第3話 眠れる女子高生
「じゃあ会議は以上よ。各々の仕事に戻って頂戴」
「社長」
「ん?」
「こちらが先日の依頼された調査の結果です」
「うん。いつもありがとう」
「いえ、これが仕事ですから。それでは失礼いたします。」
「ええ」
バタンッ・・・。
「ふぅ・・・。会議って嫌ねぇ」
先ほどまで、オンラインで企画会議をしていた。
「はぁ・・・。働くって嫌よねぇ・・・」
そうつぶやくも誰の声にも届くはずもなく静かな部屋に消えていった。
「残りの仕事でもしようかしら」
それからは、仕事をただただ消化していった。
仕事を終わらせ、家に帰って来た。
「ただいま~」
今までだったら、誰も居ない部屋に声が消えていくのだが、今は違う。
「お帰り。アリア」
「うん!ただいま未悠」
彼氏が家で迎えてくれるのだ。
というのも、ハウスキーパーとして雇ったのだ。
未悠も私の下で働くという事でコンビニでのバイトを辞めて、私の家の掃除や洗濯などの家事をしてもらっている。
もちろん給料も渡している。
「今日の晩御飯は、焼き鮭と肉じゃがなんですけど。いかがですか?」
「良いよ良いよ!!未悠の作ったのならなんでも食べるわよ!」
「そうですか。嬉しいですね」
彼は、笑顔でそう言ってくれた。
「ありがとうね。未悠」
「俺の方こそありがとうございます。好きな人の為に働けるなんて嬉しいですから」
「敬語~」
「ああそっか。ごめん」
「謝る事ではないのよ。ただ今のあなたは私の彼氏というか婚約者なの」
「そうだよね。なんか実感が無くて・・・」
彼のこのギャップがたまらなく好きなのだ。
普段は大人しい子なのに、肝心なところではしっかりしている。
日和ったりもしない。
そんな彼が好きだ。
「未悠こっち来て」
「う、うん」
ちゅっ
「アリア!?」
「好きだよ未悠」
「それは俺もだけど・・・。不意打ちはずるい・・・」
二重人格かってほどギャップがある。
小動物のような可愛さだ。
「ほ、ほらアリア。ご飯用意するから、座ってて」
「ふふっ。はーい」
彼は、キッチンに向かい盛り付けを始めた。
「はい。じゃあどうぞ」
「うん。いただきます」
彼もご飯は、私の家で食べるようにしている。
この生活を始めて、早一か月が経った。
季節は、秋から冬になろうとしている。
「学校はどう?」
「毎日聞いてるな」
「まあね。彼氏が他の女の子に靡かないか不安なんだから」
「そんな事はないんだけどなぁ」
「ふふっ。嬉しい」
「アリアこそ仕事先でかっこいい人居ないのか?」
「いなーい」
「そうなの?」
「うん」
「そっか」
「そうだよ」
食事を終え、彼は帰り支度をしている。
「もう帰っちゃうの?」
「まあ母さんが待ってますので」
「そっか・・・。優しいね未悠は」
「まあ母さんは良くしてくれてるからね。親孝行してあげないと」
「いつか会わなきゃね」
「結婚の挨拶の時かな?」
「おお、言ってくれるね」
「ははっ」
「ふふっ」
「じゃあまた明日」
「ええ。またね」
彼を玄関まで見送った。
未悠が玄関を出ようとしたが立ち止まって、私の方を振り向いた。
「あっアリア」
「ん?」
ちゅっ・・・。
「お返し」
「・・・未悠こそずるいよ」
「ははっ。じゃあね」
バタンッ
本当に高校生か分からなくなるほど落ち着いていて、私の為に尽くしてくれている。
変なのに騙されないように私が守ってあげなきゃ。
「未悠とのキスもかなりしてきたけど、未だにドキドキする」
年甲斐もなくはしゃいでしまう。
「そうだなぁ。いつか未悠と旅行とかもしたいな・・・」
彼と過ごす日々が楽しすぎて、色々と想像してしまう。
次のデートはどこに行こうとか、明日未悠が来た時は何をしてあげようとか。
「なんか良いなぁ・・・」
彼とのこの生活が好きで好きでたまらない。
そんな事を思いながら、私は浴室に向かった。
「ふぁぁぁぁ」
お風呂に浸かり、仕事の疲れが取れる気がした。
まあ実際にはそんな事は無いのだが。
未悠と過ごす時間だけが仕事を忘れられる。
彼と過ごす時間だけが、私を自由にしてくれる。
本当に不思議な感覚だ。
「早く明日にならないかなぁ」
一か月前は、生きている実感が無かったのに未悠と出会ってからは、生きている意味を見つけた気がする。
私は、彼の為に生きていたい。
そう思えた。
翌日、会社に行きいつも通り社長室に向かった。
パソコンを立ち上げ、メールを確認した。
