13、無謀なる希望
現実は残酷だ、どれだけ想いを込めようとも、どれだけ願いを込めようともどうにもならないことはいくらでもある。
「ヒカリ同時攻撃だ!」
「わかった!」
スコーンの魔法は受けた攻撃の魔力を植物に変換することによって、無効化することだ。ヒカリとクロナはその魔法を突破するために様々な方法を試していた。
「無駄だ!何人が同時攻撃しようが俺様には無意味だ」
ヒカリとクロナはスコーンが同時に2つ以上の属性の攻撃を処理出来ないと読み同時攻撃を仕掛けるが、スコーンはその同時攻撃も難なく処理して植物に変換した。
「それならこれでどうだ!」
今度はクロナが先に攻撃を仕掛けて、時間差でヒカリが攻撃を仕掛ける、クロナの攻撃の処理中であればヒカリの攻撃を処理出来ないと読んだが、これもスコーンは難なく処理する。
「今度は俺様の番だぜ!」
スコーンは4本の腕を無造作に振る、その攻撃はスコーンにとって渾身の一撃でも何でもなかったがヒカリ達とスコーンの実力差はこの無造作の攻撃を必殺の一撃にまで昇華させる。
ヒカリとクロナは何とか直撃を避けるが、無造作に放たれた豪打は余波ですらとてつもない威力があり、ヒカリとクロナは大きなダメージを受ける。
「大丈夫、あたしが治すから〜」
ココロの治癒魔法は凄まじい、前にファッジはあらゆる分野で100点を取り、ヒートは一部の分野のみで120点を取れるという話をしたが、ココロの治癒魔法をこの例に当てはめると、他の全てが0点の代わりに治癒魔法のみ300点と言った感じだ。生きてさえいれば、肉体のダメージであれば何でも治すことが出来る。
「何度、回復して向かって来ようが無駄だ!俺様にてめえらの攻撃は効かねえ」
「そうとは限らない、お前のそれも魔法だ、魔法である以上、魔力を消費しているはずだ」
クロナの予想は当たっていた。スコーンは相手の攻撃の魔力を植物に変換するために自分の魔力を消費している、つまり何度も攻撃を繰り返せばいつかはスコーンの魔力も尽きるということだ。
しかし、この作戦には問題があった、それはヒカリとクロナの方が先に魔力が切れてしまっては意味がないということだ。
「人間のてめえらが魔族である俺様に純粋な魔力量で勝負を挑むなんざ正気か?」
問題はそれだけではない、今スコーンはヒカリ達を殺さぬよう本来の実力の3分の1すら使っていない。もし、仮にスコーンが魔力量対決で追い詰められることがあったとしても、スコーンが本気を出せばヒカリ達は瞬殺されてしまうだろう。更には何かの間違いでスコーンを倒せたとしても、まだ四大魔王の1人、ナイトメアが残っている。
ヒカリ達の敗北は火を見るより明らかだったが、それでもヒカリ達は諦めていなかった。その状況を理解してなお、勝利することが出来る僅かな可能性に全てを賭けて戦いを挑む。
だがその想いを嘲笑うように戦いの流れは激変する、まるで少女達の願いや覚悟に意味はないと告げるように。戦いに乱入者が現れた。
戦いの乱入者は老齢の男女だった、男の方は杖をついたヨボヨボのお爺さんといった感じで、女の方はその姿からそれなりの年齢だと予想こそ出来るが、その立ち振る舞いは老いを感じさせぬ見事なもので一切の隙がなかった。
「おいおい、ダンナまさか、、あれが?」
「そうだ、レジェンドとヒーラだ」
その名を聞いてヒカリ達も驚いた、レジェンドとヒーラは、70年前に大魔王を封印して終末自警団を結成した英雄達だ。
「本物ですか〜?」
「どうだろうな」
ヒーラと呼ばれた女性はココロの質問に素っ気なく返答したかと思えば、ココロの額を人差し指で軽く押した。そうするとココロの全身から力が抜けてその場にへたり込んでしまった。
「あれ?」
「「ココロ!」」
ヒカリとクロナがココロに声をかけるが、その瞬間にヒーラは今度はヒカリとクロナの額を人差し指で軽く押した。ヒカリとクロナは反応できずに気付けばココロと同様にへたり込んでいた
