2、ボロ布皮の幽霊

 ヒカリに声をかけた人物は、ボロボロの布を頭から被り、その上にスーツを着ていた。だが良く見ればその布の動きは口にあまりにもリンクしていてとても被り物には思えなかった、それに何よりも腰から下がデフォルメされた幽霊のように煙のような物が漂ってるだけで、足は存在しなかった。


 ヒカリに声をかけたのは人間ではなく魔族だった。魔族の姿は多種多様で人間に少しパーツが増えただけの者もいれば、四足歩行の獣のような者もいる。


 「えぇっと、剣の稽古をしていたんです」


 ヒカリ達は誰かに出会った場合は、目的を悟られないように様子を見るよう打ち合わせをしていた。それは相手が魔族であっても変わらない。人間に善人や悪人がいるように魔族にも善人と悪人が存在する、魔族だからと言って誘拐の犯人と決まったわけではない。


 「何故、こんな所で剣の稽古を人里には修練場などもあるのではないですかな?」


 どうやら逆にヒカリの方が不審者として疑われてるようだ。


 「私、剣にあんまり自信がなくて、人に見られるのが恥ずかしくて」


 ヒカリがそれらしい、言い訳をする。


 「いえいえ、先程から見ていましたが、貴方の剣は素晴らしかったですよ」


 「本当ですか!」


 「えぇ、12、3歳程であれほどの剣を振れるなら将来は有望でしょうな」


 「私、、、16歳です」


 クロナの言った通り、ヒカリは実年齢と見た目より、幼く見られる傾向があるようだ。


 「これは失礼いたしました、何とお詫びをしたらいいか、、、」


 「大丈夫です、気にしないで下さい、、、慣れてますから」


 何だか気まずい雰囲気になり、魔族の方は退散するようだ。


 「16歳ですか、それを考慮しても素晴らしい剣です。ひょっとして貴方はヒカリ様かクロナ様、いえおそらくヒカリ様でございますね」


 魔族は去り際にヒカリ達の素性に心当たりがあるらしいことを言った


 「何でそれを?」


 「いえ、ただ私の主から、貴方を拐える機会があれば優先するように言われていましてね」


 不穏な返答にクロナとココロが木の影から飛び出す。


 「聞き間違いでなければ拐うと言ったな、お前が最近の誘拐事件の犯人か?」


 「その通りでございます。私は悪夢の茶会・会員NO.3、マカロンと申します」


 「悪夢の茶会?」


 マカロンと名乗った魔族は悪夢の茶会という組織に属しているようだが、ヒカリ達には聞き覚えがなかった。


 「知らないのも無理はありません、表舞台に出て来たのはつい最近のことですから。ところで今出てきたおふたかたはクロナ様とココロ様ですね」


 「私のことも知ってるの〜?」


 「えぇ、ヒカリ様、クロナ様、ココロ様は優先して連れてくるように仰せつかっております」


 「一体何のために、子供達を拐っているの?」


 「付いて来て頂ければ知ることが出来ますが」


 「悪いが、付いて来て貰うのはお前の方だ」


 ヒカリとクロナは剣を構える。


 「やれやれ、荒事は好まないのですがね」


 ヒカリとクロナをそれぞれ別の色のオーラが包んだ。ヒカリの方は白のオーラ、クロナの方は紫のオーラだ、これは敵の攻撃ではなく魔力によって身体能力を強化する技だ。


 「それが噂に聞く、光属性と闇属性の魔力ですか」


 魔力とは、人間や魔族が自然を超越するために使うエネルギーで、6つの属性が存在する。このうちの火、風、土、水にはそれぞれに相性のいい相手がいるが、光と闇の2属性はその4属性全てに相性が強い特別な属性だ。属性は人によって決まっており、光と闇は希少性が高い。


 「では、私も戦闘態勢に入らせて頂きましょう」


 そう言ったマカロンの目からは涙のように煙が溢れた。その煙は次々と小さなマカロンになっている。


 「これが私の魔法です」


 人間の魔法は身体や武器を強化したり、火属性なら火を、水属性なら水を召喚したり操ったりするのに対して、魔族の魔法は姿と同様に多種多様だ。マカロンの魔法は小さな自分の分身を出すことだ。


