カップル破局部

空色 一

第1話

10月、ここ○○学園では、文化祭が終わり、カップルの誕生ラッシュが続いていた。


そんな中、それをよしとしない非モテ集団がいた。その非モテ集団の一人が私、金城だ。


私、金城は高校2年。当然17年間彼女などいたことがない。


自他ともに認める非モテ男だ。顔はまあ、普通だと思うが、女性と話すと途端に上がってしまい、ダメになってしまう。


 そんな俺は、カップルが嫌いだ。公衆の面前で、イチャイチャする気がしれん。


 というか、学校はそもそも勉学をする場所で、イチャイチャしていい場所ではない。(金城の建前)

 

 おかしい。こんな不公平な世の中おかしい。(金城の本音)


 よって、私は、同志を集め、そんな嫌いで、目障りなカップルをなくす部活、「カップル破局部」を創設することにしたのだ。







もちろん、こんな部活が先生に承認されるはずもなく、顧問もつけられないから、非合法な部活という扱いになる。


だから、当然活動も、学園の校舎で行えるわけではなく、近所の空き地での活動となる。


 そんな怪しげな部活に入ってくれる人はいるだろうか……、最初は不安だったが、杞憂に終わった。


 なぜならば、○○学園ではカップルがたくさんでき、学校のいたるところでイチャイチャして、非モテのいる場所がなくなりつつあるからだ。


 そんな状況に不満を持った非モテの同志たちがこぞってこの部活の噂を聞きつけ、カップル粉砕部本部(近所の空き地)に集まってきた。


 情報の発信は、ネット社会の昨今、容易だ。


 さて、これから集まってきた皆さんに、挨拶をする。


 我が「カップル破局部」の活動の最初の一歩だ。


「皆の者、よく集まってくれた! 私は、カップル破局部部長、金城である。気軽に金ちゃんなどと呼んでほしい。そんなことはどうでもよい。みな、この状況に不満を持っているだろう!? カップルが跋扈して、ささやかに、つつましく暮らしているわれらの領域にまで侵入してきて、イチャイチャを見せつけている。奴らは侵略者だ!」


「そうだそうだ!!」


「その侵略者を排除しようということだ! これよりわれらはカップルを破局させ、学園にいるカップルをゼロにする!!」


「いいぞ!!いいぞ!!」


「この計画を、オペレーション ディースと名付ける!!」


「……?」


「ごほん、とにかく、カップルを破局させまくる!! もちろん計画を練って作戦を実行する! 私の指示に従うように!!」


「わかった!!はい!!」


こうして、最初の挨拶が終わり、さっそく実践に入った。

その後、様々なカップルを破局させるための作戦が実行された。


すべてお見せすることは困難なため、今回は私が考えた作戦の実例を2つほど紹介しよう。


作戦1「オペレーション アイドス」


 作戦概要


 カップル男のあとをつけ、恥ずかしい瞬間の写真を撮り、それを部員が懇切丁寧に写真集にして、できた日に真心込めて即日発送。カップルの女性に送り付ける作戦。


 二股していないカップルはこの方法を使った。


 作戦2「オペレーション ヘルメス」


 作戦概要

 

 まず、カップル男の二股以上の疑惑のある男を調べ、そのスマホにハッキング。(ハッキングができる部員に任せる)

 

 ハッキング後、二股されているカップル女を複数、同時刻、同場所でデートの待ち合わせをしようとメールを送る。

 

 カップル男は、重複メールを送らされたことに気づき、訂正メールを送ろうとするも、ハッキングでブロック。


 直接会って、訂正しようとしてきたら、ハッキングしたスマホの画面に、「スマホのデータ・二股している事実・実名をネットに公開させられたくなければ、ハッキングの口外・今送ったメールの訂正はするな」と脅す。

 

 重複デート当日、約束通り来れば二股が発覚し、カップルは破局する。


逃げれば、同じ時間、同じ場所で集まったカップルの女たちに追加でメールを送る。


 「すまない。用事ができてしまった。行けそうにない。悪い」


 これを、カップル女たちが気づくまで、カップル男が待ち合わせ場所に行くまで繰り返す。

 

 それを続けることで、カップル女はこう思うわけだ。


「この男。おかしい。呼び出しておいてこないとは。」


すると、どんどん男に対する不信感が募り、男は男で説明ができない。


よって、2人の仲は悪くなり、結果的に破局する。


 二股しているカップル男にはこの方法で破局させていった。


 そして……、カップル破局部生誕から一か月が過ぎ、たくさんのカップルを破局させた。


 私は、充実していた。


 部員に指示し、カップルが日に日にいなくなっていく。


 そんな日々だったが、一変する。


 それは、一通のメールからだった。


 私は、部員に逐一指示を出すため、フリーメールをたくさん使い、スマホ、PC、ノートPCをフルに使い、作戦を実行していた。

 

