にせものののの
硝水
第1話
金の絵具なんて紛い物だ、と言い放ったその表情をまだおぼえている。あんなのは、アルミの粉を着色しただけで。
「すてきなお茶碗を買って、割って、金継ぎをしたいの」
「それは侘び寂びの精神に背くんじゃないの」
「別にワビサビがどうとかじゃなくて、金継ぎという手法が表現として好きなだけ」
「原作のこと全然知らないけどデザインが好きで欲しくなっちゃったグッズみたいだね」
「オタク特有の喩えをしないで」
紛い物を生むのをやめられない。紛い物を、愛することもやめられない。
「そろそろ名前をつけようと思わない?」
「紛い物になりたいの?」
本物であるということが、一体どれほど重要だというんだろう。名前をつけるということは、多少なりともカテゴリー分けされる。唯一性を失う。
「紛い物の方が楽だよ」
「そうね、安っぽくて、どこでも手に入る」
「だから君のお茶碗もそうだって」
「違うって言いたい。言えないのだけど」
お茶碗よりは大事にされてる、そんなことを毎日確かめている。
にせものののの 硝水 @yata3desu
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