10、どうせ終わる世界なら
ヒートは11歳の時には終焉を理解していた。絶望して自暴自棄になることはなかったが、未来に希望を持ってるわけでもなく、ただ惰性でなんとなく生きていた。それはヒートの暮らす村に住む人々も同じで、同族嫌悪なのかヒートはその村にいるのが何となく嫌でよく町まで遊びに行った。
町は建物こそ立ち並んでいるが人の気配は全然ない、終末世界においては都会として賑わっていた場所よりも地方の落ち着いた雰囲気の場所の方が人気が高くなっている。
町にあるのは終末自警団の支部ぐらいだが、ヒートの親がこんな場所に遊びに行くのを許してくれるのは自警団の支部があるからだろう。
遊びに来たと言っても、別にヒートは誰かと遊びに来たわけでも、何か1人で出来る遊びがあってきたわけでもない、ただ何となく1人になりたかっただけだ。
ある日のことだった、その日もヒートは1人になるために町に向かっていて、その道の途中での出来事だった。
「おい!そこの坊主、ちょっと俺等にボコボコにされろや」
ヒートの道を塞ぐように3人組の男達が現れた。男達は世界終焉の鬱憤を自分よりも弱い者を痛ぶることで晴らしているようで、ヒートが無事に帰るには逃げるか戦って勝つしかなかった。この頃からヒートは家族から逃げても戦いからは逃げることはなかったので、今回も戦うことにした。
ヒートは魔法において天才的な才能を持っており、大人にも負けない戦闘力を持っていたが、流石に3対1では分が悪く、苦戦を強いられた。
「そこまでよ悪党ども!」
だがそんなピンチに助けが現れた。
「何だお前は!?」
「私の名前はクレア!あんた達ね、シスターの言ってた最近出る物騒な輩っていうのは」
助けに来たのはヒートと同じぐらいの年齢の少女だった。
「正義の味方気取りかお嬢ちゃん、痛い目見ることになるぜ」
男達の目的は弱者を痛ぶることだ、当然、新たに現れた少女もその標的になったが。
「ぐひゃー」
吹き飛んだのは少女に向かっていった男の方だった。
「言っとくけど、私こう見えて凄く強いから」
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「クレア、私はお前に物騒な輩がいるから気をつけろと言ったんだ、物騒な輩を倒せ何て誰が言ったんだ?」
ヒートは、クレアの加勢もあり、何とか男達を撃退することに成功したが、大変だったのは寧ろその後だった。クレアの保護者のシスターと呼ばれる人物に2人揃って、叱られていた。
「お前はこの辺をよく1人でうろちょろしてる奴だな、物騒な奴に遭ったら戦うな、逃げろ!」
「俺の辞書に逃げる何て言葉はねえ」
そう言った、ヒートの頭上にゲンコツが飛んできた。
「イテッ!」
「逃げるのが格好悪いとでも思ってんのか?私からすれば相手と自分の戦力分析もできずにピンチになる方が格好悪いと思うがね」
ヒートはそれ以上反論しなかった、今のゲンコツで悟ったのだ、この人物には逆らわない方がいいと。
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シスターは自警団に所属しながら、村を丸ごと使った孤児院の園長もしており、クレアはそこで妹と暮らしているらしい。
「あんたどうせ暇してるなら、ちょっと手伝ってくれない」
その孤児院はヒートの住む村からも近く、よくクレアが孤児院での仕事をヒートに手伝わせるために訪れた。逆にヒートが自分の村の仕事で忙しい時はクレアがヒートを手伝った。そんな風に交流を深めていったある日、ヒートはクレアにある疑問をぶつけた。
「お前って、何でそんなに前向きなんだ?」
「私が前向き、ヒカリじゃなく私が?」
ヒカリはクレアと同じ孤児院に住んでいて、世界は滅びないとか、世界は滅びるのは私が防ぐなどとよく言っている。
「ヒカリの前向きさは少し違う、だってお前の前向きさは世界が終わることを受け入れての前向きだろ」
クレアはヒート同様に世界が終わることを理解していた。ヒートが見てきた終わりを理解した人間は誰もが惰性で後ろ向きに生きていた。だがクレアは違った終焉を理解しながら前向きに生きていた。
「うーん、私としては前向きなつもりはないけど」
「それは比べる対象がヒカリだからだろ、俺から見れば十分、前向きだ」
「まぁ、私はどうせ終わる世界なら、一瞬一瞬を精一杯に生きようって考えてるだけよ」
クレアから出た言葉はクレアには大した言葉ではなかったが、ヒートはこの言葉に衝撃を受けた「どうせ終わる世界なら」という言葉の後にこんなに前向きな言葉が続くのを聞いたのは初めてだった。
「やっぱり前向きじゃねーか!」
「そうかなー」
「なあクレア、俺も一瞬一瞬を精一杯に生きたら、お前みたいに人生を楽しく生きられんだろうか?」
「一応聞くけど、私のことを馬鹿にしてるわけじゃないのよね?」
「さあな、どうだろうな」
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「ここら辺なら向こうにまで余波が飛んでくことはないでしょ」
ヒートとファッジは戦いの場所を決めた。
「それにしても、ヒートって本当にクレアのことが大好きだよね、妬けちゃうなぁ」
「俺が男であいつは女だったからな、別にそいうい気持ちが全くなかったとは言わねえよ」
「もしかしてこんな終わる世界でプロポーズとかするつもりだった?」
「勘違いすんなよ、それでも俺があいつに抱いてる1番の感情は憧れだ。クレアは俺にとっては太陽よりも眩しい存在だったんだよ」
「きゃあ、それって惚気?」
「勝手に言ってろ」
ヒートはこれ以上、話すことはないと戦闘態勢に入る、それに応じるようにファッジもまた戦闘態勢に入る。
しばらくの静けさの後、それを帳消しにするように激しい爆炎と爆風が吹き荒れた。
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