Chapter5 苑宮葛のモラトリアム

「宗主さま」

 呼ばれて、苑宮葛は思案の海から浮上した。

 窓際のティーテーブルで読書しながら考え込んでしまったようだ。議題は勿論、一条一縷という存在について。

「昼食の時間です」

「今日はいらないわ」

「いいえ、摂っていただかなければ困ります」

「はぁ……仕方ない」

 一条一縷は生きていた。否、その可能性も考えていなかったわけではない。しかし、あんな風になっているとは思ってもみなかったのだ。

 好機でもある。

 誕生日まであと数日。私が一条一縷になるまで、あと数日なのだ。一条紫機流博士から論文の返事が来れば、条件は揃う。

 信徒の顔をひとりひとり見る。そして確信する。やはり彼女に近づける――なれる存在は自分しかいないと。

 少女戒律。この宗教団体にその名をつけたのは自分だったが、真に少女で在れたのは自分だけだという確固たる自信があった。

 その日を待てずに飛んでしまった子たちは教義が理解できていなかったのだろう。

「皆さん、今日も美しく賢い少女でありましょう。美しくないものに価値などないのだから」

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