第6話 500年目の決着

〜第六部〜


〜プロローグ〜


サイド:アルカストラ


 よう、第三位階のアルカストラだ。

今回は俺、アルカストラの視点で話させてもらう。

 ミトラは……………体調不良だ。

まあ、第二位階でもそうなる事はあるさ。

別に責めることじゃあない。

 ところで、俺は今ものすごく苦戦している。

というのも現在、大阪のとある場所で大氾濫が起こってるんだが、その中でとてつもない眷属と相手をしている。

 なんかよくわからんけど、刀を2つ持ったやけにガタイのいい筋肉質の眷属。

コイツがクソ強い。

 第三位階の俺が参加して正解だったぜ。

こんなやつを下っ端に任せてたら無駄死にしてしまう。

 なぜならその眷属は二刀流だからか隙が全く無いし、遠距離から一方的な攻撃をしようにも一瞬で距離を詰めてくるような俊敏な動きもする。

おまけに攻撃がほとんど通っていない。

 これは骨が折れると言うやつだ。

 なぜこんな素早くて防御力もあって隙もないクソ強い眷属が現れるんだ?

お前はミトラか何かなのか?

あいつもすばしっこいし攻撃力もあるし遠距離も近距離も関係ないような戦い方してくるからな。



〜第一章 再来〜



 ま、戦い方のセンスがミトラと似ているとかそんな事はおいといて。

 アイツ、どうやって倒そうかなぁ。

空に逃げて一旦距離を取るか?

 そう思い、俺は空に飛び上がる。

 奴は追いかけてこない。

占めた!

奴はやはり空を飛んで来れない。

 ここからはちょっぴり強引だが、オレ様のターンだ!

 と、俺が嵐神竜[アルカストラ]を放とうとしたとき、俺の左横すれすれを何かが飛んできた、と同時に俺は背中の翼に痛みを感じた。

その直後、俺は地面に真っ逆さまに落ちた。

 「へ?」

 何が起こったのか理解できない。

何かが飛んできた。

じゃあ何が?

 起き上がりながら後ろを振り返り、俺が見たのは………。

 「刀………………だと!」

 奴は空を飛ぶ俺目がけて刀を投げたのだ。

その刀は俺の体には命中しなかったが、翼の根本を切り取ったのだ。

 まずい。

 痛みは我慢するとして、空にも逃げられなくなったぞ。

 俺は体勢を立て直し、一歩一歩近づいてくる眷属からジリジリと距離を取る。

 が、相手は突然足を止めた。

「やはり…か。竜女(たつめ[女性の竜])が相手でなければ殺意すら湧かない。………さらばだ青年、命拾いしたな」と言い放って消えた。

 "竜女が相手でなければ"

