第5話 ヘルリサーチャー

〜第五部〜


〜プロローグ〜

 

 よぉ!毎度お馴染みミトラスフィアだ。

え?しつこい?またお前かよ?ハクの方が良かった?ヴィルカイネちゃんを出せ?マナリア様の声が聞きたい?

 おうおう、なんだお前ら?!

文句ばっかり言いやがって、そりゃあ俺みたいな野郎が話すよりもかわい子ちゃんの方がいいのは分かるぜ。

 だからってこの罵詈雑言は何なんだよ!

ハクやマナリアに関しては前回かさらにその前で味を占めた奴らがやって来たのか?

 おい、ちょい待て。

何でマナリア推しは様付けなんだよ?

アイツほとんど何にもしてないのに…

ちょろっと登場しただけじゃねえか

 まぁ、刺さる奴には刺さるんだろな。

ただ、アイツら全員俺の嫁なんだけd……(殴


 

 と、ハクとかマナリアとかヴィルカイネとかのファンクラブの奴らに殴られたところで、今日のお話。

 今日はヘルリサーチャーの話をしようか。


 「ほう、再びヘルリサーチャーの旅路を辿ると言うのか。面白い」と話に首を突っ込んできた第三位階 アルカストラを一発しばくと俺は話に戻る。

 なんだっけ?あぁ、そうだ。

ヘルリサーチャーの話だな。

 ヘルリサーチャー………訳せば「地獄調査員」と言う意味になるが、ここでいう地獄とは何かを説明しよう。


 この世ではないどこか、別の次元と言った方がいいかも知れないが、そこには混沌の眷属たちの集まる世界がある。

 我々竜族はその世界の事を「影界」と呼んでいる。

 影界には眷属どもがウヨウヨ存在している。

中には、その強さゆえ影界からは出られないほどの大物もいる。

 そして基本的には、眷属は混沌を求めて影界からやってくる。

 来る方法は主にワープのような感じだ。

ただ、普通の眷属達はこの世界に来る時、特に何も起きないが、"鬼"クラスのやつが来るとこの世界と影界を繋ぐゲートがひらく。

確かに鬼が来た時も黒い半円状の物が宙に浮いていた。

 ちなみに、ゲートはしばらく開いたままになるのだが、そのゲートを通ると影界に行くことができるのだ。

 そう、ヘルリサーチャーとは影界に行き、生きて帰ってきた竜のこと。

今から話すのはそのことだ。

 さて、ヘルリサーチャーについては本人をよく知る人物である"盾の姉ちゃん"こと、トルーナ師匠に語ってもらいたいと思う。

 じゃあ師匠!あとはよろしく!




〜第一章 奪還作戦〜


サイド:トルーナ


 ご機嫌よう、諸君。

私は守護竜 トルーナだ。

 さて、今日はヘルリサーチャーの話をしようと思うのだが、何故ミトラ自身が話さないのか謎だ。

 私の場合、ヘルリサーチャー本人から聞いた話の受け売りになってしまうのだが………

 まあいい、早速始めよう。


 ある日の真昼間に、"鬼"と同じくらいの強さの眷属が現れた。

 上位竜をたくさん集め、総出で対応したことから難なきを得たが、"ゲート"が開いている状態だった。

 何とそこから一人の眷属が飛び出し、一人の上位竜を捕まえて、ゲートの中に引きずり込んだ。

 一瞬の出来事だったのだ。

誰も対応なんて出来やしなかった。

 それから上位達はどうするべきか話し合った。

仕方ない事だと犠牲にしてしまうか、無理をしてでも助けに行くべきか。

 そこでヘルリサーチャーは自分が影界の探索をしたいと言いだした。

 私を含めた大勢が「無茶だ」とか「やめておけ」といったが、彼は聞く耳を持たずに

ゲートに飛び込み、影界へと消えていった。

 私たちはもうただ呆然としていた。

誰も彼の後を追う者はいなかった。


 ここまでの話は私もいたからその通りなのだが、ここからの話はヘルリサーチャーの受け売りなのだ。

 だから、正直言って信憑性がない。

でも、それは仕方のないことだ。

なぜなら影界に行って死なずに帰ってきたのは今まででヘルリサーチャーただ一人だけだったのだから。




〜第二章 深淵へ〜


サイド:トルーナ

(ただし、トルーナは語り部であるだけ)


