6、敵地での決戦

 時間は少し前、クレア達が敵のアジトに到着した頃に巻き戻る。


 「あの洞窟がアジトらしいわ」


 「洞窟がアジトとはな、四大魔王がいるって言うから、てっきり城か何かだと思ってたぞ」


 洞窟の奥に魔王がいるというのも、別におかしくはないがグランドのイメージではやはり魔王は城でどっしり待ち構えてるものらしい。


 「まぁ、四大魔王って、指名手配犯みたいなものだから、ひっそり暮らしててもおかしくはないよね」


 別に賞金があるわけではないが、四大魔王は今は引退している大魔王を封印した自警団始まりの若者達の時代から君臨しており、伝説の人物でも倒せなかった存在として、強さ自慢の間では自分の強さを示す絶好の標的とされている。ただ現在も四大魔王を倒したと言う者が現れていないので全員、返り討ちにあって殺されているが。


 「どうせ滅びる世界なのに、そんな称号を手に入れてどうするんだろうね?」


 「私も気持ちは分からないけど、やりそうな奴等なら心当たりがあるわ」


 クレアはクロナ達なら、挑戦しかねないと思った。


 「いや、終わる世界だからこそ、自分の生きた証をだな」


 「終わる世界に生きた証も何もあるのかしら?」


 「それなら四大魔王がいたら、相手はグランドに任せるね」


 「おう、任せとけ」


 実際、四大魔王がいた場合、単独で相手をすることになる可能性が1番高いのはグランドだった。グランドは強者揃いの勇気の象徴ブレイブ・フォースの中でも更に強い。


 「それじゃあ、突入する前にヒートに連絡しとくわよ」


 「待って、何か来る!?」


 クレアが連絡を入れようとするのを、ファッジが止める、ファッジは風属性の魔力を宿しており、その力で風の声を聞く、危険察知の魔法が使える。


 ファッジの言う通り、洞窟から凄い勢いで何かが飛び出してきた。


 それは、ケンタウロスのように腰から下は別の生物の首から下が付いているようだった。但しその生物は馬ではない、その生物には6本の足が生えており、その肌は石や砂利を無理矢理固めたかのようでザラザラしていた。異形の姿をしているのは下半身の止まらない、上半身は上半身で腕が左右二本ずつ生えていた。


 「完全に魔族だな、どうやら到着を敵に悟られてしまったらしいな」


 「俺様は、悪夢の茶会・会員NO.1、スコーンだ」


 「あれがNO.1?、じゃあ、四大魔王はいないの?」


 「NO.1が首領とは限らんだろう、首領はNO.0とか会長とか、名乗ってるかもしれないだろう」


 「どうでもいいわ、それよりも、そこのあんた!」


 「俺様のことか?」


 「どうせ終わる世界よ、今子供達を解放するなら見逃して上げるわ」


 クレアは話し合いを申し出る。自警団は戦闘集団ではない、あくまで人々が平穏に最後の時を過ごせるようにする組織だ。何人か脳筋の戦闘馬鹿がいるが、これが本来の自警団のあるべき姿だ。


 「終わる世界だからこそ、俺様達でぶっ壊すんだろうが、あのガキ共はその為の大事な戦力だ」


 「そう、なら遠慮はいらないわね」


 クレアの周りに数十本の数の氷の槍が召喚される。


 「喰らえ!」


 クレアの号令と共に氷の槍が一斉に射出される。クレアはちょっとだけ分別があるだけでどちらかと言えば脳筋側だ、社交辞令のように一応、説得の義務は果たすが相手の返答を待たずに既に攻撃の準備を始めていた。


 氷の槍は途中で軌道を変えて、様々な方向からスコーンを狙う。氷の槍は鋭利なだけでなく、少しでも傷を与えれば、傷口から相手の体内を凍らせる。それが数十本スコーンに襲いかかる。


 氷の槍はスコーンが避けることを想定した、牽制用以外全て命中した。


 しかし、スコーンに当たった氷の槍は全て、粉々に砕け、塵となり消えた。そのダメージの肩代わりをしたと、表現するには、おかしな話しだが、スコーンの足元には植物が生い茂った。