 「鬱陶しい」


 クロナは剣でマカロンの分身を切り裂く、分身は煙に戻り消えてしまった。


 「どうやら一撃で倒せるようだな」


 「私の分身に防御力はありません、ですが攻撃力は中々ですよ」


 「クロナ危ない!」


 クロナの死角からマカロンの分身が攻撃を仕掛けようとするが、ヒカリがこれを攻撃してクロナを助ける。しかしこれによって隙が出来たヒカリをマカロンの分身が攻撃する。


 「きゃぁ!」


 「ヒカリ!」


 ヒカリは吹き飛ばされて、木にぶつかり止まった。ダメージは内臓にまで届いているのだろうヒカリは血を吐いた。魔力で身体能力を上げてなければ、文字通りバラバラになっていただろう。


 「ココロ、ヒカリを頼む!」


 「任せて〜」


 ココロは手の平をヒカリに向けて、その手の平からは炎が放たれてヒカリの体を燃やした。炎はヒカリの体を傷つけるのではなく、癒やしていった。


 「魔力が攻撃に使えない代わりに治癒に特化した治癒術士でしたね」


 「ありがとう、ココロ」


 ヒカリは先程までのダメージが嘘のように戦線に復帰する。


 「すまない、ヒカリ油断した」


 「敵は、いっぱい居るんだもん一匹くらい見逃しても仕方ないよ」


 「だがもうそうは行かないさ」


 2人はお互いの死角を潰すように戦う。攻撃力は凄まじいがこっちの攻撃が当たれば簡単に倒せる、2人は次々とマカロンの分身を倒していく、しかし、ガキン、とヒカリの剣が止まった。


 「あれ!?」


 「何体か防御力に特化した分身を用意しました」


 ヒカリの動きが止まり隙は出来るがそれをクロナがカバーする。


 「これで貸しはなしだ」


 「ありがとう」


 だが今ので攻撃が効かなかった分身は他の分身に紛れてしまった。


 「さて少し減って来ましたね、では追加するとしましょう」


 マカロンは更に煙の涙を流して分身を増やした。


 「まだ増えるのか!?」


 防御特化の分身の影響で慎重な戦いが要求される状況での分身の追加にヒカリ達は更なる苦戦を強いられる。肉体の疲労はココロの治癒魔法で回復出来るが、それも無限ではない、それと同じで肉体を強化している2人の魔力も有限だ。


 「もーう、一体、後何体いるの!?」


 「私の魔力量からするとこれで10%程ですな」


 マカロンの言ってることが本当で有れば絶望的な数字だった、今のヒカリ達にとって、この2倍の数が来るだけでも限界なのに、敵の限界は更にその5倍程だと言うのだ。


 「諦めて、付いて来て頂けますか?」


 マカロンは降伏を進める。


 「断る、私達は何があっても、諦めない」


 「では、仕方ありませんね、なるべくは自主的に来て頂きたかったのですが」


 マカロンは煙の涙を流して、分身を増やすその数は今の3倍でヒカリ達の限界を超えていた。


 「さて、紳士的ではありませんが、まずは治癒術師を狙うとしましょう」


 マカロンの分身の半分がココロを狙うがヒカリとクロナは防御特化の分身に阻まれ助けに行けない。ココロも戦闘に参加するだけあって、全く動けないわけではないが魔力で身体能力を強化できないため限界は早い、1体目の攻撃をかわして、2体目は相手が攻撃する前に攻撃して倒す。だが3体目の攻撃と1体目の2撃目には対処できない。


 「「ココロ!!」」


 ヒカリとクロナが叫ぶ。


 だがマカロンの分身の攻撃がココロに当たる瞬間、2体共炎によって焼き尽くされた。


 「おや、攻撃に魔法を使えないと聞いていたのですが?」


 「あたしじゃないよ〜」


 「全く、だから反対だったんだ、お前等みたいなガキを入団させるのは」


 戦場に新たな人物が現れる。


 「貴方は確か」


 「終末自警団・勇気の象徴ブレイブ・フォースのヒートだ」

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