9、だって世界は終わらないから!

 「そんなことに私達が協力するとでも思っているのか?悪いがお前達、世界の終焉に絶望した奴の他者を巻き込んだ盛大な自殺に手を貸すつもりはない」


 「盛大な自殺か、、、確かにそういう見方もあるだろう、だが世界は、人々は本当に延命を望んでいるのか?どうせ3年で終わる世界なら、苦しませず一息で終わらせることも救いではないのか、貴様達は1度もそう考えたことはないのか?」


 「「ない!」」


 「ないよ〜」


 魔王の言葉にヒカリとクロナが即答し、それに続けてココロも答える。


 「子供ゆえの純真さか、、、貴様達は親達に守られて世界の真の残酷さを、人々の絶望を知らずに平穏に生きて来たのだろう」


「あのう、ナイトメア様、、、」


 ナイトメアの演説を遮ったのは、ヒカリ達ではなくナイトメアの部下であるファッジだった。


 「言いにくいのですが、その子達はそういうのを理解した上で、あんな事を言っちゃう子達なんですよ」


 「なんだと!?」


 ナイトメアの大きな目が驚きによって更に大きく見開く。


 「その子達の親は世界の終焉に絶望して、その子達を捨てたんですよ」


 悪夢の茶会による子供の誘拐事件が発生した時、子供の身を案じた親達から多くの捜索依頼が来た。だが終焉の近づく世界では子供を捨てる親も少なくはない、どうせ終わる世界ならば子のためでなく自分の為に生きたいと思う者、どうせ終わる世界ならばもう生きることに意味を感じず自ら死を選ぶ者、ヒカリ達の親もそうだ。


 「馬鹿な!?、貴様達はそれだけ身近な者の絶望を知りながら、、、貴様達は人々が世界の終焉に恐怖することも絶望すこともないそう言うのか?」


 「そうだよ」


 「何故だ、何故なのだ!?」


 「だって世界は終わらないから!」


 ヒカリはナイトメアに対して言い放つ、世界が滅びることが救済だと言う魔王にお前は間違っていると。


 「世界が終わらないだと!?どんな高尚な考えを持っているのかと思えば単なる現実逃避か」


 「現実逃避なんかじゃない!」


 ヒカリは先程まで動けなくなる程の恐怖を自分に与えた相手に堂々と言う。


 「ならば貴様達は理解していない、確かに100年前の神の発言など貴様達には現実味がないのだろう」


 「お前の方が理解してるだろ、こんな世界じゃ終焉の真意など関係ない、終焉を意識しないで生きるなんて不可能だ」


 今度はクロナが魔王に言い放つ。


 「貴様達の言うことは矛盾している、終焉を理解しながら終焉を否定するなど」


 「矛盾なんかしてないよ、世界が本当に終わるか何てわからない、でも本当に滅びるとしても私が、私達がそんなことはさせない!世界は私達が救ってみせる」


 「貴様達が世界を救うだと、そんなことは不可能だ。そんなことは大魔王を封印した勇者にすら不可能だったのだ。貴様達のような小娘に何が出来ると言うのだ!」


 「もしかして貴方、本当は世界を救おうとしてたの?」


 ヒカリはナイトメアの話を聞いて気づいたことを言った。


 「何を、、、何を馬鹿なことを!」


 ナイトメアは、魔王はヒカリの言葉を聞いて先程よりも、更に取り乱す。


 「貴方は世界を終わらせることが救いだって言ったけど、貴方が本当に世界を救いたいと思ってるなら、まず最初に世界の終焉を防ごうとしたはずじゃないの?」


 「黙れ!」


 「本当は世界を救おうとしたけど、それが駄目で、しょうがなく世界を滅ぼそうと、、、」


 「黙れと言ってるだろう、知ったふうなことを言うな小娘が!」


 ナイトメアは激昂して、ヒカリに言った。


 「やっぱり貴方は、、、」


 「黙れ、もう貴様達と話すことなどない!現実逃避の夢物語だろうと貴様達に希望があることは分かった、ならばその希望をねじ伏せてやろう、ファッジ!スコーン!」


 「ダンナ、具体的には何を?」


 「痛めつけてやれ、奴らが許しを乞い、考えを改めるまで」


 「わかりました、ナイトメア様」


 ファッジとグランドはナイトメアの指示でヒカリ達を痛めつけてようと、臨戦態勢に入ろうとするが。灼熱の業火がそれを遮る。


 「この炎、まさか!?」


 ファッジはこの炎に心当たりがあった。


 「ようファッジ、またあったな!」


 大地を焦がし、草原を焼き尽くし、憤怒の業火の主はその姿を現す。


 「ヒート!?何でトドメは刺したはずなのに?」


 現れたのはヒートだった。


 「焦ってたみたいだが死んだかどうかを確認しとくべきだったな」


 ヒートはクロナの元まで来て告げた。


 「クロナ、悪いが俺はお前達を助けに来たわけじゃない、俺は俺の私怨で、そこにいる裏切り者を殺しに来た」


 「それって私のこと?私は裏切ったんじゃなくて、最初から敵だったんだって」


 「そんなことはどうでもいい、俺がお前を殺すことには関係のないことだ」


 「ファッジよ」


 「はい、ナイトメア様」


 「奴がここに来たのは貴様の不始末だ、貴様が何とかしろ」


 「それ本気で言ってます?」


 ファッジは別にヒートとの戦いで臆したわけではないが、ある懸念があり、ナイトメアに確認した。


 「でもヒートって、力の調整が苦手で戦うとなるとここから私が離れることになっちゃいますけど、本当に私が戦うんですか?」


 ナイトメアからの返事はなく、ファッジはそれを肯定と受け取った。


 「わかりましたよ、ナイトメア様の考えは分かりませんが、やれと言うなら従いますよ」


 ファッジは今度はヒートに向けて言う。


 「というわけで、ヒートの挑戦を受けてあげる。その代わり場所は移動させて貰うよ」


 「構わねえ、俺だって自分の攻撃の巻き添えで後輩を殺したくはないからな」


 ヒートはファッジに同意する。


 「ヒートさん!」


 「クロナ?」


 「姉さんの、、、姉さんの仇をお願いします」


 「悪いがその頼みは聞けねぇ、さっきも言ったが俺は俺の私怨のためにあいつを殺す」


 「それで構いません」


 ヒートは最後にクロナの言葉を聞くと返事をせずに、ファッジと共にその場をあとにした。


 「残念だったな、せっかく助けに来た先輩が居なくなって」


 スコーンがヒカリ達に言うが。


 「問題ないさ、元々、助け何て期待してなかったからな、敵が1人減っただけで充分な恩恵だ」


 クロナがスコーンに言い返す。


 「おもしれぇ、ならばせいぜい足掻いて、俺様を楽しませてみろよ」

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