものは家族だなんて。

未悠にプレッシャーとか与えたくないのに。

「でもその時まで、アリアが俺の事を思ってくれるなら、俺は覚悟を決めてプロポーズするよ」

「かっこいいわよ未悠。じゃあ私はいつまでも待ってるね」

「はい。アリアが歳を取ろうと俺は、アリアが好きですから。俺の寿命はせいぜい、後70年ちょっとでしょう。アリアの寿命と比べたら大したものではないけど、例え死んでも俺はアリアの事を愛してます」

「・・・」

これって最早プロポーズじゃないの!?

私の方がプレゼント貰ってるような気がする。

「ねぇ未悠」

「はい」

「子供は何人欲しい?」

「ぶっ!」

「ちなみに私は何人でも構わないのよ」

「俺は、分からないです。自分が子育てできるかも分からないし。」

「それは私もだよ。でも未悠となら何とかなると思うの」

彼となら何でもできそうな気がする。

「じゃあそれも俺が責任を取れるようになってからで」

「ええ待ってるわ」






「ねぇアリア」

「なあに?」

「ちょっと恥ずかしいんだけど」

「ふふっ」

今は、私が未悠を膝枕している状態だ。

「あっ雪だ」

「本当ね」

「アリアは雪って好き?」

「好きだよ」

「そうなんだ」

「未悠は?」

「俺も好きだよ」

「そっか」

何をする訳でもなく、静かに時間が流れていく。

だけどこの時間が私は幸せだ。

「ねぇ未悠」

「はい」

「キスしてもいい?」

「どうぞ」

「うん」

ちゅっ・・・。

「ふふっ」

「可愛いよアリア」

「へへ」

未悠と出会えて幸せだな。

「未悠が良かったらだけど、旅行としない?」

勇気を出して誘ってみた。

「ごめん。日帰りなら良いけど、泊まりは難しいかも」

「そっか。そうだよね。まだ高校生だもんね」

「はい」

「未悠は大人びてるから時々、忘れちゃう」

「ありがとう」

「じゃあ高校卒業したら行きたいね」

「そうだな」

未悠と色んなとこに行ってみたいな。

「というかアリアって誕生日いつなの?」

「8月1日よ」

「え?」

未悠が驚いたような顔をしている。

「俺もその日が誕生日なんですよ」

「え?」

まさか未悠と同じ日が誕生日なんて。

「ふふっ。何か良いわね。じゃあ来年は一緒に祝いましょう」

「そうだな」

好きな人と誕生日が一緒なだけで、心が躍ってしまう。

ピコンッ

「ん?」

「あっ私のだ。せっかくの休みなのに誰からかしら?」

スマホを見ると、仕事のメールが来ていた。

それも魔女の方の仕事だ。

「はぁ・・・」

「仕事?」

「うん」

「良いよ。俺の事は気にしなくて」

「でも・・・」

「誰かがアリアの助けを待ってるんでしょ?行って来たら?」

「そうだよね・・・」

仕事もしないとだけど、未悠とも過ごしたい。

「そうだ!未悠も一緒に行こう!」

「へ?」

「大丈夫。危険な目には遭わせないよ。必ず私が守ってみせるから」

「いや、足手まといになると思うけど」

「私は、魔女よ。未悠を守りながら仕事なんて造作もないのよ」

胸を張って言い放つ。

「分かったよ。じゃあ最低限の手伝いもしたいから、俺に出来そうなことがあったら言ってくれ」

「ええ。最初からそのつもりよ」

何だかんだ言って初めての共同作業かもしれない。

魔女の仕事は、秘書に手伝いはしてもらうが基本的には一人でやっていたのだ。






「それでここは・・・?」

「今回の依頼主のお家ね」

「なるほど」

私と未悠は、今依頼主の家に来ている。

今回の依頼は、ある女の子をクラスのクリスマスパーティに送って行くことだ。

一見、魔女とは関係ないように思えるがそんな事はない。

その子は、三姉妹なのだがその子は末っ子のようで姉二人に虐げられているらしい。

さらには、三人は好きな人が同じらしく姉二人は応援しながらもライバルの様にその子をめぐって争っているらしいが、依頼主の女の子は二人に相手にされてないようだ。

「秘書が結構調べて来てくれたから、私たちは依頼を遂行するだけよ」

「具体的に何するんですか?」

「ふふふ~ん。あとでね♡。今は、依頼主の話を聞きましょう」

「分かった」





ピーンポーン。

依頼主の家のインターホンを押す。

未悠は何かそわそわしている。

そういえば・・・。

「もしかして未悠って人見知り???」

