手抜き和風味付けトマトパスタ

秋山機竜

コンテストの意図では、料理にちなんだ物語を作れとあった。だがあえてレシピを掲載したエッセイで勝負するパンク精神

 料理研究家リュウジとのコラボコンテストが開催決定したとき、俺はこう思った。


「そうだよ、カクヨム、俺が求めてるコラボ企画って、こういうのだよ!」


 カクヨムは、角川の経営する大手サイトなのだから、小説〇になろ△ではできないような企画をバンバンやっていけばいいと思うのだ(諸説あると思います)


 ついでにいえば、前回行われた「赤いキツネと緑のタヌキのコンテスト」は本当によかった。


 あのコラボコンテストは作者としては参加していないのだが、読者として参加していた。同じ題材なのに、各作者の解釈や味付けが全然違っていて、個性の煌めきみたいなものを感じた。


 こういう感じのコンテストなら大歓迎なので、これからもやってほしい。


 さて、前置きはこんなところにして、今回のコラボコンテストの話題に入ろう。


 なにを隠そう、俺は普段、料理研究家リュウジの動画を、ぼちぼち見ている。


 俺は、典型的な独身男性の手抜き料理好きだ。やたら手の込んだ料理は作らないし、正直めんどくさいとも思っている。だが、自炊そのものは嫌いではない。気が向いたときは、お菓子だって作る。


 たぶん、リュウジという男も、プライベートで自炊するときは、俺と同じ思考パターンのはずだ。


 なぜそう思ったかというと、彼のレシピ動画で、もっとも情熱を感じる内容は『手を抜きつつ、しかしそこそこおいしい料理を作るとき』だからだ。


 その代表例は、鶏肉とサッポロ一番塩ラーメンを組み合わせたレシピだった。


 ざっくり説明すると、鶏肉を酒の蒸し焼きにして、それから塩ラーメンを投入して、調味料で味付けしていく。


 もっと細かい内容に関しては、各自でチェックしてほしいのだが、とにかくこの日本酒で肉を焼いていくスタイルは、俺もいろいろな料理でやってきた。


 酒・アジシオ・ほんだし。


 極論をいえば、この三種の神器さえそろえば、どんな料理だっておいしくなるはずだ。


 俺の料理コンセプトは【そこそこ良い味で、栄養たっぷりで、かつ手抜きができること】である。


 この思考回路の最適解は、三種の神器を使って野菜を煮込むことだ。


 もし肉も食べたいと思ったら、ここにウインナーを追加すればいい。和風ポトフの完成である。もし塩気が足りないと思ったら、味噌でも醤油でも入れればいい。料理なんてダシと塩気がそろえば、なんだっておいしいのである。


 なんてヨタ話をしたが、このエッセイで紹介したいレシピは、ポトフではない。

 

 パスタだ。


 本来洋風の料理であるパスタを【日本酒・アジシオ・ほんだし】で作ろうという話である。


 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎


 用意する材料だが【パスタの乾麺・にんにくのかけらを二つ分・唐辛子を輪切りにしたやつを好みの量・大玉トマトを複数(個人的には、トマトの数は多ければ多いほどおいしくなると思っているが、現実的ではないので、一人分あたり大玉トマト二つか三つだと思ってくれ)

 

 パスタの種類だが、地元の小売店で売っている安売りのやつでいいし、太いのだろうと細いのだろうと関係ない。どうせ体内に入る栄養素は一緒だし、味に大差はない。


 材料を用意できたら、調理に入ろう。


 まずはフライパンに油を敷いて、加熱する。このとき油の種類だが、サラダ油でいい。もし味にこだわりたいと思ったら、オリーブオイルを使ってくれ。サラダ油よりも、ちょっとだけおいしくなるぞ。


 さて、フライパンの油が適応になったら、ニンニクと唐辛子を投入する。


 本来、料理のお手本だと、ニンニクは焦がしてはいけない。焦がさないで加熱したほうが、風味は残るし、味の鮮度も保たれるからだ。たとえばペペロンチーノを作るときも、ニンニクを焦がすのは素人のやることだとイタリア料理人がいっていた。


 しかし、この料理の場合、あえて焦がしたほうがおいしい。理由は俺にもよくわからない。なぜか焦がしたほうがおいしいのだ。味付けが和風だからだろうか? それとも俺の舌の好みにあっているからだろうか?