 ゲートをくぐると、古い和風の廊下へ出た。

廊下は廊下でも、回廊のように長いし、入り組んでいる。

闇雲に進んでも迷うだろう。

 明かりはついていないが、竜は夜目がきくので何もかもが全く見えないという事はない。

 ヘルリサーチャーは眷属に警戒しつつ、回廊を進んだ。

 所々に部屋があり、部屋の中には畳が敷かれている。

部屋によっては箪笥もある。

 ヘルリサーチャーは箪笥の中でたまたま見つけたライターに明かりを灯し、一息ついた。

 明かりがここまで心を落ち着かせるものか、とその時に感激したそうだ。



 回廊を進んで10分ほどするととてつもない眷属の気配を回廊の先から感じた。

ヘルリサーチャーはこの時、あまりの眷属の気配を前に"勝てない"と悟った。

刻一刻と時間が経つにつれて眷属は近づいてくる……


ヘルリサーチャーは部屋に隠れ、自分から発せられる魔力を隠し、息を殺した。



………………通り過ぎていった。

 ヘルリサーチャーは一息つき、連れ去られた仲間を目指した。

 が、ヘルリサーチャーはふと思った。

この回廊、永遠に続いているのでは?

連れ去られた竜の魔力を目指したところで辿り着けないのでは?

 その不安を押し殺すようにしてヘルリサーチャーは進んだ。

 途中、何度か眷属に見つかりかけたが、なんとか隠れてやり過ごした。

 中には疑り深い眷属がいて部屋の襖を開けて部屋の中を確認してきた。

その時は、瞬時に置いてあった巨大な行李(竹や柳などで編んで作る蓋付の籠)の中に隠れた。

 部屋を見ていた眷属はへとくに異常は見当たらないと判断して去っていった。


 少し進むと回廊は広い部屋と繋がっていた。

 部屋の真ん中には水晶玉が置かれている。

気になったヘルリサーチャーはその玉に触れた。

 次の瞬間、ヘルリサーチャーは眩しい光と共に回廊から姿を消した。



〜第三章 失われた佳景〜


 光と共に回廊から姿を消した後、ヘルリサーチャーはと言うと、外に来ていた。

 もっとも、外とは言ってもそういう風景なだけで、影界にはそんな概念はないのだろうが。

 見たところ林のような所である。

 影界のくせに日が昇っている。

 道はあるが曲がりくねっており、先が見えない。

 ヘルリサーチャーは「なんだここ」と言わんばかりの面持ちだっただろう。

 とりあえず、道なりに進む。

するとすぐに林を抜けた。

 「これは………」

 そこからは聳え立つ五重塔や寺、神社、おまけに旅館を思わせる館が遠目に見えた。

 しかし、ただの建築物ではない。

 やけに大きい。

五重塔はもちろん、建築物という建築物がデカい。

 大きさは現実のものと比べて10倍はあるだろうか。

 まるで自分が小人になったようである。

「素晴らしい……」

 ヘルリサーチャーはその景色に感嘆の声を漏らした。

 何倍もの大きさで存在感を放つ建築物。

それらもただそこにあるわけではなく、見事に自然と調和している。


 その絶景に見とれていたヘルリサーチャーはハッと目的を思い出した。

 連れ去られた竜の救出である。

 魔力を探ると、ちょうど巨大な建築物群のところに反応がある。

 早速ヘルリサーチャーは、空を飛んで向かった。



 建築物群の端の方に巨大な鳥居があったので、ヘルリサーチャーはその前に降り立った。

 周りに眷属の気配はない。

ヘルリサーチャーは少し不思議に思った。

と言うのも、ここは影界である。

 眷属の本拠地なのだから、眷属がウヨウヨいてもおかしくない。

 なのに回廊を出た以降、眷属に出会わないのである。

 嵐の前の静けさなのかは分からないが、とにかく警戒しつつ、ヘルリサーチャーは鳥居をくぐった。



〜第四章 逆さ歌〜


 ヘルリサーチャーは鳥居をくぐった後、魔力の位置を探りながら、歩を進める。

 綺麗に敷き詰められた石畳の上を歩き、辺りを見回す。

 特に目立ったものはないが、ふと空に目をやると先ほどよりかなり日が落ちている。

 時間の流れが現実世界よりも早い………

だが竜は夜目もきく上、そもそも夜行性なので特に問題はない。

 そう思い探索を続ける。


 十分もすると、日は落ちて星が見え始めた。(もちろん影界には星なんていう概念も無いのだろうが)

