11、憤怒の完全燃焼

 魔法の属性は生まれつき決まるが、それ以外にも生まれつき決まる魔法の才能は存在する、例えば魔力の量などがその1つだ。他にも得意魔法などもそうだ、ヒートが遠距離魔法が苦手で近距離魔法が得意なのもこの才能によるものだ。


 しかし、ファッジにはその制限は当てはまらない、何故ならファッジの魔族としての固有魔法は得意魔法の制限解除だ、風属性の魔法であれば近距離魔法、遠距離魔法、回復魔法、肉体強化など、才能の制限に縛られず魔法を習得し、10割の力で魔法を使える。


 「細切れにしてあげる」


 ファッジが手を横に振ると、ファッジからヒートに向けて横向きの竜巻が発生する、竜巻は複数の風の刃によって構成されており、巻き込まれれば細切れどころかミキサーにかけられた果物のようにぐちゃぐちゃになるだろう。


 「遠慮しておくぜ」


 ヒートは竜巻に拳を叩きつける。素手でそんなことをすれば手は竜巻のミキサーにかけられジュースになってしまうが、ヒートの手はそうはならなかった、ヒートが拳を叩きつけた瞬間に拳と竜巻の間に爆炎が発生して、竜巻を消し去る。


 ヒートは竜巻を消し去ったそのままの勢いで拳を振り抜く、再び爆炎が発生して竜巻の道筋を逆走するようにファッジに迫る。ヒートは遠距離魔法は苦手だが今ヒートが放ったのは遠距離魔法ではなく、超威力の近距離魔法の余波だ、その余波は余波でありながら並の人間や魔族の遠距離魔法の威力を超越した威力だった。


 「考えたね、、、でも」

 

 ファッジは自分の目の前に竜巻を発生させて余波の炎を巻き込ませる。竜巻は曲がりくねり炎を纏ったままヒートを狙う、ヒートはファッジとの距離を縮めながら先程と同じように爆炎の拳を叩きつけて再び竜巻を消し去る。


 ファッジとの距離を詰めたことによって、ヒートが最も得意とする近距離戦闘が始まる。


 「言っとくけど私も別に接近戦が苦手なわけじゃないよ」


 ファッジの言うことは事実で、ヒートの猛攻にファッジは付いてきた。


 「悪いが何でもできる優等生に、それしか能がねえ劣等生が負けるわけにはいかねえんだよ」


 接近戦はヒートが僅かだが優勢になっていく、ファッジは何でも100点を取れる優等生だが、ヒートは得意分野ならば120点を取れる男だ。そして今はヒートの得意分野である接近戦だ。ファッジの敗北はヒートを接近戦の間合いに入れた時点で決まっていた、、、決まっていたはずだった。


 ファッジが防ぎ損ねたヒートの攻撃は既に何度もファッジを粉々にするため、ファッジに叩きつけられていたが、ファッジはものともせずにヒートに反撃を繰り出す。


 「無駄だよ、無駄、私にはヒートの攻撃は効かないよ」


 「それは違うな」


 ヒートの攻撃はファッジには通じないように思えるが、先程の戦いで最後にヒートが放った攻撃のダメージを僅かだがファッジは受けていた。


 「今のぶつかり合いではっきりわかったぜ、お前の防御の秘密がな、お前は常に自分の周りに風のバリアを発生させている。俺の最後の攻撃のダメージを防ぎきれなかったのは爆炎に包まれたことによって空気の入れ替えが出来なかったからだろう」


 「ピンポーン、正解!確かにあんな攻撃を何度もされたら攻撃を防ぎきれなくなっちゃうけどさ、あんな攻撃を何度も打てないよね」


 ヒートが唯一ファッジにダメージを与えられた攻撃は、ヒートの全ての魔力を解放した決死の一撃だった。


 「確かにそうだ、でもな、お前のバリアを破る方法ならあるんだよ」


 ヒートはファッジの顔を鷲掴みにする、と言っても風のバリアがあるので直接はファッジの頭には触れれていないが。


 「ひどーい、乙女の顔を鷲掴みとか」


 「直ぐにその減らず口を叩けなくしてやるよ」


 ヒートの親指が爆発によって弾け飛んだ。続けて他の指も時間差で次々弾け飛んだ。


 「!?」


 「簡単だ、あんな大爆発を起こさなくても、小さな爆発を1箇所に集中して起こせば、その1箇所だけならバリアを破れんだろ、まぁ力の調節が苦手で自分の指が吹っ飛んじまったがな」


 ファッジにはヒートの言葉を聞く余裕はなかった。バリアを破壊する際の爆発に巻き込まれファッジの顔は右半分は大きく損傷していた右耳は完全の吹き飛び、右目も頭蓋骨を巻き込んで潰れていた。


 ファッジが痛みに絶叫をあげようと大きく口を開けた時、それに合わせてヒートは指の吹き飛んだ手をファッジの口に突っ込む。


 「もごっ!?」


 「俺の攻撃はお前にはゼロ距離でも通じなかったが、ゼロ距離以下ならどうだ」


 ヒートはファッジの口や喉が裂けるのもお構いなしに、手を更に奥まで突っ込む。


 「指のついでに右腕もやるよ」


 ヒートはファッジの体内に爆炎を解き放つ、ファッジの全身を血液の代わりに炎が駆け巡る。ファッジの体は一瞬風船のように膨れ上がったかと思ったら直ぐ耐えきれずに破裂し、体外に爆炎を撒き散らす。


 ヒートは自分の発生させた爆炎によって大きく吹き飛ばされる、吹き飛ばされたヒートの体は何度も地面に叩きつけられ、ようやく止まった。


 「はあはあ、、、悪いなクレア、、こっちが片付いたら、、、お前の妹の方も何とかするつもりだったが、、、、やっぱ、、無理そうだ」


 そこでヒートの意識は途絶えた。


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 これは、ファッジがヒートにトドメを刺したと思い、立ち去ったあとの出来事だ。


 「おまえさん、随分しぶといな、あの竜巻に巻き込まれて生きているとはな」


 「おい、おまえさん、その体で動くと死ぬぞ、、、というかそんな体じゃ動けんぞ」


 「いいだろう、どうせ3年の世界なら、やりたいことをやって死ぬのもいいだろう」


 「私は回復魔法の専門家でなお前の体を無理矢理動くように出来る、ついでに魔力の方もな、おまえさんの寿命を魔力に変えてやる、それでまだ戦えるはずだ」

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