第八章 chapter8-3
放課後、三人は教室で練習をしようと集まっていた。
「雪声さんはヴォーカル希望、だっけ?」
「ええ、私は唄う事しかできない……、楽器が出来るのを期待されてたらごめんね」
謝る雪声に私は気にするなと言わんばかりに背中を叩いた。
「そっか、それはそれで仕方ないよ、私達もちゃんとしたヴォーカルが欲しいって思っていたから丁度いいしね」
「ちゃんとしたってなによ、私がまるでちゃんとしてないみたいじゃない」
みかさの言葉に私は思わずむっとしてその頬を膨らませる。
「桜夜ちゃんの歌も悪くはないんだけど、ね、でもあと一歩足りない感じがあったんだよね、だからだよ」
「足りないってなによ、足りないって」
私はみかさの頭を抑えて拳でグリグリした。
「痛い痛いっ!!やめてよ桜夜ちゃん」
「……二人とも練習するんじゃするんじゃないの?」
雪声がいつまでたっても練習がはじまらないことに口を挟んだ。
「そ、そうだね。私も雪声さんの歌声を聞いてみたいし」
私の腕から逃れようとしながらみかさも雪声の言葉に同意した。
「そうだね。いつまでもこうしてても仕方ないからはじめようよ。雪声の歌声をみかさに聞いてもらいたいのは私も同じだしね」
私はギターの調整をすると、雪声の事を見た。
ゆっくりと私は『翼をください』をギターで弾き始め、みかさがそれに併せてキーボードを奏で始める。
曲にあわせて雪声が歌を歌い始め、狭い教室内が雪声の歌声で満たされていく。
雪声の口から奏でられる透明な声に包まれみかさはキーボードを演奏しながらついつい引き込まれる。
その歌声はまるで歌詞の通り歌っている雪声が遠くに飛びたがっているようにも感じられた。
そして私もまた二人の演奏と歌唱に引き込まれていくのを感じていた。
最後まで歌いきり、ギターを置いた私はみかさにどやっとばかりに笑顔を向けた。
「凄いね、雪声さん、これなら……十分って言うか、私達には勿体ないくらいだよ」
「だってよ、みかさも合格点だって」
「ありがとう二人とも……」
その言葉に思わず泣き出しそうな雪声の背中を叩いた。
そんな声を出さない、私達は歓迎してるんだから、ここは笑顔でね」
「う、うん」
そして私はここである曲のスコアシートを取り出した。
「次はこの『三人』でこの曲をやってみたいんだけど……」
私のその言葉でみかさはどの曲をやろうとしているのかすぐにピンと来た。
「私は構わないけど、雪声さんはその曲を知らないんじゃ……」
「大丈夫、雪声ならわかるから」
私のその言葉で雪声もピンと来て、出来ると胸の前で両手の拳を握りしめた。
「ほら、雪声も行けるって言ってるよ」
みかさは半信半疑だったが、二人が余りに自信ありそうにしているのを見て乗ってみることにした。
「それじゃ私達の出発を祝して『Memory of two hearts!!』」
私はそう高らかに宣言して、ギターに指を走らせみかさと雪声の二人もその旋律にあわせてリズムを刻んだのだった。
了
………………………Mission unsatisfied.…………。
二つの心のレゾンデートル 藤杜錬 @fujimoriren
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