後編
まあ別に追い出されたところで、不便は無い。
そもそもこの国に来たのだって、転移魔法で砂漠を越えてきたくらいで。
こんな小さな国家より距離があるのだもの。もう一度戻ってあの子を連れ出すくらいは簡単だわ。
それに私の下着(おばさん下着でがばがばだと笑われている)が無制限マジックボックス仕様になってるなんて、まあ誰が知ってるだろう。
だからまあ、いざという時のために路銀だの食料だの野営道具だの詰め込んでおいたけどね。
私だけなら別に、砂漠越えた元々育った国そのものに飛んでもいいんだけど、あの子連れてだと多少変わるかな?
とりあえずはあの可哀想な子を救い出しに行こうか。
よっ、と私はマルレーネを思い浮かべて転移した。
するとちょうど王に手込めにされそうになっているところだった。
「な…… お前、追放したはずじゃ」
「おばさま!」
「おお、おばさま来ましたーーー! お嬢さん、この自分の姪に欲情する変態のために聖女するのと、このおばさんについて旅するのどっちがいい? それとも実家が心配?」
「助けて下さいおばさま! 実家なんて…… あんなところ…… 潰れてしまえばいい!」
ぱん、と私は手を打った。
途端に王の身体が浮き上がり、彼女から離れる。
「おばさまあああああ」
彼女は私にしがみついてきた。
ああもう可哀想に。
手とか荒れてるわ。
色々今まで辛い目にあったのね。
「き、貴様ーーっ! 下ろせ! すぐに儂を下ろすんだあああ! 衛兵!」
「まあまた適当に自分の好みの女を聖女ってことにすればいいわ。そもそも衛兵だって今はしっぽりやってるから入るなとか言ってるんじゃない?」
「この年増女が!」
「年増だから色々知ってるんじゃないですか。だいたいこの国、何を聖女としているか判ってないし。じゃあね」
そして私はマルリーネと供に国境の森に転移した。
*
「ここは……」
マルレーネはこんなところに来たことが無いのだろう。
目をぱちぱちさせて周囲を眺める。
「私がさっき追放された場所よ。国境ね」
「おばさま、何かしら、この先が薄緑の光でぴかぴかしてる……」
「あら本当に素質あったのかしら。よし、まあこれ解いておきましょうか」
ぱん、とまた手を叩く。
途端に光が消える。
「これが聖女の加護ってやつ。というか魔力。この小さい国全体にかけていたんだけどねえ。貴女そのままあそこに居たら、これを出せって言われてたところよ」
「ええっ! そんなことできませんっ!」
「そうよねえ。馬鹿ばっか。そんじゃ行きましょうか」
「え、何処へ?」
「何処へでも。ともかく今から魔物はこの国に集中するから、私達は安全に旅ができるわよー」
「……なるほど、そうですね!」
彼女は両手で拳を作って握りしめた。
実際遠くからどどどどどどど、という音がし始めた。
おお、今まで溜まっていた分が一気に来るな。
「それじゃあ行くわよ」
「はいっ」
私達は跳んだ。
聖女がおばさんってことが嫌だったんでしょうねえ。 江戸川ばた散歩 @sanpo-edo
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