そんな中、スマホに一件の通知が来た。


「?」


 件名が、「大事なお話があります」


 だった。


 見ると、こう書かれていた。


 件名 大事なお話があります。

 

 いきなりのメール、失礼します。


 私は、砂川と申します。


 あなたの下で働く、カップル破局部の一員です。


 なぜ、カップル破局部に入ったか、経緯を話させていただきます。


 私は、とある男性と付き合わされていました。

 

 私は、この男と別れたかったのですが、男からDVを受けていたため、怖くて言い出せませんでした。


 そんな中、カップル破局部がこの男を私から引き離してくれました。


 男は、複数の女と付き合っていたらしく、その女たちに浮気がばれ、非難を受け、私をどうこうする余裕もなくなっていきました。


 私は、あなた方「カップル破局部」に救われたのです。


 特にあなた「カップル破局部部長」の金ちゃんさんに救われたのです。


 私は、その後、救ってくれた「カップル破局部」に入り、活動を微力ながらお手伝いさせていただいております。


 長々と話してしまいましたが、今度、直接会ってお礼を言いたいです。


 電話番号を書いておきます。


 ×××-××××-××××


このような内容だった。


そう、一か月間様々なカップルを調べると、カップルはすべて男女同意のもとカップルになっているケースだけではないことが分かってきた。


今回のケースもそういった特殊なケースに該当する。


 それはさておき、この女、私に会いたがっている……。


 私は女性に免疫がない。


 だが、女性でもわれらの同志であるカップル破局部の一部員。このような頼みを無下に断るわけにもいくまい。


 よし、ちょっとだけあってやろう。部員との交流は必要だ。


 そう考え、私は、この砂川さんと会うことにした。







 結論から言おう。なんか……、成り行きで砂川さんと付き合うことになっちゃったんだが……。


 何があったか、説明しよう。


 俺は、あの後、電話をして、待ち合わせをし、砂川さんと会った。砂川さんはとてもかわいい、清楚な感じの女性だった。


 砂川さんはまず、私に抱き着いてきた。そして、感謝の言葉を言った。


 そこで私はかなり動揺してしまった。何度も言うように私は女性に免疫がない。女性に触れたことすらないのだ。なのに彼女はいきなり抱き着いてきたのだ。もう、俺の脳内はめちゃくちゃになってしまった。


 そして、砂川さんはこう言った。


 「私はあなたに救われた。誰も助けてくれなかったのに、見て見ぬふりをされてきたのに、あなた方カップル破局部は違った。カップルを破局させる目的があったとしても、助けてくれたことは変わりない。でも、暴力をふるう彼氏を失って気づいた。私もまた、彼氏に依存していたのだと。あんな彼氏だったけど、いなくてせいせいするけど、自分に命令する人がいなくなってしまって、私は生きる目的を見失ってしまった。あなたが私に彼氏の代わりに命令してほしい。あなたが、私の生きる目的になってほしい」


 そう。砂川さんは、彼氏のDVを受け続け、おかしくなってしまったのだ。


 俺は、抱き着かれたことにより頭がおかしい状態ながらも、カップル破局部の部長である私がカップルになってしまうなど、裏切り行為でしかないという事実を必死に考え、お断りの言葉を彼女に伝えた。しかし、彼女は放してくれなかった。


 この状況をほかの部員に見られでもしたらまずい。そう思い、「とりあえず、放してくれたら、次会う約束をする」そう言うとようやく離れてくれた。


 約束をした以上、次も合わないといけない。


 私は、砂川さんと次の待ち合わせ場所と日時を調節し、また、会うことにした。


 2回目。


 もう同じ過ちをしない。砂川さんと距離を取り、抱き着いてこないか警戒をしつつ話をした。


 まず、砂川さんは昨日の謝罪をしてきた。


「昨日は取り乱してしまい、すみません。金ちゃん……金城さんを生で見て、いてもたってもいられず、抱き着いてしまいました。今回は、落ち着いてお話しします……」

「……」

「昨日、早口で話してしまいましたが、私に命令をしてくれませんか?昔の彼氏のように……。どんなことでも必ずやりますし、私、自分で言うのもなんですが、容姿だけは良いので、作戦のお役に立てると思います」

