第18話 乾杯
ライアルは早速エレナとレオを担ぎあげて、この街の英雄として盛大に宴をやろうと考えていた。
そうすれば、アララスの野郎に払う金も要らなくなるし、奴もこの街にいる必要もなくなる。
それにあの圧倒的なレオの強さは恐らくどんな魔物が来ても倒せると思わせる実力があった。
それは例えS階級の魔物や災厄級の魔物が来たとしても私は同じことを思うだろう。
あの時の拳は生命を絶命させるのは至極簡単だと、思い返して寒気がする。
だからこそレオとエレナにはこの街に残って欲しいと考え、英雄として祭り上げてこの街に残ってもらおうと考えた。
しかし、レオとエレナから衝撃の事実が話された。
「実は…」
「お尋ね者なんです!」
というのも、エレナは帝国から逃げ出してきたらしく、帝国軍から追われているようなのである。
それを護衛するべくレオがエレナの付き人として一緒に行動しているのだとか。
だから、少しの間は入れたとしてもこの街にずっとは居れないし、そもそも大々的にレオたちの名と顔を広めたくないとの事だった。
これは仕方の無いことである。
しかし、私はこの二人に何とか礼をしたいと思い、私とレオ、エレナで小さいながら宴をすることにした。
場所を聞くとブルーサファイアという店があると言うので、そこを私のポケットマネーで貸し切って宴の準備を進めるのだった。
―――
「ふぅ、何とか夜までには宴の準備は出来そうだな」
「わざわざありがとう、ライアルさん」
「ははっ、むしろこっちが感謝したいのだ。クラーケンはこの街を悩ます種になりかけていたからな。むしろ私にはこれくらいしか礼は出来ないのが申し訳ないくらいだ。それに…」
そう言うとライアルさんはボソボソと声が小さくなりながも、申し訳なさそうに話を続けた。
「私がクラーケンを倒したということにしてもいいのだろうか?クラーケンを討伐したとギルドに報告すればかなりの量の報酬が手に入るし…」
「むしろクラーケン討伐の件をライアルさんに丸投げしてしまったことに申し訳なく感じている…。俺の素人目で見てもライアルさんがクラーケンを倒すのは厳しいのではないかと思ってしまって…」
「ははっ、まぁその通りではある。実力があればとうにクラーケンは倒しているからな。私は私で何とかするからまずは宴を楽しもうか!あと、私には敬称は必要ないぞ」
「なら、改めて。ライアル、よろしく」
「あぁ」
ライアルの考えを聞けて良かったと思い、飾り付けを行って準備を進める。
ブルーサファイアは経営が少し波に乗ってきたとはいえ、まだボロボロの店だ。
なので、二階の寝室などで宴をやることにした。
一階では一生懸命巨大イカを捌きまくってるカンナがいるが、まだ俺たちは捌き方を習ってないので任せるしかない。
ちなみにクラーケンはライアルがギルドに持って帰り、大いに騒がれたらしい。
そのせいで街は活気に溢れ、皆がライアルの話で持ち切りだ。
そんなライアルはクラーケンの一割程をかっさらってきて宴をやろうと提案してきたのだ。
「さぁ、二人にギルマス。捌きに捌いたイカのお待ちかねの登場だ」
飾り付けも終わり、雑談して二階で待っているとカンナが大皿を持ってきた。
そこには白色のイカの刺身が何百と、まるで畳のように敷き詰められていて圧巻の光景である。
「カンナさん…?この量はさすがに…」
「足りないかい?まだ半分くらい残ってるよ」
…暫くはイカ生活になりそうだと言う考えが思い浮かぶがそれを頭から振り払い、今は楽しむことだけを考える。
「さぁ、クラーケンを倒してくれた二人と捌いてくれたカンナに…」
「…とギルドに届けてくれたライアルにカンパーイ!」
「「カンパーイ!!」」
「ははっ、乾杯!」
ドンッ!
だが、そんな楽しい空気をぶち壊す音が一階の方で響いたのがわかった。
「なにか壊された音?」
「分からないが、異常なことが起きたのは確実だ」
楽しい雰囲気が一瞬にして緊張に支配された。
こんな時にまた黒躍団か?とも思ったが、そういえば黒躍団は俺が潰したんだった。
あれだけきつく言って、ビビってたんだからまたやるとは思えないし…、誰だ?
「やぁ、君たち。楽しそうだね」
階段をあがり、上がってきた者は豪華な防具を身にまとったあの骨董屋の人だった。
顔は穏やかな表情をしているが、内心から漂うのは怒りの感情である。
まるで笑顔が張り付いているかの如く、その笑顔は崩れない。
「…なぜここにあなたが?」
「いやぁ、クラーケンがギルマスに倒されたと聞いてね?不思議だなぁ、あなたはそんな力を持っているはずがない」
この人は確かS階級冒険者のアララス…とか言った人だったな。
S階級冒険者ということもあり、自信に満ち溢れているようで余裕の佇まいである。
「…私が倒した。それよりあなたは王国からこの街を守るために配属されたはず。それを追加でチップがないと動かないなど言語道断だ」
「やり方は任せると王国には言われているよ。この街は僕なりのやり方で守る。そのやり方を邪魔されたら誰だって怒るだろう?」
両者、バチバチと睨み合いを利かせて緊張感が高まる。
明らかにライアルが正しく、アララスが間違っているのだが、彼には実力があり、簡単には手を出せない。
その時、ガタガタと扉が揺れて奥から縛られたシェイエトが出てきた。
手足を縛ってるのに意外と器用だなぁ、とか余計なことを考えているとアララスが思わず声を漏らしていた。
「…えっ、お前…」
「うぅ…」
「…お前?もしかして知り合いなのか?」
その小さな呟きを俺は聞き逃さなかった。
シェイエトと知り合いということは、考えられることはただ一つ。
「お前、もしかして黒躍団の関係者か?」
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