第42話 トップ争い 3

授業が終わると、マルは気持ちが抑えきれず、さっそくタク・チセンのそばに駆け寄った。

「君はにシテ州の人々の反乱について、どうしてそんなに知っているの? どんな物語に書いてあるの? 教えてほしいな」 

「物語ではない。四百年前に書かれた『泥国記』という記録文書やその他歴史の本だ」

「君の話を聞きながら、おら、故郷の友達の事を思い出したの。彼も山の民なんだ。おらの故郷の山の民は『魔法の実』というのを栽培しててね、それがちょうど君の言っていた『ケファ』と似てるなって……」

「君の友達の話など聞きたくはない。お前は自分の知っている事も知らないと言う卑怯者だ。卑怯者の友達など卑怯者に決まっている」

 マルは驚き、ショックでフラフラとよろけつつ後ろに下がった。そしてそのまま自分の席に戻った。

席につき、机の上に置いた拳をじっと見つめているうちに、マルの内にこれまであまり味わったことのない感情がじりじりと沸き上がった。それは「怒り」だった。

(なんで? なんでそんなひどい事言われなきゃいけないの? 知ってる事を知らないと言った位で! だって、そもそもアジェンナ人が自分達より物知りなのを嫌がっているのはカサン人じゃないか! カサン人に嫌な思いをさせたくないからそうしただけなのに! タク・チセンは、おらがアジェンナ人だから、バカにしてるんだ、きっと! もしおらがカサン人ならこんな意地悪な事言わないはず……)

「マル、気にするな。女に振られたんならまだしも、あいつ、図体がでかいだけの愛想もクソもねえ男じゃねえか。どうだっていいだろ」

 横の席からシンが、マルの肩を叩いて言った。

「おら、悔しい……おら、決めた。カサン語なら絶対、絶対負けない。タク・チセンに勝って一番になって、タク・チセンを見返してやる!」

「おお! 覚醒したな、ハン・マレン! あんな眼鏡野郎なんかに負けるな! 俺も応援してるぜ!」

 シンはさらに力強くマルの肩を叩いた。

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