「……」


前回は私の早とちりだったが、彼氏の代わりになってほしい(つまり彼氏になってほしい)ではなく、彼氏の代わりに命令をしてほしいという意味だったようだ。

だから、あくまでカップル破局部の部員の一員として、個別に命令をしてほしい。そういった要望らしい。


彼女の言うように、彼女は容姿がかなり良い。


なので彼女を作戦に取り入れることで作戦の幅が広がると思う。


 「……いいだろう」


 こうして、彼女も作戦に取り入れたことにより、カップル破局部はさらにカップルを破局させていった。しかし、同時に、砂川さんが私にアピールしてくる頻度も増していった。女性に免疫のない私は、次第に砂川さん虜になってしまった。


 そんな中、こんなことを思い始めた。


 私のやっていることは何だろう。


 人の恋を邪魔して何がうれしいのだろうか。


 恋はこんなに素晴らしいのに。


 そう。私は、次第に砂川さんと接することで、人を愛する素晴らしさを知り、カップル破局部の活動に消極的になってしまった。


 砂川さんとの関係は、部員にはまだ内緒にしてある。


 そんな中、金城に一通のメールが来た。


件名 私は知っている。


 件名で、私はぞっとしてしまった。恐る恐るメールを開く。


件名 私は知っている。


私はお前のすべてを知っている。


お前は砂川さんに好意を寄せている。これはカップル破局部に対する裏切り行為だ。


このことを知られたくなければ、砂川さんとは今後一切合わないことだ。


 そう言ったメール内容だった。見覚えのあるやり口だ。そう。私が教えたカップル破局のやり方だ。こんなやり口を知っているのはカップル破局部の連中だろう。


 一部のカップル破局部に知られてしまった。


 さて、私はどうすべきだろうか。

 もう一部のカップル破局部に知られた以上、全体に知られるのは時間の問題だ。


 ならいっそ、砂川さんに会って、思いの丈を伝えよう。


 俺は、砂川さんに会うことにした。







 人気の少ない学校の屋上、そこに砂川さんを呼んだ。


「砂川さん、来てくれたんだね。」

「何?金ちゃん!」


 砂川さんはいつもの笑顔を振りまく。その笑顔を見るだけで、私の心は踊ってしまう。


「大事な話がある!」

「? 何?」


 俺は深呼吸して、いった。


「これから私たち2人に、カップル破局部の妨害があると思う」

「え……」

「私たち二人が直接会っていることがカップル破局部の一部にばれてしまったんだ。」

「……」

「私たち二人が会わなければ、妨害をしないとカップル破局部は言っている。だから、もう二度と、会わないという選択肢もある」

「!」

「しかし、私は、それはできない。」

「!!」

「君と会えなくなることは、カップル破局部のどんな妨害なんかより耐えられない!」

「!」

「……だがこれは私の意見だ。君がカップル破局部の妨害が嫌なら、会うのをやめよう」

「……金ちゃんは私に会えなくなったら、そんなにつらいの?」

「……そうだ。」

「ふ~ん。じゃあ、今後も私に会いたいんだ?」

「……だから、私はそうだと言っている。君はどうかと聞いたんだ。」

「私?私の答えは最初から決まっているよ。」

「……。」

「今後も会う。誰が邪魔しても。それは、金ちゃんの気持ちと一緒。」

「……それは、私がカップル破局部部長でなくなってもか?」

「……確かに、金ちゃんに出会ったきっかけはカップル破局部部長だったからだけど、もう関係ない。」

 その答えを聞いて、今から起こす私の行動が決まった。


「カップル破局部! どうせ見ているのだろう! 私は本日をもって、カップル破局部部長をやめる!! そして砂川と会い続ける!! どんな妨害にも屈しない! ネットにでもなんでも情報を流すといい! カップル破局部と真っ向から戦ってやる!!」

「金ちゃん……」


この日を境に、カップル破局部から怒涛の嫌がらせ行為を受けた。


敵に回して、カップル破局部の卑劣さを知った。

 

カップル破局部の嫌がらせに、砂川と私はどんどん疲弊していった。


私は考えた。


このままだと2人とも限界が来る。


何か、打開策はないかと。


そして、とあることを思いつき、それを伝えるため砂川を呼んだ。


「砂川……このままだと、2人とも限界が来るのは目に見えている。」

「……金ちゃん……」

「いったん会うのをやめよう。ただ、勘違いしないでほしい。嫌いになったわけではない。それに、考えがある。」

「?」


 私は数々の嫌がらせで疲弊していた。しかし、目は決して死んでいなかった。


 金城は、砂川と会うのをやめ、カップル破局部のターゲットから外れたことを確認し、動きやすくなったところで、新たに非合法な部活を立ち上げた。それは「カップル破局部討伐部」。その名の通り、カップル破局部を潰すために作られた部活だ。


 ネットで情報を拡散し、瞬く間に学校では「カップル破局部討伐部」の噂が広まっていった。カップル破局部でカップルを破局された男女がこぞってカップル破局部討伐部に入部してきた。私のように、カップル破局部に恨みを持つものは多い。なので、あっという間に大きな組織になった。


