第1章 悪夢の茶会
1、残り3年の世界と迷い子
神が降臨してから97年が経過した。世界に残された時間は残り3年だが意外にも世界は平穏を保っていた。滅亡へのカウントダウンが迫れば再び戦争が起こる可能性が示唆されていたがそうはならなかった。理由は様々だが1番の理由は人々は既に希望を失っていて、滅亡を嘆く気力すらなかったからだ。
「出発準備完了、早く行かなくちゃ約束に遅れちゃう」
彼女の名前はヒカリ、こんな世界であっても希望を捨てない1人だ。彼女は終末自警団に属しており、今日は仲間と一緒に仕事をする約束をしていたが、寝坊して約束の時間に遅れそうになっていた。
「ヒカリの奴、また寝坊したらしい」
彼女はクロナ、彼女もまた希望を諦めない1人、ヒカリの仲間で連絡端末に来た遅刻の報告をもう1人の仲間に伝えた。
「ヒカリは朝が苦手だから、しょうがないよ〜」
彼女はココロ、ヒカリとクロナの仲間で、希望そのものを信じるというよりはヒカリとクロナを信じていた。
「ごめーん、寝坊しちゃった!」
クロナとココロの元にヒカリが現れたのは約束の時間から、30分が過ぎた頃だった。
「ごめんじゃないだろう、これで何度目だ!」
クロナはヒカリの頬っぺたを引っ張り、問い詰める。
「まぁまぁ、ヒカリもわざとじゃないし、このくらいで許してあげようよ〜」
ココロが仲裁に入るが。
「いいや今回は許さん、ヒカリお前、前回遅刻した時に何て言ったか覚えてるか?」
ヒカリは遅刻の常習犯で前回遅刻した時に2人に約束ごとをしていた。
「次に遅刻した場合、煮るなり焼くなり好きにしてください」
「そうだ良く覚えてたな、なので煮るなり焼くなり好きにさせて貰う、さて何をしようか?」
クロナはココロと相談して、ヒカリの罰ゲームを考える。
「よし、決まったぞ」
「どうぞお手柔らかにお願いします」
「安心しろ、この罰ゲームは私ではなくココロが考えた」
ココロは優しく温厚な性格なので、痛みを伴う系の罰ゲームは考えないがその変わりに、、、
「ヒカリは1週間、お菓子禁止〜」
「そんなぁー!」
緩いように見えるが、ヒカリにとってそれは、痛みを伴う罰ゲームよりも過酷なものだった。
罰ゲームも決まり、3人は仕事をすることにした。終末自警団の仕事は主に周辺のパトロールや掲示板に貼ってある人々の困りごとの解決、それに荒事の際の戦闘員だ。3人は今日、掲示板に貼ってある困りごとの解決をすることにしていた。
「また増えてるな、行方不明」
最近1番多い困りごとは、行方不明者の捜索だ。もちろんこんな世界だ、行方不明者など珍しくはない、事件に巻き込まれる場合もなくはないが、その大半は滅びる世界に絶望した者が1人で旅に出たり、何処かひと気のない場所でひっそりと自ら、、、、だが最近、増えている行方不明者には無視出来ない傾向があった。
「おかしいよね、子供ばかりこんなに沢山」
最近の行方不明者の多くは子供で依頼者の多くはその親だった。子供だからと言って、寧ろ短い人生しか生きられない子供だからこそ、生きることに絶望して過ちを犯す可能性も0ではないが、あくまでそこまでの考えに至るのは10代になってからで、行方不明者になった子供の年齢は3歳から16歳と幅広く、流石に3歳や4歳の子供が人生に絶望して自ら、、、とは考えにくかった。
「どうする、捜索依頼を受けるの〜?」
「いや、やめておこう」
クロナは捜索依頼を受けるのに反対のようだ。
「えぇ、でも子供が沢山行方不明になってるのに見過ごせないよ」
ヒカリは捜索依頼を受けることを提案する。
「別に、このまま見過ごすなんて、言ってないさ」
クロナは、捜索依頼を受ける以外のある提案をした。
「この事件にはどう考えたって黒幕がいる。私達はそっちを捕まえるために動く」
クロナは子供の捜索ではなく、行方不明になった原因の方の解決を提案した。
「なるほど、まぁあたし達にはそっちの方が合ってるかもね〜」
ココロも賛成のようだ。
「流石クロナ、私も賛成だよ」
ヒカリも賛成したことで、3人は黒幕の発見による事件の解決に動き出した。
3人は不迷の森と呼ばれる森に来ていた、この場所は目印になる木が多く道を覚えやすいことからそう名付けられた。通常時であれば子供達の遊び場として賑わっていたこの森だが今は子供の姿はなく、変わりに子供の捜索依頼を受けた自警団が子供達の捜索を行なっていた。行方不明になった子供の多くがこの森に遊びに行くことを親に伝えたか、最後に目撃されたのがこの森で、行方不明事件が話題になってからは親達がこの森で子供を遊ばせることはなくなり、今では不迷の森ではなく、不明の森などと呼ばれている。
「一応、可能性が1番に高そうだから来てみたが、ここじゃ人目がありすぎるな」
ヒカリ達は黒幕の捜索のために、ある作戦を考えていたがここでは適さないようなので別の場所に移ることにした。
「でもここ以外も、めぼしい場所は自警団の人が見張りをしてるよ〜」
当たり前の話しだが、この事件を誘拐事件と考えたのはヒカリ達だけではなく、捜索以外にも警備に出ている自警団メンバーも少なくはなく、進展こそないものの黒幕の捜索も行っていた。
「警備が本格化しだしてからも行方不明者は増えている。流石に自警団の人員だけで全ての場所を見張るのは無理だろうからな」
「それなら、私達は警備の死角を見つけて罠を張るんだね」
「そうだ」
罠を張る以上、警備の死角であるだけでは駄目だ、罠が不自然に感じられない場所でなくてはいけない。3人が向かったのは、魔女の森と呼ばれる場所だ。この森は魔女こそ出ないものの、不迷の森と違い目印になる木などはなく迷いやすいので、子供が入らないように怖がらせる為、魔女の森と名付けられた。
「こっちにも、自警団の人がいるね〜」
「でもあの場所なら多分いないよ」
実はこの森はヒカリ達の子供の時の遊び場で、ヒカリ達しか知らない穴場スポットを幾つか心当たりがある。ヒカリ達はその場所に罠を張ることにした。
「やっぱり、納得行かないよ!」
クロナが考えた作戦は囮作戦だ、行方不明になった子供達の年齢は3歳から16歳、ヒカリ達の年齢はギリギリそのラインに収まっていた。
「しょうがないだろ、この中で1番子供っぽいのはお前なんだから」
ヒカリは別に年相応の成長をしていないわけではなかったが、性格の幼さが災いしてか2〜3歳程、幼く見られてしまう。
「あたしが変わろうか、背もあたしの方が低いし〜」
ココロが提案するが。
「駄目だ、確かに16歳の行方不明者もいるが、多くはもっと幼い子供達だ、この作戦は幼い程適任なんだ」
「私も2人と同い年だよ!」
ヒカリは文句を言うが結局は囮役になることになった。
「囮役って、何をすればいいの?」
「剣の素振りなら、こんな場所に1人でも不自然さは減るだろう」
こうして、ヒカリは素振りをしながら、クロナとココロは木の影に隠れながら様子を見ること1時間、ヒカリが3回目の休憩に入ろうとした頃、そいつは現れた。
「お嬢さん、こんな所で何を?」
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