「面倒なのが一つあるわね」
メールが数件来ている内、ほとんどが資料などだが、一件だけは違った。
『眠りの呪いを解いて欲しい。』
「呪いねぇ・・・」
この依頼は、私の魔女としての仕事の依頼なのだ。
「まあやろうかしらね」
呪いは、私のような魔女だけが使えるものではない。
何なら魔力を扱えない素人でも、呪いを発動することはできる。
例えば、呪いの人形。
日本では、藁人形とかが挙げられる。
海外では、死んだ者の霊が乗り移ったりするパターンがある。
「でも眠りの呪いか。よくそれが呪いだと気付いたものね」
こういった魔女としての仕事の依頼は、こうしてメールで届くのだが、依頼主は私の会社のホームページから送って来ている。
迷惑メールももちろんあるが、それは秘書が調査し信憑性があるものをこうして私に送ってきている。
「まあ彼女が調べたのだから本物なんでしょうね」
秘書からの報告書に目を通し、いつからこの状態なのか。
何が引き金となってこの状態になっているかを確認した。
「なるほどね。この呪いは、童話を元にした呪いなのね。針で指を刺したら眠りについた。まあ少々違う部分もあるみたいだけど、まあ発動には十分といったところかしらね」
こういった呪いは多いのだ。
童話や伝承がモデルとなった呪いは多数ある。
「まあ私もやろうと思えば出来るけど、こういったのは嫌いなのよね・・・」
私にも好き嫌いはある。
特に、こういう呪いのようなものは嫌いだ。
呪いをかけた人を苦しむのを見て、喜ぶような人ははっきり言って生きる価値は無いと思う。
「じゃあお仕事しようかしら」
私は、会社を後にした。
車で依頼主の下まで向かう。
「仕事休んでデートしたいなぁ」
一秒でも長く、好きな人と一緒にいたい。
未悠と過ごしたい。
「さっさと仕事終わらせようかしらね」
基本的に魔女の仕事をする時は、会社の方を秘書に任すようにしている。
「住所は、この辺よね」
住宅街に行きついたのだが、いまいち依頼主の家がどれか分からない。
「むぅ・・・。どこだ・・・」
しばらく車を走らせる。
5分ほど走らせていると、家の外で立っている男性がいた。
「聞いてみようかしら」
車の窓を開け、話を聞くことにした。
「すみません。ここの住所の家ってどこか分かりますか?」
「それならここですが・・・」
「えっ?」
やばい・・・。
超絶恥ずかしい。
「そうでしたか。それは失礼いたしました。私、依頼を受けてこちらに伺ったんですけど」
「もしかしてあの呪いの件ですか・・・?」
「はい」
「そうでしたか。車はこちらに止めてもらって中で話を良いですかね?」
「分かりました」
私は男性の言う通りに車を停めた。
「では実際に、娘を見てもらいたいのでご案内します」
「はい」
家に招き入れられ、依頼主の娘さんが眠っている部屋に案内された。
「こちらです」
「失礼します」
部屋に入ると、そこには眠りについている女の子が居た。
歳は、未悠と同じくらいだろう。
「娘さんは、いつからこの状態に?」
秘書からの報告書には書いてあったのだが、一応親御さんからも聞いておこう。
「実は、もう一年ほど。今年から高校生だというのに・・・」
「そうだったんですね」
高校一年生か・・・。
「どうしてあなたはこれが呪いだと?」
常人ならば、眠りの原因が呪いだと気付かないだろう。
「自分も信じては居ませんでした。娘を病院に連れて言った時に、医者からは原因不明と言われ、この子を治すためにオカルトに手を出しました。」
「なるほど。そういう事ね」
大体は把握した。
確かに自分の家族がこうして眠りから覚めずに、医者からは見放される。
そんな人はもう常人とは言えないかもしれない。
「それで娘は治るんでしょうか?」
「ええ。それは可能です。ですが、呪いというのはかなり厄介なものです」
「と言うと・・・」
「呪いをかけた人がどんな気持ちでかけたかは知りませんが、碌なものではありません。こうして呪いに頼った時点で、かけた本人も呪われたものと同じです」
呪いとは、かけた瞬間には自分のその呪いの対象なのだ。
「人を呪わば穴二つ。娘さんが治ったら、呪いをかけた人は最悪死にます。その事を忘れないように」
「・・・分かりました。その罪は自分がこの娘の父親として背負って行きます。」
「・・・ええ。それを分かってもらえれば、この子を助けるわ」
「お願いします」