「う、うん」

「でもコンビニでバイトしてたんでしょ?」

「仕事と私情は分けてたから」

「そうなのね」

本当こういう所は真面目なんだから。



ガチャ・・・

「はい・・・」

「初めまして。魔女のアリアです」

「助手の黒崎です」

助手って・・・。

夫で良いじゃない・・・。

私は不服ではあるものの話を進めた。

「あなたが依頼してきた子よね?」

「はい・・・」

「そっか」

「あの・・・。立ち話も何なのでどうぞ上がってください」

「じゃあお邪魔するわね」

「お邪魔します」




私たちは、リビングに案内され、席に着いた。

「こんなのしかないですが、どうぞ」

わざわざお茶を用意してくれた。

「ありがとうね」

「ありがとうございます」

「いえいえ」

依頼主も席に着き、本題へと入る。

「それであなたは、本物なんですか・・・?」

「信じないと奇跡というのは降りてこないものよ」

「そ、うですね・・・」

「アリア。この方が委縮してますから」

「ごめんなさい。あなたを責めるつもりはないの」

「い、いえ・・・」

この子は、自分に自信がないのだろう。

まあ仕方ない。

姉達に、いじめられていたのだ。

自分も他人も何も信じられなくなっているのだ。

「それであなたはどうしたいの?」

「・・・私だって恋がしたいんです。姉たちばかりじゃなくて私も幸せになりたい」

ボタボタ・・・

「私もあの人と話したい・・・」

彼女は泣きながら、思いを吐き出した。

「そう・・・」

「だからお願いです魔女さん。私もクリスマスパーティに連れて行ってください!!」

彼女だって女の子なのだ。

好きな男の子だっている。

私だってそうだ。

いくつになっても好きな人と話したいし一緒に居たい。

「良いわよ。その依頼承りました」

「ありがとうございます!!」

彼女は頭をさげお礼をした。

「それでアリア。何をするんだ?」

「まあ見てなさい。私だって乙女の端くれよ。女の子を変身させるのは得意なんだから」

「そうなんだね」

「それで私は・・・」

「うーんと、ちょっと待っててね」

見たところ彼女は、髪の手入れや肌の手入れはあまりしていないというかできないのだろう。

だけど、顔のパーツは整っており、背も高くスタイルも良い。

「うん!決めた。じゃあ始めようか」

「えっ?」



私は、鞄から杖を取り出した。


「灰被りのお嬢さん。一晩だけの奇跡を差し上げるわ」


私がそう唱えると、彼女の姿が変化する。


「はい。これ鏡ね」

鏡を彼女に渡すと。

「わぁ・・・」

どうやら驚いたようだ。

「髪も肌も・・・」

そう。

髪も肌も綺麗にしただけなのだ。

さらにおまけとして洋服もプレゼント。

「これが私・・・」

「そうだよ。それが本当のあなたなのよ。もっと自信を持ちなさい」

「はい」

「なぁアリア」

「ん?」

「俺、何もしてなくね?」

「あくまで私のサポートだったし。それに・・・」

「それに?」

「私が頑張ってる所を見て欲しかったから・・・」

「可愛いな」

「ふぇ!?」

急に心臓に悪いことを言う。

「でも俺は、アリアが頑張っているのは知ってる。だから、もっと俺に頼ってほしいな」

「うん。そうするね」



「あの・・・」

「あっごめんなさい。それではアリアは仕事の方を」

「そ、そうだね」

いや、これは私悪くないような・・・。

未悠が嬉しい事言ってくれるから仕事が止まったような。

「じゃあ行こうかしら」

「ま、待ってください・・・。まだ心の準備が・・・」

「良いの良いの。今のあなたはクラスの誰よりも綺麗なんだから」

「アリアの言う通りですよ。お世辞ではなく、とても綺麗だと思います」

「ありがとうございます・・・」

「それじゃあ行こうね。送って行くわよ」

「お願いします」

私たちは、玄関に向かい準備をする。




「あっ!危ない危ない。これを忘れちゃ駄目ね」

「はい?」

「な、何でしょう・・・」

「私からの最後の贈り物よプリンセス」

私は、そう言ってガラスの靴を魔法で生み出した。

「サイズはあなたにピッタリよ。靴擦れもしないから安心して」

「まるでお姫様みたい・・・」

「今日だけはあなたがお姫様よ」

「ありがとうございます・・・」

彼女はガラスの靴を履き、外に出る。



