第2話
倉庫の一番奥にある他の棚よりも一回り大きな棚の最下段に、一冊だけ色の違うファイルが入っていた。開いてみると中表紙には「紛失記録」と書いてあった。ファイルは100ページほどの厚さで、1ページ目には紛失したファイルの一覧が記載されており、上から眺めていくとページの真ん中あたりに2022年2月23日という記載が見つかった。
該当する日付の詳細記録を探すと、紛失が発覚した日時と、紛失状況の報告者、紛失に気付いた時の詳細状況が記載されていた。
報告日時:2022年4月2日
報告者:××○○
詳細状況:3月分のファイル搬入時に、2月23日のファイルが紛失していることに気付く。紛失日、紛失場所は不明。
対応:倉庫内を探すが発見できず。
(次ページには、ファイルの保管場所に一冊分の空きがある状況写真が掲載されている。全ての紛失記録は同じフォーマットで記載されているが、その全ての対応が「倉庫内からは発見できず」とのことだった。)
紛失記録を会社に持ち帰りチーム長に報告すると、紛失記録とは紛失があった事実を記録したものであり、発見されていないものは紛失したままであり、すなわち紛失記録から2022年2月23日の記録を消すのがお前の仕事である、という無茶な指示を頂戴して、すぐに倉庫に引き返すことになった。
倉庫に格納したものが紛失する理由として一番に考えられるのは、誰かが倉庫外に持ち出したままになっているということだ。倉庫内のファイルは持ち出し記録が付けられておらず、ファイルが持ち込まれた月始めの3月1日から紛失が発覚した4月2日までの間でいつ持ち出されたのかも判らないし、持ち出されたことがあるのかどうかも判らなかった。管理状況がずさんなせいだと文句を言ったところで無いものが出てくるわけでもない。かといって、倉庫内に無いのであれば見つかるはずがない。逆に言うと、倉庫内に無いことが判れば探すことはもう不可能なのだから、私の仕事は完了である。倉庫内にファイルが存在しない証拠、すなわち「持ち出し記録」を事後的にであっても作り上げる必要があるのではないかと思われた。
記録の紛失 GumBase @gumbase
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。記録の紛失の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます