第二話 世界一素敵な男性

 カロリーヌは不安を抱えながら学園の卒業パーティの日を迎えていた。


「ブロワーズ様、とうとう卒業ですわね。ブロワーズ様と同じ学び舎で同じ時を過ごせてわたくし幸せでした」


「そうだな」


 ブロワーズはそっけなくそう返事をしただけで、すぐに近くにいる友人に話しかけた。まるでカロリーヌを拒絶するかのように。


(どうしよう。心が折れてしまいそう。これから何十年もこの人とは一緒にいるのだから頑張らなくては)


 カロリーヌは必死に涙を堪えた。


「カロリーヌ、ちょっといいか?」


 カロリーヌを呼ぶ声が聞こえた。カロリーヌが振り返るとそこにはこの国の第一王子シャルが立っていた。


「シャル様、ごきげんよう。わたくしに何かご用でしょうか?」


「いや、特に用というわけでもないんだ。卒業だしキミともう少し話しておきたくてね。迷惑だったかな?」


 ブロワーズに冷たくされた悲しみが残るカロリーヌの表情を見て、シャルは迷惑だったのではと心配した。


「いいえ、迷惑だなんてそんな……とんでもございません。卒業で感傷に浸っておりました」


「なら良かった。思えばキミとはあまり喋る機会もなかったな。一部の生徒から聖女とまで呼ばれているキミとはもっと話しておきたかったんだ」


「そんな、恐れ多いです。ですがわたくしもシャル様ともっとお話をさせていただきたかったです。シャル様が『この学園で身分の違いはないこととする』という校則を作り、条件付きで平民を受け入れたこと、わたくしは本当に感動いたしました」


「当然のことだよ。何より私自身嫌なんだ、身分の違いで偉そうにするやつらが。キミは魔力が高くても偉そうにすることがまったくなかったな」


「わたくしも長所の何かひとつを切り取って自分がさも優れていると思い込んで偉そうにする方が好きになれません」


「そうか。やはりキミは素敵な女性だ。 ん? すまない。呼ばれているようで行かなくてはならない。今日のパーティはお互い楽しもう」


 話し始めたばかりだったが、シャルは急に教師に呼ばれて行ってしまった。


(素敵なのは王子の方ですよ。偉そうにしないだけではなく誰に対しても優しく、勉強も運動も出来る王子。お顔だって誰よりもハンサムだし。本当に素敵。魔力がほとんどないのにそれを気にせずにいるというのも本当みたいだし。あぁ、手の届かない存在だけれど本当に世界一素敵な男性……)


 パーティは終りに近付いていた。


 カロリーヌはブロワーズに呼び止められた。

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