 「俺様の魔法は相手の攻撃の魔力をそのまま植物に変換させる、俺様に魔法は通じねえんだよ!」


 「だったら!」


 クレアは魔法での遠距離攻撃が通じないとわかると、接近戦をするために距離を詰める。


 「待て、クレア!」


 グランドの静止も聞かず、クレアは接近したそのままの勢いで飛び上がり、スコーンの顔面に蹴りを繰り出す。


 「魔法は効かねえ、当然、身体能力の強化も無効化する」


 クレアの素の身体能力も低くはなかったが、魔族のスコーンには届かなかった。


 スコーンはクレアを力任せに引き裂く為に、地面に着地する前で無防備なクレアの手足を掴もうとする。


 「妹達のことを言えねえな、お転婆娘!」


 グランドが相撲取りが四股踏むような動作をすると、スコーンの足元の地面から、大地が突き上がり、スコーンの巨体を空中に吹き飛ばす。


 「ぐおぉぉぉぉぉぉ」

 

 「今だファッジ、おそらく奴は地面に足がついていなければ、魔力を植物に変換する防御は使えない、風の刃で切り裂いてやれ!」


 グランドは相手が土属性の魔法を無効化出来なかったことから、相手の魔法の特性を見抜いた。


 「了解!」


 ファッジは風の刃を生み出して、相手を真っ二つに切り裂く、、、ただしその相手はスコーンではなく、グランドだった。


 グランドの体が左右それぞれ、崩れ落ちるのと同時、空中に飛ばされていたスコーンが落下する、クレアは間一髪その落下に巻き込まれないように転がり避ける。


 「いてー、やっぱ魔法以外は堪えるなぁ」


 どうやらスコーンは落下によって、本当にダメージを受けているようで、スコーン攻略の糸口に繋がりそうだが。クレアにはそんなことを考えてる余裕はなかった。


 「、、、ファッジ?」


 「ごごごめんなさい!どうしようグランドを、グランドを」


 ファッジは仲間を攻撃したショックか、酷く動揺してるようだったが。

 

 「そういう演技はいらないわ、、、ファッジッ!」


 クレアの怒号が響く、ヒカリ達を叱った時とは違う、優しさのない真の怒りによる怒号だ。


 「怖ーい、もしかして気付いてた?」


 「ヒントはあった。でも、確信がなかったのよ」


 それに、とクレアは続ける。


 「あんたを、、、疑いたくなかった」


 クレアとファッジそれにヒートは自警団の同期だ、自警団に入隊した6年間、一緒に戦ってきた仲間だ。


 「そんな風に思っててくれたんだ、嬉しい」


 クレアを中心に再び数十本の氷の槍が召喚される。


 「黙って、凍てつけ!」


 クレアは無差別に氷の槍を射出する。


 氷の槍はクレアの周りの全てを凍りつかせたが、、、スコーンは勿論、ファッジにも通じなかった。


 「めちゃくちゃやるじゃねえか」


 スコーンの周りに氷を割り植物が生い茂る。


 「でも、ごめんね、私は最初からスパイなの」


 ファッジは何事もなかったかのように話を進める。


 「まだよ!」


 クレアは自分の手に氷の剣を召喚して、ファッジの首を斬り落とそうとするが、ファッジは避ける素振りもせずその場で身動きを取らない。


 氷の剣はファッジの首に命中したが、首を斬り落とすどころか傷1つ付けられなかった。


 「ごめんね、私もそういうの効かないんだ」


 言いながらファッジはデコピンの要領で指を弾くすると、クレアの右手が肩から切断された。


 「くっ!」


 クレアは後ろに下がり、肩を氷の魔法で止血する。


 「可愛くない悲鳴、、、そうだ可愛く鳴くまで痛ぶって上げる」


 クレアは今度はファッジを丸ごと氷漬けにしようと魔力を集中する。


 「俺様を忘れてねえか?」


 気付けば後ろに迫っていたスコーンによって、真横に殴り飛ばされる。スコーンの魔法無効化は攻撃の際も発動するようで、クレアは魔法で防御することが出来なかった。


 「駄目じゃん、スコーン、あれじゃあ悲鳴が上げられないよ」


 「俺様に獲物を痛ぶる趣味はねえよ」


 クレアは血を吐きながら立ち上がると、再び氷の槍と剣を召喚する。


 「まだ立つんだ、さっすがクレア丈夫だね」


 ファッジは意地悪な笑みを浮かべ。


 「今度はどこを切り飛ばそうか?」


 「首一択だろ、てめぇはガキ共の回収もしなきゃ行けねぇんだろ」


 「ちぇっ、わかったよ」

 

 でもその前に、とファッジは続ける。


 「冥土の土産に聞いて言ってよ、私は、悪夢の茶会・会員NO.2、ファッジ」


 その言葉と共に風の刃がクレアの首に目掛けて放たれた。

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