眠りについている彼女を助けるために、車に戻りトランクから材料を取り出していた。
「眠りの呪いって、解く方法は絞られるのよねぇ」
眠りの呪いの解き方なんて、もはや世界共通だろう。
「でもその前に呪いを書き換えしないと・・・」
あの呪いは、元々は永遠の眠りだが、その後に様々な魔法使いが工夫をして目覚めさせることはできないが、ある方法で目覚めさせる魔法をかけているのだ。
「じゃあ必要なものは、この本かしらね」
車のトランクから一冊の本を取り出した。
この本は、魔法が記されており、かなり古い。
見た目もボロボロなのだ。
「こういう本も電子書籍化してもらえれば良いんだけどなぁ」
そんな事をつぶやきながら、再び彼女の部屋へ戻る。
「それじゃあお父様は部屋から出ててもらえますか?」
「分かりました」
依頼主には部屋から出てもらい、今部屋には私と娘さんの二人だ。
「さてとやろうかしらね」
本を開き、準備をする。
「ふむふむ」
魔法の手順を調べる。
「まずは、呪いの書き換えをしなきゃね。リライト」
リライト、この魔法は魔法の書き換えをする事が出来る。
それは呪いにも適用される。
「ふぅ・・・。とりあえず呪いの書き換えは終わったわね。あとは、目覚めさせるためのトリガーを引くだけね」
眠りの呪いから目覚めさせるトリガー。
それは・・・。
「本当は、あなたも好きな人とやりたいわよね。でもごめんなさいね。・・・目覚めなさいプリンセス」
ちゅっ
「こんなものかしら」
眠りの呪いを解く方法とは、ほとんどが目覚めのキスだ。
だが違う点が一つだけある。
「ごめんなさいね。王子様じゃなくて」
目覚めのキスは、王子様の仕事だと決まっている。
それなのに魔女がするなんて、皮肉としか言いようがない。
「んんっ・・・」
「お目覚めかしら?」
呪いを解くことには成功したようだ。
「はい・・・。あなたは・・・?」
「んー。魔法使い?」
「はい?」
「まあ私の事はどうでも良いのよ。ちょっと待っててね。今、依頼主の方を呼んでくるから」
「はい・・・」
そう言って、私は部屋を後にした。
まあ目が覚めたら、知らない人が居るんだもんね。
普通、びっくりするわよね。
依頼主が待つリビングに向うと。
「あの!!娘は!?」
「目を覚ましましたよ」
「良かった・・・。ありがとうございます!!」
「はい。とりあえず今は、娘さんに顔を見せてあげてください」
「そうします!!」
そう言って娘さんの部屋に急いで向かって行った。
私も三度、娘さんの部屋へ向かう。
「良かった・・・。本当に目が覚めてる・・・」
「うん。心配かけてごめんなさい」
「気にするな。お前が無事なら俺は構わないさ」
感動的なシーンだ。
これが家族か・・・。
私にはもう親の愛情を受けることはない。
だけど、子どもに愛情を注いであげたい。
だから未悠と幸せになりたい。
改めて心に決めた。
「魔女のあなたには感謝してもしきれません」
「魔女・・・?」
「ん?ああ。この方がお前を助けてくれたんだ」
「そうだったんですね。ありがとうございます魔法使いさん」
2人から感謝の言葉を頂いた。
「いえ、私は出来ることをしただけです。あなた方のような家族は幸せになっていただきたいですから」
これは私の本心だ。
「というか今日って何曜日?そもそも助けられたってどういう事?なんか身体がだるく感じるけど」
この子は、何も知らないのだ。
どうして眠っていたのかも。
それが一年も続いたことも。
そして誰が呪いをかけたのかも・・・。
「そっか。そうだよな。お前は、1年近く眠っていたんだ。・・・呪いのせいでな」
「呪い?」
「ああ」
「お父さんの言う通りよ。あなたは、眠りの呪いで一年近く眠っていたの」
「そうだったんですね・・・。一年か・・・」
この子にとっては、一年というのはかなり長いだろう。
ましては、今年から高校生だったのに、もう冬だ。
「すまなかった・・・。もっと早く治してあげれば・・・」
「ううん。パパは関係ないよ。ありがとうパパ」
家族愛とは良いものだと思う。
この愛情は本物だ。
これを汚したものが居るのが、実に腹が立つ。
「すみません。魔女さん。お支払いの方ともう一つお話があるんですけど・・・」
「ええ。分かったわ。娘さんはこの部屋でもう少しゆっくりしてもらった方が良いわよ」
「そうですね。じゃあそういう事だから、この部屋に居てもらえるか?」
