マーボーカレー

赤城ハル

第1話

 マーボーカレー。

 作った後で調べてみると実際にあるらしい。

 ただ、私が作ったマーボーカレーとネットで見つけたマーボーカレーは全然違った。

 なぜ作った後で調べたのかというと妹が、「これじゃない」と文句を言ったからだ。

 さてさて、ではどうして私がマーボーカレーなるものを作るに至ったのかというと、そこには理由わけがあったのだ。


「今日、何する?」

 それが母と妹の口癖だった。

 夕方になると必ずといっていいほど私に聞く。

 本当に鬱陶しい。

 自分で考えろ。

 いつもいつも聞くな。イライラする。

 それなのに当たり前のように聞く。

 仕方ないのでしばしば答えるが、「えー」と非難される。

一番イラッとくるのが、「あー、言うと思った」である。

 じゃあ何が食べたいんだよ! 何だよ。こっちはお前らが食べたいものを当てないといけないの? めんどくさい。

 けれど無視すると季節関係なく鍋、すき焼き、惣菜に弁当だ。


 そして、とうとう私はブチ切れた。

「いっつもいっつも、聞くな。考えろ!」

 すると妹が逆ギレをして、

「はあ? いっつも考えているのはこっちでしょ?」

「考えてる? どこが? 聞いてるじゃん? 答えてるじゃん」

「こっちだって考えてるし」

「はあ? 鍋やすき焼き、惣菜、弁当ばっかじゃん」

「じゃあ何がいいの?」

「だから考えろや。え? 何? それとも世の中の飯は鍋、すき焼き、惣菜に弁当しかないの?」

「あるんだったら言えばいいじゃん?」

「はあー? 言ってんだろ? えっ? なんでそうなるわけ?」

 と妹と口論してたら母が仲裁に入る。

 だが、これは仲裁ではない。妹よりの問題の先延ばしだ。

 どうせ、また同じことで揉めるのだろう。

 いつもそうだ。

 こっちは論理的に言ってるのに向こうはわがまま言ったり、棚上げしたり、間違えを正そうともせず、話をすり替えたりしているのに。


 そしてしばらくして妹と晩御飯について、また揉めた。


  ◇ ◇ ◇


 その日は大口論となり、結果、晩御飯は交代制になった。

 そして1日目は私が作ることになった。


 今日、私が作るのはマーボーカレー。

 本当は麻婆豆腐と回鍋肉なんだけど、妹が「ありきたりでつまんなーい」とケチを付けたのでアレンジ。

 その時はマーボー回鍋肉なんて考えたのだが、それだと豆腐がバラバラになるからやめた。

 ではマーボーカレーとは何かと言うと、麻婆豆腐とカレーライスを足したものではない。麻婆豆腐の上にカレーのルーをちょいと乗せたもの。

 まあ、カレー味の麻婆豆腐と思ってくれ。


 まず鍋に油をひき、玉ねぎを狐色になるまで焼く。そして次にいつもより小さくカットした野菜を焼く。

 母はいつも先に肉を焼き、そして野菜を投下。野菜は焼かずにすぐ水を入れ、沸騰させる。そして固形ルーを入れて簡単に終わらせる。だから母のカレーはいつも玉ねぎが固く、シャキシャキしている。

 話は戻って、ジャガイモやニンジンに焼き目ができると牛肉を入れる。関西ではカレーの肉は牛肉で東京は豚肉が一般的らしい。私達関西人では豚肉入りカレーはポークカレーと呼び、あまり食べられない。余談だが、カレーの影響か肉じゃがも関西では牛肉で東京では豚肉が一般的らしい。

 肉を焼き、そして水を入れ、沸騰させる。

 時々アクを取りつつ、丁寧に作る。

 最後におたまに固形ルーを乗せ、鍋に入れる。そしてゆっくりと固形ルーを溶かす。

 母はこれをしないせいか時折、溶けきっていないルー塊が見つかる。


 カレーの後は麻婆豆腐。


 フライパンに水を入れ、沸騰させる。そして赤色の麻婆豆腐用スープを入れ、掻き混ぜる。

 混ぜきったら豆腐を入れ、中火で煮る。

 最後は火を切って、とろみ粉を入れる。その際にダマにならないようにちゃんと混ぜる。あと、豆腐を崩さないように。


 皿に麻婆豆腐を乗せ、そしてその上にカレーのルーを少し乗せる。

 はい。完成。これが私のマーボーカレー。


 食卓にカレーマーボーの皿を並べると妹が、

「はあ? 何これ? 意味不明なんだけど?」

 と文句を言ってきた。

「カレーマーボー。わざわざアレンジしてやったんだから文句を言うな」

 すると妹はマーボーを掻き混ぜるではないか。

「ちょっと人がせっかく作ったものに何してんだよ」

 しかも豆腐もぐっちゃぐっちゃに潰しやがった。

「はあ? 私がどう食べようと私の勝手でしょ?」


 さて、味はどうだかと言うと……改善点がありということかな。

 まず肉がキーマカレーのように挽肉にすべきだった。

 そしてジャガイモがいらないかな。


 夜、予備校から帰ってきた弟にマーボーカレーを勧めると、

「は? んなけったいなもん食うか!」

 と言われた。

 だから弟の腹を殴ってやった。

 モラルハラスメント、ダメ、絶対。

 なんとか食べさせることにできたが、弟はカレーと麻婆豆腐をけて食べやがった。

「ちょっとカレーの皿は一度、水ですすげ」

 弟は皿を水ですすがずにシンクに置きやがったので私は注意した。

「あーはいはい」

 イラッときたのでゲンコツ一発。

「洗う人の気持ちを考えろ」

 返事をしないので拳を掲げると、

「分かった、分かった」

 と弟はすぐに返事した。

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マーボーカレー 赤城ハル @akagi-haru

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