4、悪夢の茶会の目的

 ヒカリ達がヒートに連れて来られたのは、普段、ヒカリ達が暮らしてるのとは別の町にある自警団の支部だ。自警団の支部は、魔族との戦争による文明崩壊前に存在した治安維持組織の建物を流用していた。魔法による補強は必要だが罪の疑いがある人物を閉じ込めておける設備があることがその理由だ。


 そんな支部では、ドガ、バキ、ポコ、という炸裂音と共に怒号が響き渡っていた。


 「あんた達、私と約束したわよね、自警団に入団するのに反対しない代わりに、危険なことをしないって!」


 怒号の主はクロナの姉でヒートと同じ、勇気の象徴の一員のクレアだ。炸裂音はクレアがヒカリ達をゲンコツした音だ。


 「でも、子供達が行方不明になってるのに、放っておけなかったんです」


 ヒカリはクレアに反論する。


 「気持ちは分かるわ、でもそれなら捜索依頼を受けるべきであって、犯人を捕まえようなんて危険なことをする必要はなかったわ」


 「ですが、捜索依頼は既に多くの団員が動いていても、進展がなく、別の切り口での捜査が必要だと思ったのです」


 今度はクロナがクレアに反論するが。


 「あんた達、子供が思いつく考えを私達、大人が思いつかないと思ったの?」


 流石に囮を使って捜査まではしていないが、自警団の大人達は誘拐事件として、事件の捜査をしていて、更に犯人の1人を捕まえて情報を聞き出すことに成功していた。


 「別にあんた達が、わざわざ危険を冒してまで、事件を解決する必要なんてなかったのよ」


 子供ならではの視点や発想なども確かに存在はするが、今回の件に関してはクレアの言う通りだった。


 「まったく、あんまり、心配をかけないで欲しいわ」


 クレアがヒカリ達に厳しいことを言ったのは、それが理由だ。血の繋がった妹はクロナだけだが、クレアにとってヒカリとココロも妹のような存在だ。大切だから、心配だから危険なことをして欲しくない、それがクレアの気持ちだった。


 「「「すいませんでした」」」


 そのクレアの気持ちを理解して、ヒカリ達は謝罪した。


 「分かればいいのよ、それに、どちらにせよ暫くは無茶なんてできないし」


 ヒカリ達が自警団の支部に連れて来られたのは、別にお説教のためではなかった。その理由はヒカリとクロナ、ココロの3人が誘拐犯の一味、悪夢の茶会に名指しで標的にされていたからだ。ヒカリ達は自警団に保護されるために支部に連れて来られていた。


 「あのー、理由は分かったんですけどー、何で牢屋なんですか?」


 ヒカリ達は檻に閉じ込められることになった。


 「当たり前でしょ、こうでもしないと、あんた達、また無茶なことをするでしょ」


 「まさかそんなことは、、、」


 「じゃあ思わなかったの?自分達も自警団のメンバーだ、自分達が狙われてるなら自分達が囮になるって」


 ヒカリ達は図星を突かれたのか黙ってしまった。


 「その気持ちは立派だけど、あんた達にはそういうのはまだ早いわ」


 それに、とクレアは続ける。


 「そんなことをしなくても、敵のアジトの場所なら分かってるわ、捕まえた奴が案外おしゃべりだったのよ。目的から何まで全部喋ってくれたわ」


 「目的?」


 「あんた達が知る必要はないわ、でも1つだけ教えて上げる。敵の目的にはあんた達が必要なの、だからあんた達がもし役に立ちたければ、囮になるよりも絶対に奴らに捕まらないことよ」


 それだけ言って、クレアは牢屋のある部屋から出て行った。


 クレアは部屋から出ると、ある部屋に向かった。


 「待たせたわね」


 その部屋は会議室で、既に人がおり、クレアを待っていた。


 「構わねーよ、あいつ等の姉もお前の仕事だからな」


 1人はヒートだ、会議室にはヒート以外にも2人の人物がいた。


 「おう!俺達も今来た所だから気にしなくていい」


 1人はグランド、彼もまた勇気の象徴の1人だ。


 「うん、私も気にしてないよ」


 彼女はファッジ、言うまでもないかもしれないが、彼女も勇気の象徴だ。


 つまり、この場所には現在の勇気の象徴が全員集合していた。敵のアジトが分かっていながら、直ぐに攻め込まなかったのはこのメンバーが揃うのを待っていたからだ。


 「そんじゃあ、話し合いを始めるか」


 「まずは敵の目的について話すわ」


 ヒートとクレアは先程ここに着いて、事情を知らないグランドとファッジにまずは状況の説明をする。



 「敵の目的は世界を破壊すること」


 世界を破壊すること、それが敵の最終目的だ。これから滅びる世界を破壊するのも、変な話だが不思議ではない、この世界にはどうせ滅びる世界なら自らの手で破壊するという輩が少なからずいる。代表的な者で言えばかつて戦争を引き起こした大魔王もその1人だ。


 「では何故、子供達を?まさか子供達を人質にでもするつもりか?」


 「いえ、もっと最悪よ、敵は子供達を魔物に変えて戦力にするつもりよ」


 魔物、それは人間、魔族、動物、植物に属さない、独自のカテゴリーの生物だ。その生態は摩訶不思議で体が液体のみで形成されている魔物などもおり、常識を超えている。


 「そんなことが可能なのか?」


 「それはわかんねーが、敵は本気でやるつもりらしいぜ」


 もしそれが可能になれば最悪の事態になる、元が子供の魔物を倒すことが、果たして出来るだろうか、もし出来たとしてもそのことに心が耐えられるのか。どちらにせよ世界は戦争の時同様、あるいはそれ以上の混沌に陥れられるだろう。


 「でもそのために必要なものを、まだ敵は手に入れてないわ」


 「クレアの妹達だ、だから自警団で現在保護してる」


 「それなら直ぐに子供達が魔物にされちゃうことはないんだね」


 「で、敵は何者なのだ、勇気の象徴を全員、集めるなんて、中々な事態だぞ」


 勇気の象徴のメンバーは普段は各地でそれぞれ活動していて、集まることは滅多にない。


 「理由は2つあるわ、1つは敵の手には子供達がいるから迂闊に団体での行動が出来ないこと」


 「なるほど、それで少数精鋭ってことなんだね」


 「そしてもう1つは、敵の首領が四大魔王の1人の可能性があるからよ」


 その場の空気が変わった。四大魔王という言葉を聞いた瞬間、実力者揃いのメンバーの間に緊張が走った。四大魔王とは、この世界を破壊することを目的とした個人で強大な力を持つ者達で、その実力は勇気の象徴に匹敵、あるいは超えるレベルだ。


 「可能性ってことは、確定じゃないんだよね?」


 ファッジが少し震えた声で尋ねる。


 「俺が捕まえた奴の話しだとよう、NO2より上の奴には会ったことはないが、偶然そんな話を聞いたことがあるらしい」


 「備えあれば憂いなし、理由は理解した。少数精鋭かつ総力を持って挑む事態のようだな」


 「出発はいつなの?心の準備が、、、」


 「今から1時間後に出発予定よ」

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