 するとどこからともなく歌が聞こえ始めた。


えらあねむおそのりす

あってぶさげまこつる

いんなぼねかお

うらいぇづちうち

あひろとなかののが

えもがく えもがく


えらあねむおそのりす

あってぶさげまこつる

いんなぼねかお

うらいぇづちうち

あひろとなかののが

えもがく えもがく


 まるで意味がわからない。

 とりあえず、ヘルリサーチャーは道から外れて、近くにあった建物の影に隠れた。

 すると仮面のようなものを被った眷属が、やはり歌を歌いながらやってきた。

 だが、ただやってきただけではなかった。

速度は遅いが、ヘルリサーチャー目掛けて近づいてきていたのだ!

 もちろんヘルリサーチャーは魔力を駄々漏らしにしていないし、気配だって消している。

なのに、眷属はゆっくりと、ゆっくりとだが確実に近づいてくる。

 ヘルリサーチャーはさらに道から外れて建物沿いに奥へ突き進んだ。

 だが、仮面を被る眷属はそれすらも分かっていたかのように追跡してくる。

 「まさか…見つかっている?!」

ヘルリサーチャーにはそれ以外考えられなかった。

 そこで、新たな事にヘルリサーチャーは気づいた。

あちらこちらから歌が聴こえるのだ。

重なって歌っているからか分からなかった。

 ヘルリサーチャーは建物の角から顔を少し出した。

 「ーッ!!」

 数が多い!!