その言葉が俺の中で何度もリフレインしていた。

 その言葉が一つの500年ほど前のとある事件に結びついた。

 たった一人の眷属が三人の上位竜の女を皆殺しにした事件(ちょっと前まで一人だけ生き延びていたらしいが)。

 となれば、彼に今回のことを話すべきだろう。

いや、話さなくてはならない。

 犠牲になった三人の竜の義弟に。



〜第二章 報告したい〜


 俺はすぐさま、ミトラの家に駆け込んだ。

 インターホンを鳴らした約10秒後、ヴィルカイネが出てきた。

 「はい?どちら様で……あっ!アルカストラさん!何か御用ですか?」

「あぁ!ミトラは?!ミトラはいないか?」

「ミトラさんなら風邪で寝込んでおりますが」

「ミトラに大至急伝えなければならない事がある!家にあげてもらえないか?」

「は…はぁ、構いませんが……」

 と言う事で、大急ぎで家に上がる。

 何度もこの家には来たことがあるので、どの部屋が誰の部屋なのかは分かる。

 ミトラの部屋は2階の奥から二つ目の部屋だ。

 俺は息を切らしながら階段を登り、ドアノブに手をかける。

 「あっ!アルカストラさん!その部屋は」

ヴィルカイネが何か言ってるが、今はそれどころではない。

一刻も早くミトラに報告し、"鬼"と思われる眷属に対する策を練らねばならない。

 俺は勢いよくドアを開けた。

 そこにいたのはミトラスフィアではなくマナリアだった。

マナリアがいるだけならまだ良かったのだが、なんと着替えの途中だったのか下着姿になっていた。

「えっ?!」

「はぁ!?」

 互いに驚いてると、すかさずヴィルカイネが「少し前に部屋替えをしたんですよ…」と今更すぎる情報を提示した。

 一瞬しか見なかったが、ものすごくエロい体つきをしていらっしゃる。

出るところはボンと出ているし、締まるところはキュッと締まっている。

 クソ…ミトラの野郎、こんな娘を嫁にしてるのか…と若干羨ましく感じた。

 が、マナリアは顔を真っ赤にして「きゃあああああ!!!!!!」と叫び、こちらに櫛やら乳液だか化粧水だかのボトルを物凄いスピードで投げてきた。

 「す、すまなかった。部屋を間違えたんだ!今すぐ出て行くから!」と扉を閉じて部屋を出ようとした時に保湿クリームの缶が俺の額にものの見事に直撃した。

全く……。

俺はラブコメの主人公か何かか?

 部屋を出た満身創痍の俺にヴィルカイネは「大丈夫ですか?」と優しく声をかけてきた。

「俺はまだ死ねねぇ……」と返しておく。

「大丈夫そうですね。あ、ちなみにミトラさんは一番奥の部屋に移動しました。あの部屋ですね」と指を指して教えてくれた。

「案内ありがとう……」

 額がまだ痛むが、これは焦りに焦った自分のミスだ。

ちゃんとヴィルカイネの案内通りに動いていればこうはならなかった。

 猛省して、今度こそミトラの扉を開けた。

 今度はハクがいた。

ミトラにお粥をあーんして食べさせようとしていたのだが、ハクは見られていると気づくと顔を真っ赤にした。

 先程の経験から非常に嫌な予感がしたのでゆっくり扉を閉める。

 ヴィルカイネは「どうしたんですか?」と言わんばかりの表情である。

 さっきから非常にタイミングというものが悪い。

 ノックさえすればこんな事にはならなかったのに。

まだ焦りが残っているのか、それともミトラの部屋だからノックをする必要もないと考えてしまったのか、またそのままドアを開けてしまった。

 俺に早く報告しなければならないという焦りがさっきから付き纏っている。

 いい加減に第二章を終わらせて第三章に移りたい気持ちもある。

 焦るな………焦るなアルカストラ……

 気持ちを切り替え、ドアをノックする。

「どうぞー」と声が聞こえる。

ミトラの声だ。

 ドアを開け、「失礼します」と挨拶する。

「なんだ?堅苦しいなぁ。俺とお前の仲だろう?」

「さっき、それでノックもせずに入ろうとして2回も嫌な場面に遭遇したんだよ」

 女の着替え中に遭遇なんてマンガの中だけの話だと思ってたし、親友があーんされてるところなんて見てて気持ちのいい物でもない。

 「さては、マナリアの部屋に凸って怒られたな。さっきの悲鳴はそれかぁ。挙げ句の果てにハクによる俺の餌付けを見にきたってわけか」

 ミトラはベッドから起き上がっている状態なのだが、左手でハクを撫でている。

 撫でられているハクはというと、先ほど見られたことがショックなのかミトラのベッドに突っ伏して顔を埋(うず)めている。

 「いや、そんなことはどうでもいいんだ。何しに来たんだい?」とミトラが言う。

 すると「どうでも………いい…………」とハクが突っ伏したまま言った。

もしかして泣きそうになっていらっしゃる?

 それも仕方ないか。

なんせあーんしているところを見られ、俺に邪魔され、挙句の果てに夫からどうでもいいと言われるのだ。

俺から見ても悲しい気持ちになる。

 でも、これに関しては俺は悪くない。

 こうなったのは全部タイミングが悪いせいだという事にして、俺はやっとミトラに説明した。

 「"鬼"だ!ミトラ!鬼らしき眷属が出てきたんだ」と報告したその瞬間、家族や友人に囲まれた幸せそうな青年の顔がまるでいくさ人のような、そんな覚悟を決めた顔になった。




