第49話 裏山の奇妙な鳥居


 職場で知り合った後輩Kさんから聞いた話。

 どこまでが本当か分からないけど気味悪い話です。


 Kさんは小学生のとき家族で九州地方に旅行した。

 それで山奥の小さな旅館に泊まった。

 そのときKさんは旅館の女中から「裏山の奥に白い鳥居があるけど近くにいったらダメだよ」と言われたそうだ。


 泊まった翌日。

 Kさんと弟は早く起きて裏山に虫取りに行った。

 あまり人が通らないのか山道は草で生い茂っている。ほぼ獣道だ。

 蜂とか虻とかムカデがウヨウヨいた。


 その獣道を登り続けて、やっとカブトムシのいそうな大きな広葉樹を見つけた。

 案の定、カブトムシやクワガタムシがたくさんいて夢中で取りまくった。


 すると広葉樹の先にある崖下から、誰かのうめき声がした。

 気になって見に行くと、崖下のくぼ地に白い鳥居があった。

 それを見てkさんと弟はやばいと思った。女中から行くなと言われていたから。

 白い鳥居はかなり古く、ところどころ塗料が剝けている。


 鳥居は子供くらいの大きさしかなかった。

 しかも5、6本ほど同じ場所に密集して建てられていた。

 そんな鳥居は見たことがない。Kさんは奇妙だなと思った。


 よく見ると、その鳥居のひとつに、一匹の毛の抜けた猿が縄で縛られていた。

 黒ずんだ歯が気持ち悪かった。

 その毛の無いのっぺりした猿は、Kさんと弟を見て、口をパクパクさせている。

 威嚇しているのか、何かを訴えているのか、よく分からない。


 Kさんが呆気にとられていると、とつぜん弟が悲鳴をあげた。


 弟がうずくまっている。なぜか全身を掻きむしっている。

 Kさんはここにいたらやばいと思い、あわてて弟を連れて下山した。


 Kさんは怖くて白い鳥居を見たことを誰にも言えなかった。


 だが弟は下山してからもずっと様子がおかしい。

「猿の毛が生えてくる」と言って自分の髪の毛をむしる。親が止めてもむしり続ける。

 しまいにはハサミを取り出して自分の腕や足を切りつける。

 Kさんが弟になぜそんなことをするのかたずねても、ただ「猿の毛が生えてくる」と答えるのみ。


 帰り際に女中たちがヒソヒソ話していたことをKさんは一生忘れないと言った。

 女中たちは「あの子はもうダメだね。神様を見ちゃったからね。本当ならあの子も死ぬまで白い鳥居にくくり付けなきゃいけないんだけど・・・」と話していたそうだ。

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動物にまつわる怖い話〈祟〉 淵海 つき @Sinkainolemon

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