第43話 トップ爭い 4
以後、授業中のマルはそれまでの控えめな態度を捨てて、人が変わったように積極的に手を挙げて発言するようになった。とはいえどの科目でもトップのタク・チセンに勝つ事は容易ではない。しかし、一番得意なカサン語だけは絶対に負けない、と目標を立てた。ヒサリ先生の学校のように唱歌の授業があれば勝てる自信があったが、残念ながらここには無い。彼に勝てるとしたらカサン語だけだ。マルはカサン語の授業の度に、先生に質問されたら素早く手を挙げ、当てられる回数がタク・チセンより少なければ人のいない所で地団駄を踏んで悔しがった。
(カサン人に嫉まれてもいい! カサン人にいじめられたり蹴られたりしたら、正義感の強いタク・チセンはおらを軽蔑しながらも助けようとしてくれるかもしれない。でもね、その時おらはクールに言い返してやるんだ。『君の助けなど必要はない』って!)
月に一度の全体朝礼で、全学年の主要科目の上位者が発表され、メダルが授与される。マルが初めてカサン語で一番を取った時、朝礼の間はさすがに我慢していたものの、後でシンと二人きりになった時、抱き合い、転げ回って喜んだ。
「『ハン・マレン君!』と呼ばれて前に出る時の気持ちといったら! こんな気持ちになるの生まれて初めてだよ! おら、これまで『名誉』ってものの意味が分からなかったけど、今なら何となく分かる。名誉をもらって嬉しいって、こういう事なんだね!」
「お前はいいよなあ。それにしても俺は何で教練でメダル取れないんだろうなあ」
シンの言葉を聞き、マルは思わずフフフと笑った。
「だってシンったら全然先生の命令を聞かないんだもん。それに、何だかシンはメダルはあんまり似合わない気がするなあ」
「言ってくれるじゃねえか。でもなあ、お前だってその首に下げてるメダル、似合ってるとは言えねえぜ」
「分かってるけど」
マルはメダルをいじりながら言った。
「お前の言葉の才能はそんなメダルなんかに収まるもんじゃねえ」
マルは心の中で思った。シン、おらが本当に欲しいのはメダルなんかじゃない。タク・チセンに認められたい。それだけなんだ。
マルは以後、一度もカサン語で一番の座を譲る事は無かった。記憶力で勝るタク・チセンより常に自分の成績が上なのは、カク先生がカサン語の作文でいつもマルに一番の点数をくれるからだ。その理由はマルにもよく分からなかったし、不思議な気がした。自分は字も汚くつまらないミスもやらかす。タク・チセンは完璧な作文を書いているはずだ。きっと自分は母語がカサン語でないから、カク先生が下駄を履かせてくれてるんではないか。
(でも、それじゃ本当にタク・チセンに勝った事にならないんだ!)
実際、タク・チセンのマルに対する態度は少しも変化したように見えなかった。
(他に何なら勝てるだろう? 歴史は?)
マルはタク・チセンのように物知りになるように図書館で歴史の本を借りて熱心に読み込んだ。しかしすぐに困った事に気が付いた。授業や試験とは関係ないようなエピソードや歴史上の人物のさして重要ではないの逸話ばかりが面白く、ついつい読みふけってしまうのだ。そして試験のために覚えなければならない事がなかなか覚えられない。
(ああ、そういえば、母ちゃんが昔言ってたな……母ちゃんはどんな歌物語も、三度聞いたら完璧に最初からしまいまで覚えられたって。タク・チセンもきっとそんな頭を持ってるんだろう。でもおらはそうじゃない。面白くない事はちっとも覚えられない……!)
マルは頭を抱えて身もだえした。もっと勉強時間が欲しかった。そのため、同室の上級生から押し付けられる雑用や宿題に苛立ちを感じるようになった。そしてそれが言葉や態度に表れているのではないかと、ヒヤヒヤする事もあった。
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