聖女がおばさんってことが嫌だったんでしょうねえ。

江戸川ばた散歩

前編

「お前は偽物の聖女だヘリオーネ! よって私はお前との婚約を破棄し、真の聖女であるこのマルレーネと結婚する!」


 ある晴れた日に~

 私の婚約者となっている王は、職場である神殿から私を呼びつけ、こう言い放った。

 王の横には、私と同じ服を着た――って言うより、着せられた、だわね。

 若い娘が居る。

 着慣れない簡素な服に自分がどうしていいのか判らない、という表情だわ。

 そうね、十七~八ってところかしら。

 長い髪もそれまで結っていたのをいきなり解かれた様。

 まだ跡がついているわ。

 でも大丈夫かしら。

 何かぶるぶる震えてるじゃない。

 結婚ってねえ。

 こんな態度の若い子としようっていうのかしら。

 マルレーネ、か…… 

 そう言えば確かその名前、王の弟である大公家の末の娘じゃなかったかしら。それも確か、大公が街の女に生ませた。

 あらまあ! じゃあ何、姪じゃないの!

 何考えてるのかしらこの男。

 ってことを一気に考えていたら、返事をせい! とか言いやがりますから、答えてやりましょうか。


「はあ。左様でございますか」

「何だその言い草は! まあいい、とっととこの女を国外に追放しろ!」


 そう言って兵達に私の周囲を取り囲ませる。


「国外、でございますか」

「何度も言わすな! 国外と言ったら国外だ!」

「判りました。それではごきげんよう」


 マルレーネとかいう少女には可哀想なんだけどな。

 確か、大公も最近になってその存在に気付いて引き取ったんじゃなかったかしら。

 それで引き取ったはいいんだけど、身分の高さからなかなか結婚できない娘や息子達の中で、小さくなっているとか。

 それを久々に訪ねてきた王が何をとち狂ったか、見初めちゃったってことね。

 でも姪は無いわよ!

 何かすがる様な目で見ているわね。

 さてどうしたものかしら。だいたいそもそもあの子、どう見ても聖女の力なんか見当たらないんだけど。



 さて。

 私が色々考えている間も兵達の動きはてきぱきとしていた。

 まあ王は前から私との結婚なんぞ、と思っていたんだろうな。

 何たって私が聖女として見つけられた時点で四十代。

 それから数年して、もう五十近い。

 向こうもそのくらいの年齢なんだから、客観的に見ればお似合いだけど、まあーーーーーー無理でしょうね! 

 常に美女とかその辺りの貴族の奥方とか献上させてる様な王だから!

 なのに聖女とは結婚しなくちゃならない、ってことで正妃の座はずっと空けられておいたって言うんだからね。

 さすがにこの王はもういい加減堪忍袋の緒が切れたってところでしょうよ。

 でもねえ、こっちだって溜まったものじゃないのよ。

 もともと聖女とか何とやらと言っているのは、広域の守護力を持つだけのことで、どっちかというと魔力なんだわね。

 ただそれがどういう仕組みで成り立っているか、っていうことがこの国は研究されていないのよ。

 私はこの国に来た時に、あまりにも荒れ果てているから、ちょいと力を使ったらそれで見つかってしまった次第だけど。

 そう、聖女というよりは魔女の部類なんだけどなあ。

 その違いも判らない神殿も眉唾だし、そもそもこの国、何の神を何のために祀っているのかも体系だっていないじゃない。

 新しい国と言えばそうなんでしょうけど、形として酷すぎる。

 うーむ。

 そんなことを考えていたら、私はさくさくと連行され馬車に押し込まれ、国境の森で突き飛ばされた。

 やれやれ、と今さらの様に思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る