「じゃあ送っていくね」

「はい」

彼女を車に乗せ、会場へと送る。

「それじゃあ出発~」

アクセルを踏み込み、車を進ませる。

「かぼちゃの馬車じゃないんだな」

「あれって公道走れるの?」

「俺に聞くなよ。多分だめだろ」

「そうよね」

あんなので普通に道路走ってたら、職質じゃすまないでしょうね。

「アリアも法は守るんだ」

「当たり前でしょ。魔法で全てを解決させる気なんて全く無いわよ」

「なるほどなぁ。だからこうして魔女やっていられるんだろうな。力に溺れることなく、誰かの為に使う。やっぱりアリアは良い魔法使いだね」

「褒めても何もでないわよ」

「何か出させる気は無いよ。ただ思ったことを口に出しただけだ」

「可愛いねぇ」



「お二人は、信頼し合ってるんですね・・・」

彼女は小さな声で呟いた。

「信頼できる相手なんて生きていれば必ず現れてくれますよ。俺は、それがこの人だっただけです。あなたにはあなたに合う人は必ず居ますから、もう少し未来というやつを信じてみてはいかかでしょうか」

・・・未悠が彼女にかっこいい事を言ってる。

私には恥ずかしがってあまり言ってくれないのに・・・。

「分かりました。ありがとうございます」

「いえ。俺はあくまでただの人間ですから」

ふふっ。

そういう所が可愛い。




しばらく車を走らせ、目的地へと着いた。

「すみません。ありがとうございます」

「あっ。一つ言い忘れてたけど、その魔法は今日一日だけだから。日付が変わったらその魔法は解けちゃうからね。」

魔法と言っても万能ではない。

「そ、そうですよね。こんな都合のいい事が永遠に続くわけ無いですよね・・・」

彼女は、暗い表情をしていた。

「まあ今日一日を頑張ってみなさい」

「はい。ありがとうございます」

彼女はそういって会場へと向かった。



「俺は何にもしてないなぁ」

「ふふっ。そんな事は無いわよ。未悠は、あの子に必要な時に必要な言葉をかけてくれた。顔色を伺うってのは、相手をよく見てるって事じゃない。それも立派な才能よ」

「魔女に言われてもなぁ」

「あら?私の言う事は信じられない?」

「その言い方はずるい」

「へへ」

「というか何が魔法は今日までだよ」

「えっ?」

「あの子の魅力は元から彼女のものだろ?アリアはそのきっかけを与えただけ。魔法が解けたからと言って彼女の美しさが消えるわけないんだろ?」

全く・・・この子ったら。

「未悠はよく気付いたわね。でも関心しないな。私にはそんな事言ってくれないのに」

頬を膨らませ、彼に訴えかける。

「そんな顔してもなぁ・・・。恥ずかしいんだから言えるわけないだろ」

「ふふふ。あなたってそういう人だもんね」

「ああ」

そうして私たちは帰路に就いた。




後日、彼女はあの後どうなったかは、秘書から聞いた。

依頼主のあの子は、無事好きな人に思いを伝えられ両想いになったそうだ。

何せ思いを寄せていた相手もあの子の事がずっと好きだったらしい。

「いやぁ青春だね」

「そうだなぁ」

私たちは、家でソファでくつろいでいる。

「私は、そんな経験ないから分からないのよねぇ」

「そうかぁ」

「未悠は、今が絶賛その時期よね」

「まあ世間一般的にはそうかもな」

「高校は楽しい?」

「んーまあそこそこ」

「友達はいるの?」

「いない」

「そうなのね」

意外だった。

この子は人見知りとは言え、心を開いた人には優しいし楽しいのに。

「まあ友達よりも大事な人ができたから、俺はそれで良いかな」

「嬉しい事言ってくれるじゃない」

「本当のことだからな」

「へへへ」





「なぁアリア」

「んー」

「アリアの仕事をこれからも手伝いたいんだが・・・。駄目か?」

控えめに彼は聞いてきた。

「ふふっ。良いに決まってるじゃない。あなたは私の夫になる人よ。そんな人のお願いを聞けないわけがないじゃない」

危ない真似はさせないけどね。

「じゃあこれからも頼む」

「ええ。任せなさい」

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魔女と男子高校生 MiYu @MiYu517

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