〜第三章 覚悟〜


 俺はミトラに今日の大氾濫の一部始終を話し、恐らく鬼であろう眷属の事も細かく説明した。

 ミトラはお粥を食べながら黙って聞いていたが、親友である俺には分かった。

とてつもなく怒っている。

ここまで怒りを露わにしている(と言っても俺くらいの仲にならないとわからないだろうが)

ミトラは数百年の付き合いがある俺でもあまり見たことがない。

 鬼によっぽどの恨みを持っていると見た。

 とりあえず、上位竜及び守護竜の全員に鬼の情報を伝え、警戒させることになった。

少なくともこの家だけで五人の上位竜が集まっているのでここから話は素早く全体に伝わるだろう。

 「ミトラはとりあえず風邪をさっさと治せ」と俺は釘を刺しておいた。

「俺だって治せるならさっさと治したい」

「ゆっくり養生しろよ〜」

といい俺は時計を見る。

12時30分だった。

 一方で「じゃあさっさと治すか〜。そのためには栄養摂って寝なくてはな。ハク、お粥をもっとくれないか。さっきの分だけじゃ足りなかったんだ」とミトラがハクに頼むとハクは部屋から出ていった。

 すると、ミトラが再び話しだした。

顔つきはさっきのいくさ人のような顔に戻っている。

「知っていると思うが俺の姉たちはあの鬼によって殺されている。個人的な事情ではあるが、俺はあの鬼を憎んでいる。先程のアルの話が本当ならまともに戦えるのは俺かカルフィリンネかだ。だからこの俺が行く。鬼を殺(や)るのは俺だ!!

これは攻撃でもなく、宣戦布告でもなく、

姉たちを亡き者にした眷属への逆襲だ!!」

「…ミトラ………俺らの代わりに戦ってくれ。

鬼に勝てるのは君しかいない!もちろん出来る限りの援護は俺らもする。奴とのタイマンの勝敗は君次第だ。あと、最後にミュ●ツーを入れてくんな、阿呆」

「あぁ…すまん」

その時、ドアが開きハクが入ってきた。

 「ミトラ…お粥ができた」

「サンキュー」とミトラが答え、お粥の茶碗を乗せた盆を先程のようにミトラの足の上に

乗せた。

 それから「ほい」と言ってミトラは蓮華をハクに渡した。

「えっ、ミトラ?どういう事だ?」

「やりたかったんだろ?病気の俺に対してのあーんを」

 ハクの顔が少し赤くなった。

「………………わかった。やろう」

ハクはお粥を一口分蓮華で掬うとミトラの口の前まで持っていった。

 そして「ほら、あーん」の言葉と同時にミトラの口が開いた。

ハクは蓮華をミトラの口の中に入れる。

 ハクは満足そうな顔をした。

やりたかったことが出来て嬉しいのだろう。

 こっちからは見てて気持ちのいいものではなかったが(再び)。






〜第四章 ミトラスフィア復活〜


サイド:ミトラスフィア


 アルが来てから次の日、俺の風邪は治った。

俺自身の免疫の力か妻達の看病のおかげか意外とすぐに完治した。

 が、今度はハクが風邪になった。

恐らく俺の風邪が移ったと思われる。

いやはや申し訳ない(反省)

