肝試し

「おい止めようって、こんなこと! 危ないし暗いし寒いし」

「うるせぇ、今更ビビってんのか!」

「そんなことないけどさぁ……うぅ、わざわざこんな夜じゃなくても良くない」

「昼に肝試しする馬鹿が何処にいるんだよ」


 悪友に連れられて集落から抜け出した少年。小さな光を頼りに、出ると言われる山道の中を震えながら歩いていた。


「見たくないのかよお前は。もし見つけたら皆に自慢出来んだぞ」

「良いよそんなのー」


 怖がりな少年の手を悪友は傍若無人に引き続ける。怖いという感情を親の胎内に忘れて来たかのようにアスファルトの道をずけずけと歩いていた。


「ひゃ!?」

「うわぁ!?」


 闇夜に隠れた小枝を踏んだショックで声と共に身体が跳ねる。小さな悲鳴に前を行く少年も驚いたのか、男らしい叫び声が続けて響いた。


「何だよ、おい。ただの枝に変な声出してんじゃねーよ!」

「いった!?」


 少年の足元を照らして騒ぎの元凶を確かめると、頭を叩いてきた。


 うぅ、酷いよ。

 もう最悪だよ。


 涙目になりながら友の後を付いていくと、とうとう出ると噂のトンネルへと辿り着く。

 少年達が生まれるよりも前に出来た大人一人が通れる程度の小さな穴。周囲は雑草が生い茂っており所々崩れている。昼間に見たとしても進むのを躊躇ってしまうことだろう。


「ここだな、隠れようぜ」

「うぅ、出ないで欲しいよ」

「ふざけんなよお前。ここまで来て何の成果も無しに帰れるか馬鹿」


 半ば強引に傍の茂みへと連行される。こちらからトンネルの方に対し見通しは良いが、向こう側からは視認し辛い。もし向こうから誰かが来たとしても、懐中電灯の光も固定しておけば街灯の光と錯覚することだろう。


「…………」


 体を低くしながら息を呑む。

 風が妙に生暖かく感じて心臓の高鳴りが五月蠅かった。


 来るなる来るな来るな来るな来るな――!


 必死で心の中で叫ぶ。

 だが――、


「ん!?」


 足音がした。それもトンネルの方から。


「マジか。マジで来たか!?」


 自分達が放つ光とは別に新たな光がトンネルから漏れている。間違いなく何者かがこちらの世界へとやってきているのだ。

 激しく興奮する悪友とは裏腹に自身の呼吸は別の意味で荒くなっていく。許されるなら一刻も早くこの場から立ち去りたかった。


 来ないで!

 来ないでよ!


 少年の願いは虚しくとうとう侵入者が顔を出す。


「うおおおお、人間だ! 本当に人間だ!!」

「はあぁ!? え、あ、ああ!?」


 人の姿を見るや否や悪友が興奮のあまり茂みから飛び出した。

 突然のことに驚いた人は真っ青になりながら震えた声で叫んだ。


「ば、化け物おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっ!!!!」


 人間は何度も転びそうになりながらもトンネルの向こう側へと去っていった。

 残された二人の少年の顔は人間のそれではなかった。

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週刊ショートストーリー エプソン @AiLice

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