第45話 トップ争い 6
いつの間にか、図書館で勉強しているマルのもとにアジェンナ人の生徒達がやって来るようになっていた。そしてカサン語の課題の分からない所をマルにあれこれ尋ねるのだ。マルはその事が嬉しかった。アジュ人の貴族様の子弟である彼らは、マルにとってこれまで決してお近づきになれる人達ではなかった。違う世界の人達だと思っていた彼らとも、少しずつ気持ちが通じ合う気がしてきた。
(これもカサン語のお陰なのだ! もし自分がヒサリ先生に会う事も無く、カサン語を学ばなかったら、こんな経験も出来なかっただろう……!)
しかし、こう思うたびにマルの体が激しくうずいた。
(でもやっぱり、ヒサリ先生に会わなきゃ良かったんだ! ヒサリ先生に会わなければ、こんなにつらい思いをする事も無かった!)
マルはシンに向かって言った。
「ここで教官に殴られたり先輩にいじめられたりするのは確かに怖いよ。でも、おら最近分かったんだ。そういう事よりも、信じていた人に裏切られる方がはるかに辛いって」
「お前、いつまで未練たらしくその人を恨んでるんだ? 女を三日以上恨むな! 女を恨む男には蛆がわくぜ」
「女じゃないよ。先生だよ」
「先生だってここがそんなにひどい所だとは知らなかったんだよ。なんせここは最高の教育が受けられる場所だって触れ込みじゃねえか。世間じゃな。先生もきっと、お前が王侯貴族みたいな暮らしをしてるって思ってるぜ」
マルは黙っていた。自分の思いをどう伝えていいか分からなかった。マルは今、自分が学校でつらい思いをさせられている事を恨んでいるのではない。もしヒサリ先生が、「私は名誉が欲しい。あなたがカサン第一高等学校の辛い生活を我慢してくれたら、私はそれを得る事が出来る。私のためにどうか耐えて」と頼んでくれたなら、喜んでここに来ただろう。けれどもヒサリ先生は「あなたの将来のため」などと言って、冷たく自分を引き離したのだ。
「お前は周りにさんざん愛されてきたんだろうなあ。そしてその愛が自分の思い通りでないと、そんな風にすねる。でもな、いい加減男になれ! 自分を愛してくれない女でも愛する。それが真の男ってもんさ。たとえ自分を裏切り、傷つけるような女でも、広い心で愛してやるんだ」
(おらはとてもそんな風にはなれない……)
マルはシンの言葉を聞きながらため息をついた。
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