 さて、鬼についてだが、今のところ目撃情報はない。

 姿を現そうもんなら、俺が雷の速度ですっ飛んでいき、そのままゲンコツをぶちかますだけだ。

 なのに、鬼は姿を見せてはくれない。

 俺は鬼との戦闘に備えるしかやる事が無かった。

いや、ハクの看病があったわ。


 俺はタオルや冷えピタを持って、ハクの部屋に向かう。

 ハクは風邪とか病気とかにならないと思っていたのだが、そんな事もないようだ。

実際に病気の状態のハクを見た事がないのだが…。

いや、元々ハクはアルビノという病気なのだった。

 そうこう考えている内にハクの部屋に着いた。

 コンコンコンとノックすると、

「どうぞ…」という声がうっすら聞こえてきた。

 「失礼するよ」と言い、部屋に入る。

 「ミトラ?!鬼に備えておかなくて大丈夫なのか?私なんかに時間を割いて、戦いに集中出来なかったらどうするんだ」

 「大丈夫だよ。俺はそんなに柔(やわ)じゃない。やる時はしっかりやるさ」と宥めておく。

「………………」

ハクはまだ言いたい事があるみたいだったが、これ以上何も言ってはこなかった。

 俺は気を取り直してハクに言った。

「今度は俺がお前を看病する番だ。何でも言ってくれ、出来る限り力になるよ」

するとハクは力なくだが、答えてくれた。

 「分かった。ありがとうミトラ。早速だが腹が空いてしまった。何か食べ物を用意してくれないだろうか?」

「りょうか〜い。何が食べたい?」

「雑炊が食べたい。卵が沢山入ったやつだ」

「オッケー、任せろ。あ!汗かいたならタオルを持ってきたから自分で拭いてくれー」

 そして俺は台所へと向かった。

 さて料理だが俺は意外と得意である。

レシピがあればの話だが。(よって創作料理は無理。果たしてこれを料理は得意と言えるのかは謎である)

その点、雑炊は簡単に作れるし病人にも食べやすい。

 俺は棚から鍋を取り出し、冷蔵庫で保存していた昨日の残りのご飯を鍋に放り込んだ。 

そこに出汁を突っ込み、米が出汁を吸い出したら溶き卵を入れて思いっきりかき混ぜる。

いい感じに卵に火が通ったら醤油で味を整えて完成。

 何の変哲もない卵雑炊である。

勢い余って作りすぎたので、後で俺も食べようと思う。

 茶碗に盛り付け、お盆に乗せてハクの部屋に運ぶ。

 ハクは美味しそうに…は食べなかった(感情表現が得意でないから気にすることはない)が、よほどお腹が空いていたのかすぐに食べきった。

 「ご馳走様。ありがとう、美味しかった」

「あぁ、美味かったんだ。てっきり口に合ってないかと思ったのだが」

「そんな事ないが…。非常に食べやすかった」

お世辞でそんなことをいう関係でも無いし、言葉通り受け取っておこう。

 お盆と茶碗を下げようとしたところで、マナリアが部屋に飛び込んで来た。

 「ミトラ!ここにいたんだ?!さっき連絡があったの!東京の方の大氾濫で鬼が出たって!」

 1秒後にはハクの部屋に俺の姿は無かった。




〜第五章 激戦区にて〜


 二秒で俺は大氾濫の現場にやってきた。

 鬼はどこだ?

最も強い混沌の気配はどこからだ?

そこのビルを曲がったところか。

 そして俺は視認した。

間違いない、500年前の姿と同じ眷属がそこにいた。

ガッチリした肉体で、猫背。

両手には刀。

 ある中位竜と戦っているようだが、中位竜は死にかけだ。

 まず俺は中位竜を助ける事を考え、雷の速度で一気に中位竜に近づき電気に変換して電線に逃した。(この間0.2秒)

 そしてそのままの速度と勢いのまま鬼に殴りかかった。

 「ーッ!!」

やはり弾かれた。

だが、こうなる事はもう既に500年前に分かっている。

 あの時の俺とは違う。

 二撃目を鬼の腹に打ち込む!

やはり硬い!

