4.前の席の女子と水やりをすることになった
「
「ちょっ、待っ」
慌てる
(待って? 俺は
話が激変している気がする。
「
「……ハイ」
(そりゃなんだかんだ言っても、弁当作ってくれたし、遊びに誘ってくれたから、そうじゃないクラスメイトより、
「私もね、
花の蜜のようにねっとりとした、甘い声。
恍惚とした表情で、
(付き合ってないのになんで? なんでこんなに──しっとりした空気なの?! ……嫌じゃないけど、素直に受け取っていいのか分からねぇ!)
いくら考えても、
(わからないから質問するしかないんだよなぁ……)
「だったら、教えてほしいんですけど──なんで
「……私じゃない女の名前を出さないでよ」
不機嫌になる
声から甘さは消え──まるでコールタールのような
「私は
「えっ」
(どういうことなの? どういうことなの?)
「私にとって、
甘い声が、
ふわりと。
(近い! いい匂い! 煩悩が爆発しそう! クラスなのに!)
「
そう言って、
(その理由が分からないから聞いてるんだよ……! 俺が他のクラスメイトと違うところなんて、帰宅部なのとバカ真面目に緑化委員の水やりをしている程度。女子に好かれるポイントなくない?)
でも、なぜ
からかわれているのか、本気なのか。
(的外れなことを言って、
「逆に、
(ちくしょう! かわいい!)
(俺は
「──
「
ちょうど担任が入ってきて、この話はおしまいになった。
そして放課後。今週の朝顔の水やりの担当は1組──つまり俺と
(
もし二人が
だって、女子の機嫌なんて謎すぎるし、女子同士の争いに、男子が下手に頭を突っ込むとなぜか男子が全ての悪役にされて女子は感動の和解をしている。
(だからある意味、
ちりりん。
「がんばろうね、
「えっなんで
涼やかな鈴の音とともに、
「
(
なんだか
「へー……まあさっさと終わらせっか」
30人を詰め込める教室が5個ある校舎の端から端まである花壇に、白い劣化が目立つ緑色のボロジョウロで水を撒いていく。
(弁当に、休みの日の試合観戦に、緑化委員……あれ、
2人で作業しても教室一つ分の花壇に水を撒くと、2人ともジョウロが空になってしまう。
つまり、水場と花壇を5往復する必要がある。このダルさが、クラス全員がじゃんけん大会をしてまで緑化委員を押し付けあう原因だ。
「キツくない? 大変だから、正直に言って
「私は
水を満タンにしたジョウロを手に、死んだ瞳の
「この朝顔は、
とろんとした瞳の
(愛の結晶って……俺たち、ただの緑化委員だよね? 付き合ってないよね? 水やりで疲れたのかな? 確かに冗談言わないとやってられないけど)
「
「むしってしまいましょうこんな朝顔」
「やめて! 水やりがダルいのはわかるけど、むしって担任から怒られるのはさらにダルいからやめて!」
「はぁい。
「おう……ところで、夏休みの予定とか大丈夫なのか? 学校に来る必要あるんだぜ?」
「うん。大丈夫。ところでさ、水やりと花火大会、かぶってないよね?」
「おう。多分」
花火大会は、学校から少し離れた海岸沿いで開かれる。
家から花火が見えないこともあり、
「緑化委員1日目の私の方が予定を把握してるって……」
じとーっと、
「だってダルい現実を直視したくねぇんだよ……」
「まあ現実逃避は置いといて、
「夏の暑い中出かけるのがダルいから、そもそも予定が入ってない」
ぱあっと
「じゃあ、一緒に花火大会行こうよ」
「
「なんでだと思う?」
いたずらっぽく笑う
クラスメイトと話しはするけれど一緒に帰ったりはしない。仲が悪いわけではないと信じたいが、俺は帰宅部なのもあってゲーセンやカラオケに行くような関係の誰かがいるわけでもないので――。
「……陰キャで確実に暇だから?」
「もー! で、花火大会に行くの? 行かないの? 7月31日の
「……行くよ」
夏出かけるのはダルいけど。
高校生らしい思い出を、作るのも悪くない。
「やったー!」
はしゃいで、
ちょうど、
「あっ、
「へ?」
ざあっ。
慌てて
「うわっ!」
「きゃっ!」
急いだせいでジョウロに遠心力がかかって
ばしゃん。
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