ザッと見ただけで20体はいる。

 その眷属達は全て、一匹残らずにヘルリサーチャーを目指して近づいてきている。

 影界では眷属一体一体の強さもそれなりにある。

数体程度なら勝てるだろうがそれが20体以上も押し寄せてきているとなると話は別だ。

 戦って勝てるはずがない。

 ここまでか………

 せめて最後に妻に……家族に愛してると伝えたかった。




〜第五章 邂逅〜


 ヘルリサーチャーは死ぬ覚悟を決めた。

ヘルリサーチャーはあの大勢の眷属を相手に戦うつもりでいるのだ。

 誇りをかけて戦い、誇りと共に敗れ去る。

これこそがヘルリサーチャーの死の覚悟の表し方である。

 とりあえず、眷属達の前に出て戦おうとした。

 だが、突然旅館のような建物の中から

 「こっち、ついて来て!」と少しだけ響く声をかけられた。

 ヘルリサーチャーはその女性の声に聞き覚えがあったがそれどころではなく、突然のことに呆然としていた。

 しかしヘルリサーチャーは戸惑いながらもとっさに旅館の裏口の方から中に入った。


 「ッ!嘘だろ!」

中に入り、左足が義足(そうは言っても簡単な作りのものだが)の女の姿を見て、ヘルリサーチャーはこれは幻だと思った。

 女の正体は、ヘルリサーチャーの姉だった。

姉と言ってもあくまでも義理の姉ではあるが

、その姉は数百年前にとある眷属との戦いで死んでいるはずである。

なぜ、ここにいるのか。

やはり影界(ヘル)というだけあって死人がやってくるのだろうか。

とか、考えていると歌が相当近くから聞こえてきた。

まずい、姉との再会で眷属の事を完全に忘れていた……

 すると姉は地下にヘルリサーチャーを連れて行った。

地下に行くと首がない女の死体が一つと胸に穴の空いた死体が一つあった。

 ヘルリサーチャーにはすぐに分かった。

もう2人の姉である。

こちらは完全に絶命しているようだ。

 姉は事細かに事情を説明してくれた。

「2人の身体に少しずつ魔力を流して結界を張ってたんだ。そうする事で眷属が地下に入ってこれないようにしてたんだ。死体を利用している様で本当に申し訳ないんだけど」

「そうなのか。いや、それはいいんだが……なぜアンタが生きているんだ?アンタは死んだはずだ」

「…アタシも死んだと思ったんだけどね、君たちが逃げてから瀕死の状態だった私は眷属によって影界に拉致されたの。それからずっと何百年もここにいる」

「…………………」

 ヘルリサーチャーは数百年ぶりの最愛の姉との再会に目が潤んだが、すぐに目的を思い出した。

「そうだ、姉さん。ここに竜が一人来なかったか?ゲートにひきづり込まれた奴がいるんだが、そいつを助けに俺はここに来たんだ」

「…いや、悪いけど私は見てないや」

「そうか………」

「多分だけど、その竜はもう生きていないと思う。こんな場所だし、アタシを連れ去った眷属と同じくらい強い奴が普通にいる。とてもじゃないけど生き残れないよ」

 確かに、俺たちはこの結界の中にいるからこそ安全なのであって、結界の外にいるその竜はもう………。

 ヘルリサーチャーは気を落として考え込んだ。

が、ヘルリサーチャーの中ではもう答えは決まっていた。

 「姉さん、俺は連れ去られた竜の命を助けにきた。でも、もうこんな状況ではやはり助けられそうにないだろう。だからと言ってこのまま一人でノコノコと帰るわけにも行かない。一緒に帰ろう、姉さん!二人ならきっと奴らから逃げ切って帰れるよ!」

「………………」

「姉さん?」

「ここからは滅多に帰れないよ。多分だけど君が入ってきたゲートはもう閉じてるし、次にどこのゲートが開くか全く分からない。

もうここからはそう簡単に出られないと考えといた方がいいよ」

 ヘルリサーチャーはその話を聞いて、血の気がひいた様に真っ青になった。



〜第六章 探検、そして戦闘〜


 ヘルリサーチャーは魂の抜けた様になっていた。

なにせ、帰れないのである。

 影界に来る前に考えとけよとツッコミたくなるが

 よくよく考えればわかる話だったはずだ。

姉は数百年もの間、影界から出よう出ようと道を探したはず。

それなのに未だに出られていないという事は………。

 「道は無い…か………」

「うん、チャンスがあるとすればかなり強い眷属が生み出すゲートだけかな」

 それに関しては待つしかないらしいな。

仮眠でもとりながら待つとしようか。



 ということで仮眠を取り終わったので起き上がる。

 結界の外に出て確認すると朝になっている。

どうやら影界の眷属達も活動するのは夜らしいので今の時点で外は安全だろう。

気晴らしに外へ出るとしよう。

 今日は五重塔までいってみるかとヘルリサーチャーは考えて空を飛んでいった。

すると、後ろからその姉が翼をはためかせながらついてきた。

 「おはよー」

「おはよう。姉さん」

「どこか行きたいところでもあるの?」

「少し五重塔が気になってね」

「あぁ、あそこ?やけにデカいくせに中はほとんど空っぽだよ」

「それでも気になるよ」

 五重塔は五階建てのように見えるが、実はあれは見掛け倒しで一階部分にしか床がない。

つまり残りは吹き抜けである。

それはヘルリサーチャーも知っていたが、10倍もの大きさなのでやっぱり何かあるのでは?と思ってしまう。

「ふーん。ま、いいんじゃない?」

 ということで、五重塔の前にやってきた。

 やはり目を引くのはその大きさ。

現実のものでも高さがあるのに、その10倍もの大きさがあるその塔はどこか威圧感がある。

 「本当に入るの?アタシがきた時には中に眷属がいたりしたんだけど…」

そんな事は早く言って欲しいとヘルリサーチャーは思った。

もう五重塔の目の前に来てしまっているじゃあないか……。

 影界の眷属は強いのであまり鉢合わせたくないが、まぁせっかく来たので入る事にした。

 中に入ると眷属が10体ほど…

ヘルリサーチャーはその中の一体に殴りかかる。

 硬い岩を殴った様だった。

やはりあまり攻撃は効いていないようだ。

 姉も炎を扱いながら、敵を殴っていたが、やはり効果は薄い。

 なんだかんだでヘルリサーチャーは敵を殴り倒し、次の敵に向かう。

これを繰り返すのは骨が折れるが仕方ない。

時には数体まとめて相手をしなければならない。

 ヘルリサーチャーも敵の攻撃をかわしていたが、顔面に一発打撃を受けてしまった。

 だが、こんなのはかわいい方だ。

姉はというと相当苦労して戦っている。

左足は義足な上に左腕がない姉にとって、この状況はかなり不利だろう。

 眷属もそれを分かっているのか、大勢は姉を狙っている。

 ヘルリサーチャーは姉を庇いつつ戦った。

「もう逃げよう!これ以上は君も死ぬ!」

君"も"?