「うん」
「ありがとう」
「それじゃあリビングでお支払いの方を」
「分かりました」
私は、依頼主とリビングに向かう。
「それで依頼金は、こちらになります」
依頼主から、現金の入った封筒を渡された。
中には、100万が入っていた。
まあ当然の金額だろう。
呪いを解くというのは、素人には難しい。
無理に解こうとすると、その呪いが跳ね返る上にもっとひどいものになる。
つまり、これは私のような専門家の力が必要だったのだ。
「ではいただきます」
封筒を受け取った。
「それで話とは?」
大方の予想はついている。
「呪いをかけた人についてです」
「やはりその話ですか」
「気付いていらっしゃったのですか?」
「ええ」
彼女に呪いをかけた人物。
それも予想はついている。
はっきり言って反吐が出るけど、この依頼主とあの子は関係ない。
「実はあの呪いをかけたのは、妻なんです。正確には元ですが・・・」
そうあの呪いは、彼の元奥さんであり、あの子の母親がかけていたのだ。
実は、秘書の調査でそこまで分かっていたのだ。
「本来ならば、自分が止めなきゃいけなかったのに・・・。止められなかった。あの子を不幸にしてしまった」
本当にいいお父さんだなと思った。
ここまで娘思いなのに、その愛を踏みにじったものが居ることに苛立つ。
「あなたは、娘さんを幸せにしてあげてください。確かに一年を彼女から奪ってしまったかもしれませんが、まだ諦めるには早すぎます。私の愛する人は、高校生ですが今が一番輝いてると言うほどです。つまり輝く時は、人それぞれかもですが、あの子にも必ずその時が来ます。だからあの子をちゃんと支えてあげてください」
親心なんてものは、私にはまだ分からないが、未悠ならこんな事を言いそうだなと思いながら依頼主に話した。
「分かりました。必ず娘を幸せにします」
「ええ。頑張りなさい」
彼の決意は固いものだ。
「あっそれと、一つ私から聞きたいことがあるんですけど」
「はい」
「娘さんの学校ってどちらなんですか?」
どこの高校に通う予定だったのだろうと考えていると。
「実は、それを決める前にあの呪いに・・・」
「そうでしたか・・・。じゃあ一つおすすめの学校があるんですけど、いかがですか?」
心身ともにサポートが必要なため、学校選びにも十分注意しなければならない。
「そうなんですね!それはどちらでしょうか?」
「白夜高校よ」
白夜高校。
ここには、私の愛する黒崎未悠が通う高校でもあるのだ。
彼は、あの高校を非常に気に入っているみたいなので、依頼主に勧めてみた。
「そうなんですね。一応、娘にも聞いてみます。それに娘が良いというのならそちらに編入します」
「ええ。これは娘さんが決める事だからね。あんまり強くは勧めないようにしておきます。あと、このお金は娘さんの為にお使いください」
そう言って私は、先ほど頂いた依頼料の100万円を返した。
「でも!これは!!」
「ええ確かに、100万は頂きました。ですのでこれは、娘さんへのプレゼントです」
娘さんには幸せになってほしいと思い、この100万円を娘さんのために使ってもらうために返却することにした。
「・・・分かりました。こちらは、娘の学費に使うとします」
「ええ。そうしなさい。それでは、私はこの辺で。あとは家族の時間です」
帰る準備をし、この家を後にする。
「魔女さん。ありがとうございました」
「ええ。お二人ともお幸せに」
「はい」
車に戻り、エンジンをかけると、玄関から女の子が飛び出してきた。
「あの!!魔法使いさん!!」
先ほど、助けた娘さんだ。
「色々ありがとうございました!!私の命やパパの笑顔。とても大きな恩を頂きました。本当にありがとうございました。」
娘さんは、深々と頭を下げた。
「あなたは何も気にすることはないのよ。ただこの魔法使いと約束してくれるかな?」
「何でしょうか?」
「幸せになりなさい」
「・・・分かりました。必ず幸せになります!!」
「ええ。頑張りなさい」
私は、アクセルを踏み車を発進させた。
車のミラーを覗くと、彼女はまた頭を下げていた。
「・・・良い子ね」
そのまま家に直帰した。
どこにも寄り道をせず、家へと。
「未悠に会いたいな」
愛する人が待つ家へと車を走らせた。
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