 あとは、どうやってカップル破局部を潰すかだが、それも考えてある。まず情報収集をする。カップル破局部にスパイを潜り込ませ、情報を集める。


 内部構成、トップの名前、住所や連絡先、好みのタイプなどを調べ上げ、下準備はOKだ。


 あとは……、カップル破局部討伐部の部員の中から、ターゲットの好みになりそうな人を選び、その部員に、ターゲットへ電話やメールで誘惑させる。


 カップル破局部は自分に恋人がいない不満からカップルを破局させようとしている。なので、自分に恋人ができてしまえば、その原動力がなくなり、自然消滅してしまうのではないかと考えたのだ。


ほどなくして、カップル破局部の権力者から順に恋人ができていった。


 そして、カップル破局部内部で、反乱がおきた。


 カップル破局部の下っ端(恋人なし)vsカップル破局部の権力者(恋人あり)


 といった縮図でだ。

 そして、カップル破局部は消滅した。


 ……その後、私金城は、砂川さんと人気のいない屋上で待ち合わせをしていた。


「あっ! お久しぶり!」

「金ちゃん! お久しぶり!」


 あの日別れて以来、私と砂川さんはあっていなかったので、かなり久しぶりに会う。


「これで、だれにも邪魔されることはないよ」

「うん……。」


 太陽が沈みかけている、空がオレンジに染まった屋上で、2人は見つめあった。


 プルルプルル。砂川さんのスマホに着信があった。


「あ。ごめん金ちゃん、ちょっと待って。」

「うん。いいよ」


 そう言って、電話の宛先を見ると、砂川さんは金城さんにこう言った。


「ごめん。用事ができちゃった。この埋め合わせは後で必ずするね!」

「ああ。いいよ。気にしないで」


 砂川さんは、屋上から階段を降り、校舎から出た。金城から声が聞こえない位置で折り返し電話する。


「はい。こちら砂川」

「お疲れ。状況は?」

「はい。金城は怪しむ様子もなく、問題なく私と恋人になっています。」

「よろしい。金城がまた、恋人がいなくなり、不満を持ち、カップル破局部などを立ち上げると厄介だからな。お前は卒業まで砂川と恋人のふりを演じないといけないができるか?」

「できます」

「すまないな。いやな役だろうが、お前ひとりの犠牲で、ほかのカップルが安心して過ごせると考えると安いものだろう。」

「はっ」

「金城が我々『初期カップル破局部討伐部』の存在に気付いたそぶりはあるか?」

「いえ、今のところありません。」

「くれぐれも卒業まで気づかれないよう、気を付けるのだぞ。」

「はっ」


 ……私は砂川。初期カップル破局部討伐部の幹部。


 実は、金城がカップル破局部討伐部を作る前から、カップル破局討伐部は存在する。それを我々は、初期カップル破局部討伐部と呼んでいる。

 

 初期カップル破局討伐部は、主にカップル破局部をよく思っていないカップルや、カップ

ル破局部に破局させられたカップルなどが中心になり、カップル破局部を潰すため、作られた。


活動しやすくするため、初期カップル破局部討伐部の存在は公にはされていない。


入部には、初期カップル破局部討伐部幹部からスカウトを受けなければならず、入部すると、初期カップル破局部討伐部のことは黙秘させているため、情報が流出することはない。


そんな秘密結社、初期カップル破局部討伐部はカップル破局部を潰すため、最初に、私、砂川をスパイとしてカップル破局部に派遣させた。


 そこで私は初期カップル破局部討伐部に情報を流した。


 次に、私砂川がリーダーの金城に近づき、より多くの情報を盗めと命令が来た。


 そして、実行した。


 最初、警戒を解くため、抱き着き、初期カップル破局部討伐部から教わった設定を述べていく。


 そして、警戒心を解き、より情報を引き出すために、金城に好意を持っているかのように接していった。

 

 すると、予期していなかった幸運が訪れた。金城が私砂川に惚れてしまったのだ。そのことを知った初期カップル破局部討伐部は、引き続き恋人のふりをしろと命令する。さらに、その功績をたたえ、私、砂川は幹部にまで昇格した。  


 そして、今に至る。


 結果的にカップル破局部は潰れ、創設者の金城は私初期カップル破局部討伐部の幹部、砂川にベタ惚れ、完全に手中にあるというわけだ。


 私は、初期カップル破局部隊討伐部との電話を終えると、空を見上げた。夕日で赤く染まる空だ。すると、赤く染まる屋上から手を振る金城の姿が見えた。


 私は、笑顔で手を振り返した。

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