フレイト姉さんがどれだけ拳を打ち込もうともびくともしなかったのがよく分かる。

 「ほう、一撃目を弾いて尚、攻撃してくるか」

鬼はそう言って、俺から一度距離を取った。

 「こちとら500年前にお前の戦い方を見てるんだよ!ようやく姿を現しやがって……」

 鬼は一度俺のことを睨むと思い出したように言った。

 「お前はあの四人の竜女といたガキか…。あの時逃したもう一人の竜女はいないのか?俺の片腕を吹き飛ばしたあの忌々しい女と戦えたらいいと思ったのだがな」

 どうやらトルーナ師匠と戦いたいようだが、"今は"俺で我慢してもらおう。

 「知ったことか!!!!」と俺は叫び爪を伸ばす。

 一気に距離を詰めて、爪を振るう。

相手も刀で防御する。

 鬼に攻撃させないというのが、今回俺が考えた作戦だった。

防御一点では俺に攻撃できない。

そのうち痺れを切らして攻撃に転じた鬼の隙をつく。

 これならワンチャンいけるだろうと考えたのだ。

 「ぬぬぅ………」

鬼もイライラしてきている。

 が、一つ懸念事項がある。

それは鬼が攻撃してこないことである。

つまりは鬼が辛抱強く待ち続け、俺のスタミナが無くなってきたころでようやく攻撃してくるかもしれないという事だ。

そうなったらスタミナのきれた俺はまともに戦えなくなる。

 言わば鬼が痺れを切らすか俺の体力が無くなるかの我慢比べ。

 流石に俺のスタミナがすぐに切れる事はないがそれだけではあまり得策ではない。

 では、何のために今この状況にしているか?

その答えは時間稼ぎだ。

ある強力な助っ人を呼ぶには少し時間がかかる。

 ただ、俺は少なくともその助っ人が来るまで耐えればいい。

 その時、鬼の斜め上方向からビームのようなものが飛んできて、鬼の体に命中した。

 鬼を倒すには至らないが、ダメージにはなっただろう。

 「何者だ?!」

鬼はビームが飛んできた方向を見て叫んだ。

 「ようやく来やがったか」と俺は呟く。

 鬼の視線の先にはビルの屋上からこちらを見下ろすトルーナ師匠がいた。



〜第六章 敵討ち〜


 「あの女、あの時このガキと逃げた女か」

トルーナ師匠はビルの屋上から飛び降りて、翼を上手く使いつつ着地した。

 なぜ師匠がやってきたのか?

それは俺が連絡したから。

いつ連絡したかって?

俺が助けたあの死にかけの中位竜を電気にして電線伝いで送ったのは師匠の家。

 結界竜の師匠なら死にかけの竜を治療出来るし、治療した竜から鬼の事を聞けば俺と同じようにすっ飛んでくるだろう。

 さて、1対2になったので勝機は増えたが、この鬼は1対4でも殺せず、逆に3人の竜を葬った眷属である。

決して数でこの戦いを制するとは限らない。

 だが、援護してくれる竜が増えただけでも正直ありがたい。

俺は鬼に接近して近距離から叩く。

師匠は遠距離から結界を展開しつつ叩く。

 そうして俺らは鬼のペースを崩して攻撃を確実に当てていった。

 「クソっ!このガキが!!!!ただの傍観者だったくせに!!」

「500年前とは訳が違う。俺は成長したんだ」

 パワー、スピード、スタミナ。

どれをとっても500年前よりも成長して強くなっている。

 あの時はただ傍観しているだけだったこの俺は鬼との戦いを渡り合えるほど変わったのだ。

 ただ………。

 「ほう、成長した…か。確かにその通りだ。だが、それはお前だけではない!」

「何!?」

「俺も500年もの間で成長したのだ!」

 すると鬼の背中からさらにもう2本、腕が生えてきた。

やはりそれらも刀を持っている。

つまり…。

四刀流になっただと…!

 「あの火を扱う竜女は恐ろしく近接戦に強かった」

フレイト姉さんの事だ。

 確かに当時、幼かったとはいえ俺はフレイト姉さんに近接戦で勝てた事は無かった。

 「あの女は俺にまだまだ未熟であると自覚させた。だから俺も傷を癒す一方で攻撃にさらに特化するよう腕を増やすことにしたのだ。自分の体を改造するのは思ったより時間がかかったがな」

 なるほど、500年間姿を現さなかったのはそれが原因か。

 それとは別に一つ気になった事があったので鬼にダメ元で一つ質問した。

 「一ついいか?なぜお前は姉たちを影界に連れて行ったのだ?」

「あの女達か…。よかろう、冥土の土産として教えてやる。表向きは捕虜として連れ去ったのだ」

「本当の理由は何だ」

「犯すためだ」

「は?」

一瞬訳がわからなくなった。

が、構わず鬼は話を続けた。

「俺は元々、女を抱きたいという欲望から生まれた混沌の眷属なのだ。長きの時を経てその欲望が強まり眷属としての強さも手に入れた。

だがそれにつれてやはり本能というものか、本来持って生まれた欲求に逆らえなくなった。そう、元々は女を抱きたいという欲求だったが、混沌の力が強まるにつれて女を犯したいというさらなる欲求に変わった」