 訳が分からなかったがとりあえず逃げる事にした。

 よくよく考えれば、ヘルリサーチャー達には戦う理由はない。

ただ探検したかっただけである。

守るべき人間たちもいない。

 ヘルリサーチャーは姉を抱えて五重塔の出入口から飛び出した。




〜第七章 訣別〜


 眷属達はヘルリサーチャー達を追って五重塔から出てはこなかった。

 一応五重塔から距離を取ろうとしたところでヘルリサーチャーは気づいた。

 姉を抱えている手がやけに熱いし、姉が息絶え絶えになっている。

 そこでヘルリサーチャーはさっきのセリフを思い出した。

"これ以上は君も死ぬ"

 まさかとヘルリサーチャーは思った。

姉を寝かせ、手を見ると真っ赤に染まっていた。

 姉のお腹が綺麗に切り裂かれていた。

かなり傷が深い。

姉はこんな状態で戦い続けていたのか。

 眷属がいるかもしれないという話になったところで、ハンデをもつ姉のことを考えるべきだったとヘルリサーチャーは後悔した。

 「すまない姉さん!今治すよ!」

ヘルリサーチャーが治癒結界を使い、治そうとしたが、姉が口を開いた。

 「君はトルーナじゃないから……この傷を治すのにも苦労して……きっと疲弊する。……二人が……弱っているところを…襲われたら……………どうするの…!」

「でも………でも!」

 「いい話が…一つある」

すると姉はとんでもないことを口に出した。

 「この影界で……ずっと過ごしていて………分かったことがある。奴ら眷属は…影界に連れ去ってきた竜の命を犠牲にして…ゲートを作っていたんだ。それがゲートが開く本当の条件…分かる?アタシを殺して……帰りなさい」

「嫌だ!姉さんを殺してまで帰りたくない!もう身内が死ぬところはこれ以上見たくないよ!」

「我儘を…言わないで」

「嫌だ嫌だ!俺は姉さんと一緒に影界から逃げるんだ!せっかく再開したのに……」

 ヘルリサーチャーは泣きながら姉に訴えた。

 しかし、姉の意見は変わらなかった。

 「早く……逃げなさい。もし、あなたが…アタシを…殺さないなら…………アタシが…自分で!」

「駄目だ!姉さん!」

「…………………………」

 ヘルリサーチャーは嗚咽しながらとうとう言った。

 「分かったよ………。俺が………殺るよ」

そういうと姉はにっこり笑って言った。

「愛してるよ。"ミトラ"………元気にしてるかは…分からないけど…トルーナに……よろしく伝えてね」

「あぁ…俺も愛してるよ。フレイト姉さん」

 ヘルリサーチャーは手を振り上げ、彼女の首を斬った。

 するとその真上にゲートが開いた。



〜エピローグ 帰還〜


 ヘルリサーチャーことミトラスフィアはそうして帰ってきた。

 その後、ミトラは私のところに訪ねて事の経緯を一から説明した。

 初めに聞いたとき、私は動揺を隠せなかった。

あのフレイトが生きていたのだ。

 私に事情を話した後、ミトラはしばらく様々な竜からヘルリサーチャーというあだ名で呼ばれるようになった。

 影界から生きて戻ってきた初めての竜。

その存在が竜の中で噂になったのは言うまでもない。


 全く………。

何でミトラ自身でなく私が話をしなくてはならないのだ………。

自分で話せば良かろうに。

 最後にもう一つ話しておく。

最初に信憑性が無いと言ったが、私にはこれが嘘であるようには思えない。

なぜなら、ミトラは3人の竜の遺体を持って帰ってきたからだ。

 クレーツ、シルレラルド、フレイトの三人の遺体は、私達が住んでいた小屋(今は取り壊されてもう無い)があった場所に埋葬した。

きっと彼女達にとって一番安らげる場所だろうから。



      〜第五部 完〜

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