 まぁ原理はわからなくても、料理が成功することはあるから、気にしないで調理しよう。


 ニンニクと唐辛子が良い感じに加熱できたら、いよいよトマトを投入する時間がやってきた。


 ちなみにトマトだが、皮付きのままカットする。さすがにヘタは取るのだが、しかし皮がついたままのほうがおいしい。


 この料理を作り始めたころは、トマトの皮をいちいち剥いていた。だがある日、間違えて皮付きのまま調理したら、酸味が強烈に出ておいしかったのだ。


 それに皮をつけたままのほうが、リコピンをたくさん摂取できるから、食材を無駄にしないという意味でも、お得だ。


 さて、トマトを皮付きのまま適当なサイズにカットして、フライパンに投入したら、ニンニクと唐辛子の染み込んだ油を絡めていこう。


 しばらくしてから、日本酒を投入する。投入する量だが、計量なんてめんどうなことはしないで、ざばっと注げばいい。どうせ加熱するうちにアルコール分は飛んでしまうので、ダシが濃くなるかなぁぐらいの感覚でいい。


 こうやって日本酒でトマトを煮込むことで、だんだんトマトが溶けて液体になっていく。そうしたらほんだしを入れよう。だいたい小さじに二杯か三杯ぐらいだ。


 実はもうこの時点で、すでにおいしい液体になっている。


 焦がしてあったニンニクと唐辛子の辛み、そこにトマトの酸味と、日本酒の奥深い味と、ほんだしの魚介系の味が混ざって、うまいトマトスープになっているのだ。


 だが、これだけだと、パスタと絡めたときに、ちょっと味が薄くなってしまう。


 だからアジシオで塩気を調整していく。


 このとき大事なことは、味見をしながら入れていくことだ。


 料理研究家リュウジも動画内で語ったことだが、ほんだしには塩分も入っているから、アジシオを入れすぎると、しょっぱくなってしまうのだ。


 こうやってアジシオを適量入れて、自分の舌にあう濃さになったら、あとは茹でたパスタにかければいい。


 たったこれだけの手順で完成である。


 さらさらした液体なので、普通のパスタというより、スープパスタに近い舌ざりになる。


 だからパスタを食べ終わって、お皿にトマトスープが残っていたら、飲み干したほうがいい。おそらく読者は驚くことだろう。トマトって、塩味だけでこんなにおいしくなるのかと。


 なおあくまで手抜き料理なので、栄養素が足りていないことを忘れないでほしい。あくまで一日三食食べるうちの一品として考えておけば、残り二食を肉料理や魚料理なんかで補えるだろう。


 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎


 手抜き料理が完成したところで、この料理を作るようになった経緯を紹介しておこう(ただのレシピ紹介だけだと、カクヨムの求めているコンテストの条件を満たしていないので)


 元々は、俺の母親が作っていたものだ。


 だが母親が作っていた時代は、ここまで下味にこだわっていなかった。家庭菜園で余ったトマトを、賞味期限が切れる前に処理するための料理だった。だからトマトをただ煮詰めて、塩だけ入れて、パスタにかけるだけだった。


 子供時代の俺は「なんかちょっと味が足りなくない?」なんて生意気なことをいって、母親を怒らせていた。本当にすいませんでした。


 あれから時が流れて、俺は三十代独身男性になって、料理に目覚めていた。


 料理に目覚めたから、母親から家庭菜園とトマトパスタを継承することになった。


 おそらく各家庭ごとに、基本的な料理をアレンジしたレシピがあると思うのだが、俺は子供時代の不満を払拭すべく、手抜きパスタにアレンジを加えることになった。


 まずは、ニンニクと唐辛子で、アクセントを追加した。だがまだベースの味が足りなかった。


 そこで日本酒とほんだしを混ぜることで、下味を強化した。


 なぜパスタなのに、洋風のワインとコンソメではないのかといえば、どちらも常備していないからだ。


 常備していない調味料を、その料理のためだけに買いそろえると、不良在庫になる。そういう悲しい調味料の運命は、どの家庭も同じではないか。使い切る前に、賞味期限や使用期限を迎えてしまって、廃棄である。


 でも日本酒とほんだしなら、毎日の料理で使っているものだから、なんの躊躇(ちゅうちょ)もなく使用できる。


 つまりアレンジレシピの完成自体が、手抜きの産物であり、かつ偶然の産物だ。


 だが、味は本物だ。


 正直、このレシピが完成しせたとき、「もしかして俺は料理の天才なのでは!?!?!?!?」と、うぬぼれたぐらいにはおいしかった。


 ただし、プロの料理人が作ったお金の取れるメニューには、まるで到達していない。


 しかしそれは、マイナス要素というわけでもないのだ。


 プロのレシピから程遠いということは、裏を返せば、誰でも簡単に責任を負うことなく作れるというわけだ。


 すなわち、手抜き料理ほど自炊に向いたものはない。

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