「それで………それで姉たちを辱めたというのか!!!」

「そうだ。今まで色んな女相手にしてきたがあの三人の竜女は格別だった。中でも火の竜女は強さ的にも女的にも素晴らしい肉体の持ち主だった。あの女に敵うのはそうそういまい。あそこにいるお前と逃げた結界の竜女はどんな感じなのだろう…。ぜひ味わいたい」


 俺はキレた。



〜第七章 激怒〜


 それからはあまり覚えていない。

なので、師匠に説明を託す。


サイド:トルーナ


 ミトラは突然攻撃をやめたかと思うと、鬼と話し込み始めた。

 お互いに距離をとり、ただいつでも戦いを再開できるように警戒はしていた。

言わば冷戦のような状態。

 残念ながらこちらまで声は届かなかったので何を話していたかは分からなかった。

 すると突然、"ミトラが"鬼のような形相になり、鬼に雷が落ちた。

決して比喩ではない。

本当にミトラと鬼、そしてその周りに何発も雷が落ちたのだ。

 よくわからなかったが、攻撃が再開されたのだと思い、私は結界を直ぐに展開して鬼に向けて撃った。

 そこからは私も仰天した。

なんとミトラが竜形になり空を飛んだのだ。

 草原のような開けた場所ならまだ竜形になるのは分からなくもない。

だが、こんな狭い街中で?

 だが、我々が竜形になるときに示す事は一つ。

 敵を"全力で"潰す。

これだけだ。

ミトラは鬼を全力をもって潰すという意思表示したのだ。

 案の定、ミトラは雷神竜[ミトラスフィア]を撃つ準備をしている。

 鬼は一気に跳び上がり、ミトラに刀を4本とも突き立てる。

 だが、ミトラは気にしていない様子で雷神竜[ミトラスフィア]を撃った。

 それも一発だけではない。

何発も何発も何発も何発も撃ち込んだ。

 鬼に何度も雷が落ち、辺りのビルが削れていく。

 ただでさえとんでもない威力の最高位魔法を何発も撃ち込むなんて正気の沙汰では無い。


 気づくと鬼はボロボロになっており、何とか立っているという状態だった。

 トドメにミトラは爪を鬼に突き立てた。

 鬼は倒れてグッタリしていたが、だんだん形が崩れて消えていった。


 勝った。

鬼をやっと倒したのだ。

500年もの間の悲願がやっと叶ったのだ。

 それもこれもミトラのおかげか、たまにはアイツを労ってやってもいいかもしれない。




〜エピローグ その後〜


サイド:ミトラスフィア


 目が覚めると、師匠に膝枕されていた。

嬉しいとか恥ずかしいという気持ちよりも、なぜ師匠が膝枕なんてするのか驚いて仕方がなかった。

絶対いつもなら地面に転がしているのに。

 でも後々考えてみると、もしかしたら師匠も嬉しかったんだと思う。

鬼が倒されて、家族の魂もこれでようやく解放されたようなものだから。

 俺は師匠に礼を言った。

でも師匠は「私は何もしなかったし、出来なかった。奴を徹底的にやっつけたのはお前だ」といって手柄を全部譲ってくれた。

 後方支援してくれた師匠のおかげで、思う存分動けたのだと自分は思うのだが。


 家に帰ると妻たちが出迎えてくれた。

マナリアに関しては「もう帰ってこないかもと思っていた!」と言われた。

いや、信用とか全然ないのか……orz。

 俺はハクの部屋に行き、途中で色々投げ出して鬼と戦いに行ったことを謝った。

 ハクは快く許してくれたが、また今度お詫びに飯でも連れてってやろう。

 

 こうして、500年の時を経て鬼との戦いを終えた。

 鬼はいなくなったが、混沌の眷属がいなくなったわけでもない。

 もしかしたら鬼レベルの強さを持つ眷属が出てきてもおかしくない。

 まぁ、その時はまたみんなでぶちのめすとしよう。


 竜族よ!永遠なれ!



       〜第六部 完〜

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竜ですが人間を守るために命を懸けて戦ってます 雷烏賊 @kaminariika

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