7、茶会への招待

 「ピンチ?あれ嘘だよ、私、急いでるからヒートと会いたくなかったんだよね」


 ヒカリ達の前に姿を現したファッジはあっけらかんと答える。


 「すいません、状況が分からないんですけど〜」


 「まぁ、単刀直入に言うと、お茶会の誘いに来たんだ」


 「お茶会?一体何を言って」


 「そうだった、そうだった、みんなにはまだ、正体を明かしてないんだった」


 ファッジは自らの正体をヒカリ達に明かす。


 「勇気の象徴ブレイブ・フォースのファッジ改め、悪夢の茶会・会員NO.2、ファッジ」


 「えっ、、、冗談ですよね、だってファッジさんって、私達が自警団に入る前にからずっとクレアさん達と一緒に、、、」


 ヒカリは正体を明かされてなお、状況を理解できずにいた。


 「一体、何で裏切った!」


 「クロナちゃんはクレアと同じで切り替えが早いね、話が早くていいけど、ちょっとショック」


 でも、とファッジは更に続ける。


 「私は別に裏切ったわけじゃないんだよね、そもそも私は最初から悪夢の茶会のメンバーで、ある目的があって入団したんだから」


 「悪夢の茶会って、最近出来た組織じゃなくて、ずっと前からあったてことですか〜?」


 「その通りだよ、ココロちゃん、少なくとも30年前には存在してたんだよ」


 「ちょっと待って下さい、悪夢の茶会って魔族の組織じゃ!?」


 ヒカリの考えでは悪夢の茶会は魔族による連合組織だった。


 「ヒカリちゃんって、意外と差別的なんだね、悪いことをするのは魔族って決めつけちゃうんだ」


 「そういうのわけじゃ!」


 「冗談、冗談だよ、確かに魔族と人間は表面上は和平を保ってるけど、悪さをする魔族は人間を嫌うから、人間の私が悪夢の茶会にいるのが不思議なんでしょ」


 魔族達の中には、和平による戦争の決着に納得していない者も少なくなく、自暴自棄による破壊活動に勤しむ魔族の多くにはその傾向があった。その魔族は人間を嫌っており、人間を利用することはあっても協力して悪さをすることはあり得なかった。


 「まぁ、悪夢の茶会は目的に賛同するなら人間も拒否しない平等な組織っていうのもあるけど、そもそも私は魔族だよ。精霊種って言う原生生物と同じ見た目の魔族なんだ」


 魔族の姿は多種多様であり、中には元々存在する生物と同じ見た目の魔族が生まれることがあり、それを精霊種とよぶ、ファッジは人間の精霊種だ。


 「姉さんはどうした?」


 「えっ?」


 「姉さんはどうしたんだ!一緒にいたんだろ!」


 「心配なのは、お姉ちゃんだけなの?子供達とかグランドの心配はしないのー、何だかそれって凄く自己中心じゃない」


 「いいから答えろ!」


 「そうだな、俺も聞きたいぜ」


 そう言って、ドアを蹴破りヒートが部屋に入ってくる。


 「あれ!?何でヒートがここに?」


 「こっちのセリフだぜファッジ、敵に囲まれてピンチじゃなかったのか?」


 「うん、だからさ、ヒートはそんな私を助けに行ってくれてるんじゃないの!」


 微妙に話が噛み合っていないがヒートは構わず続ける。


 「クレアから言われてたんだよ、お前に少しでも違和感を感じたら、お前の言うことを信じるなってな」


 「えー、違和感なんてあった?」


 「お前から来た通信だが」


 「あれ!?でも演技は完璧だと思ったけど、わざとらしすぎたかな?」


 「そっちじゃねえ、問題は通信が鮮明すぎたことだ」


 「えっ?」


 戦争による文明崩壊によって、従来の科学による文明の力のほとんどは死滅した。現在の世界では科学のロストテクノロジーを魔法で補っている、通信手段もその1つだ。


 「あの通信は意外と魔力の調整がややこしくてな、平時なら無意識で使えるが緊急事にテンパってると結構、通信が安定しなくなるんだよ」


 「もし私が本当にピンチだったらどうするつもりだったの?」


 「少なくとも今回は疑って正解だったようだぜ、それよりも話が途中だったな、、、クレアはどうしたんだ?」


 ファッジは少し言おうかどうか悩んだが、、、


 「殺したよ、もちろんグランドも」


 「はぁ?」


 あっさりと真実を告げた。


 「ヒートのそんな間抜けな返事を聞いたの初め、、、」


 ファッジが言いかけた瞬間、火属性の肉体強化による赤い閃光が放たれ、ヒートの拳がファッジの顔に命中していた、ファッジは壁を突き破り建物の外にまで吹き飛ばされた。


 ヒートは吹き飛ばしたファッジに追いつき、上から殴りつけ地面に叩きつける。ヒートは炎の噴射によって空中で加速して、そのまま地面に叩きつけたファッジを踏みつける。ヒートはそのまま姿勢を下げ、何度も拳をファッジに叩きつける。


 叩きつけられた拳の回数が2桁後半に達しようとした時、ファッジを中心に竜巻が発生して、ヒートを吹き飛ばした。


 「もっと怒りに身を任せて来るかと思ってたけど、クロナちゃん達を巻き込まないように私を建物の外に吹き飛ばすなんて、優しくて冷静だね。でもいくら憎い相手でも乙女の顔面を殴るのはどうかと思うよ」


 ファッジはあれだけの攻撃を受けたのにも関わらず無傷だった。


 ヒートは炎を召喚してファッジを狙うが。


 「流石にそれじゃあ、私は倒せないよ」


 ファッジは風の刃を発生させ炎を迎え撃つ、風の刃と相対した炎は掻き消され、風の刃はそのままヒートの体を切り裂いた。


 「ぐっ!?」


 「やっぱりヒートは遠距離魔法よりも、肉体強化とかの近距離魔法だよ。グランドを真っ二つにした私の風の刃を受けて、皮膚が裂けるだけで済んじゃうだから」


 ファッジは更に風の刃を召喚した。


 「だから遠距離で潰させて貰うね」


 ヒートは避けずに、風の刃を受けても構わず、ファッジとの距離を詰める。


 「驚いた!痛くないの!?」


 ヒートはファッジに答えずに渾身の一撃を放つ。


 爆炎が吹き荒れ広範囲を焼き尽くす。幸い町はゴーストタウン化しており人の被害は出なかったが、周りの建物は幾つも倒壊した。


 「ゴホゴホ、凄い、凄い、勇気の象徴ブレイブ・フォースで1番強いのはグランドだけど、一撃の威力だけならヒートも負けてないよ」


 流石に無傷とはいかなかったようだが、それでもファッジは平気な顔をして立っていた。逆に生命を維持する魔力まで使い果たしてしまったのかヒートは倒れていた。


 「生かしといても後で邪魔になりそうだし、殺しとくね」


 ファッジが動けなくなったヒートにトドメを刺そうとした時、ファッジに風からの警告が入る。


 「やっば派手に動き過ぎたかな、急げばクロナちゃん達を回収する時間ぐらいはあるでしょ」


 そう言ってファッジは急いでその場をあとにしようとする。


 「あっ!でもトドメは刺してくね」


 ファッジが立ち去ると同時にヒートを中心に、大きな竜巻が巻き起こる。


 ファッジが警戒した何者かが、現れた時にはファッジはヒカリ達を回収して消えた後だった。

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