第19話 黒幕
「お前、もしかして黒躍団の関係者か?」
その言葉を言った瞬間、僅かだがアララスの体がピクっと動くのがわかった。
それは恐らくエレナやカンナでは見抜けない本当に小さな動きだろう。
俺は地獄で延々と魔物と戦ってきたから、相手の僅かな筋肉の移動や視線、動きなどは敏感にわかるようになっている。
「やはり、そうなんだな。昔黒躍団に入っていたか?いや、S階級冒険者のお前が入っているとは思えないし…、もしかしてアルゴを操っていたのはお前か?」
「黒躍団に…?ギルドに黒躍団と接触しているあなたの報告が上がってきていたが、それは本当だったようだな」
既に証拠は出揃っていて、アララスがどう説明してもこの場の空気は変えられないだろう。
そう考えたのか、アララスは強めの舌打ちをすると張り付いていた笑顔が崩れ落ちた。
「あはは!もういいよ、そうだ。僕が黒躍団を作った。正確には作り直したと言った方がいいかな?」
「なんだと…?」
「当時この街にいた小さい犯罪集団を利用して盗みをさせ、それをこの街で骨董屋として売っていたのだよ。いやぁ、しかし数日前に誰かに潰されてしまってね…。僕は今むちゃくちゃ機嫌が悪いんだ。だから、こんな短絡的なことは普段はしないが、考えるのが面倒だと思ってしまったんだ。だから…」
その刹那、空気がアララスに支配された。
緊張感で体が重くなり、まるで猛獣に睨みつけられているような威圧感で戦意が削がれていく。
「ギルマスを抹殺すればどうにかなるってね!」
アララスのその顔は先程までの笑顔が嘘かのように怒りに満ちた顔をしていた。
「どうせ君が色々裏で動いて黒躍団を潰して僕の大事な獲物を誰かに狩らせたんだろう?」
「え?黒躍団を潰したのもクラーケンを倒したのもレオさんですよ?」
え!?と思い、後ろを振り返るとそこには「間違ってるから指摘してあげました!」と言わんばかりの顔をしているエレナがいた。
「…この男が…?にわかには信じられないな…。ねぇ、君」
その時、俺の横を高速で走り抜けたアララスが奥にいたエレナに接近した。
油断してたとはいえ、全くその速度に反応できなかった。
「嘘はダメだよ」
アララスは既にエレナの胸ぐらを掴んで持ち上げ、拳を構えている。
こいつ、女の子を殴るとか正気か?
「…?」
「待てよ、流石にそれは無」
構えた拳を俺は押さえ付けると子供に注意するかのように言葉をかけた。
しかし、その言葉を全ていい切る前に目の前にアララスの拳が顔面に飛んできた。
「このS階級冒険者様に歯向かうから死ぬんだ。どうやらそれなりの強さはあるらしいけど…」
上から偉そうにものを語ってたアララスの顔が一瞬にして驚愕の表情へと変わった。
それは恐らく、目の前に顔面を殴り付けて倒したと思っている男が無傷で立っていたからだろう。
「なぁ、女の子に急に殴りかかったり、突然暴れ出すのはどういう了見なんだ?」
S階級冒険者アララスはいつかの王都に向かっていた魔物の軍勢を退けた時に大活躍をして、その強さが認められてS階級冒険者になった。
S階級冒険者とはそういう国家の危機を救ったり、歴史に名を残すほどの功績をした者に与えられる称号だ。
そんな男が今、目の前のなんでもない普通の男にビビった。
何か本能が訴えかけるような根源的な恐怖を呼び起こされた気がして、アララスは萎縮する。
しかし、それと同時にアララスには「何故こんな名も知らない奴に怯えているんだ」という、プライドが傷ついた感覚もあった。
刹那の間、恐怖が上回ったが次第にプライドが傷ついたことへの怒りが増幅していく。
そして、その怒りは行動を起こさぬ限り収まらないと思ったアララスはこの状況の中で一番の悪手を選択した。
「舐めるなぁ!!」
そのプライドや名誉を回復するためだけに繰り出された拳は目の前の男、レオによって簡単にいなされる。
体勢を崩して倒れそうになり、無防備を晒したアララスの体にレオの拳が接近する。
「待って!」
「あっ、ぶねぇ」
だが、恐らく人を殺す威力を内包しているだろうと察したライアルの言葉によって、レオは止まったのだった。
「…泡吹いて倒れてますね…」
「あぁ…、自分が強いからこそレオの拳が容易に死に至るものだと察してしまったのだろうな」
危ない危ない…、ライアルさんが言葉をかけてなければ本当に人殺しになっていたかもしれない。
この力を使うのは、本当に必要な時以外控えた方がいいかもしれない…。
俺たちは倒れたアララスを縛り付けて、改めて宴を再開することにした。
アララスの悪事をギルドに報告するのは明日でも大丈夫だろう。
スキル【無限地獄】から解放されるされた俺は、自由気ままに遊び尽くす! エミュエール。 @emyueru
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