「あれ!?力が入らない」
「悪いがあいつとの決着は私達が付ける。おまえさん達はそこで大人しくしていろ」
そう言って、レジェンドとヒーラが前に出る。
「やっと会えたのう、ナイトメアよ」
「英雄紛いの老いぼれが今更何をしに来た」
「お前を止めに来たのじゃ」
「貴様に出来るのか?70年前に貴様はそれが出来ずに我輩を逃した。また同じことを繰り返すだけではないのか?」
「あの時とは違う、それをお前もわかっておるから70年間、こそこそ逃げまわっておったのではないのか?」
レジェンドの纏っていた雰囲気が死にかけの老人のものから歴戦の戦士のものへと変わる。その迫力はどちらかと言えば味方側のヒカリ達ですら恐怖を覚える程に圧倒的なものだった。
「貴様は勘違いをしている、あの時と違うのは貴様の覚悟だけではない、我輩と貴様の実力差もだ、あの時は遅れを取ったが今度はそうは行かん」
ナイトメアの方も、元々不気味な得体の知れない雰囲気を纏っていたが、狂者から強者へと雰囲気が変わる。レジェンドとナイトメア2人の強者の存在感は睨み合いだけで、天変地異の錯覚を覚える程に凄まじかった。
「ダンナ、悪いがあんたは大将だ、まずは俺様から行かせてもらうぜ」
スコーンは圧倒的な強者達が支配する空間に臆することなく割り込んできた。
「よかろう、但し最初から全力で行け、手を抜いて勝てる相手ではないぞ」
ナイトメアは臨戦態勢こそ解除しなかったが順番をスコーンに譲った。
「もちろんだぜ、ダンナ、こいつらが俺様が探し求めていた手加減抜きに戦える相手なんだからよう」
「邪魔じゃ、お前には用はない」
「邪魔なのはおまえさんだレジェンド」
「ヒーラ?」
「言ったはずだ、露払いは私がすると」
臨戦態勢のレジェンドを押しのけて、今度はヒーラが前に出る。
「露払いとは言ってくれるじゃねえか、だがてめえらはその露に負けることになるんだぜ」
スコーンのその言葉とともに、ヒーラの足元の植物が伸びてヒーラを締め付ける。
「どうだこれが俺様の魔法の真骨頂だ」
スコーンの魔法は相手の攻撃の魔力を植物に変えるだけに止まらない、当然その植物を操ることも出来る、そして今スコーン達がいる、草原の植物は全てスコーンの魔力変換による植物で、この草原はスコーンの魔法のテリトリーということだ。
「締め付けてバラバラに引き裂いてやるぜ」
「バラバラになるのは、おまえさんの方だよ」
「何を言って、、、ぐふぉ!?」
「おまえさんがこの植物を操っているなら、植物とおまえさんには魔力的な繋がりがあるはずだ、私はその繋がりを利用しておまえさんに魔力を送り込んでいる」
「こ、、こん、、、なもん、、俺様の魔法、、、で」
しかし、流し込まれた魔力を植物に変えることは出来なかった。
「な、、、何故、、だ」
「おまえさんの魔法の詳細は知らんが、おまえさんは相手の攻撃を大地に受け流している、なら大地を通した攻撃を大地には受け流せまい」
ヒーラの魔力はスコーンに送られるだけでなく、スコーンが大地に流す魔力を塞いで止める。
「ぐわ、、、ぐうぇ、、、、、ぐが」
スコーンの体がどんどん膨らんでいく、送り込まれた魔力がスコーンの貯蔵限界を超えて、体に影響を及ぼし始めたのだ、やがてスコーンはヒーラの予告通り、バラバラに弾け飛んだ。
ヒカリ達はヒートとマカロンの戦いでも、残酷な実力差を思い知ったが今の戦いの衝撃はそれ以上だった、自分達が死力を尽くしても敵わなかった相手があっさり倒されるのを見るのは、それなりに堪える。しかし、ヒカリ達はこれから更なる実力差を思い知ることになる。
「露払いは終わった、ここからはおまえさんの仕事だ、レジェンド」
何故ならこれから始まる戦いはこの世界の頂点に君臨するトップランカー達の戦いだからだ。
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