第4話 読書レビュー 富永浩史『俺の足には鰓がある』

 大吉堂で購入した富永浩史『俺の足にはえらがある』を読んだ。こちらの作品は富士見ファンタジア文庫から、1996年3月に出版されたもの。


 カバー裏にある、あらすじにはこのように書かれている(以下、引用)


 ある日突然、彼女が俺のアパートを訪ねてきた。あらぬ期待に盛り上がる俺に、彼女が衝撃の告白を。「私ね、改造されちゃったのよ」そう、彼女は悪の秘密結社の改造人間になったのだ。呆気にとられる俺。呆気にとられているだけで済めば良かったのだが、彼女は俺をスカウトしようとする。彼女に頼まれると嫌とは言えないのが俺という人間のサガだ。彼女の勤務評定アップのため、秘密結社インバーティブリットの一員となった俺が遭遇する、組織の内紛、謎の無敵ヒーロー。これぞ世界初、トクサツピカレスク・ラブコメディ。ああ、俺と彼女の幸福な日々はいつおとずれるのだろうか。(引用終わり)


 読みおえてまず、これは面白いと思った。96年の作品なのに、古臭くはない。特撮ヒーローものを悪の組織側から描いたコメディであり、改造人間ラブコメ。好きな女の子が悪の組織に改造されちゃって、その子の点数を上げるために主人公も改造されてしまう。そして、悪の組織での日々、最後には正義のヒーローとの戦いが待っている。


 昭和の仮面ライダーがパロディの元になっているのであろうが、特撮ヒーローものをネタにした悪の組織の描き方が面白い。大佐派と将軍派の派閥争いはあるし、目的が世界征服だけど具体性がなかったり。悪の組織なこのあたりは特撮好きにはたまらないだろう。


 そして悪の組織の改造人間はみな無脊椎動物。パラドキシデスとかセラターガス(現在ではセラタルゲスと呼ばれている)、マルレラ・スプレンデンス(現在ではマーレラ)という名前にピンときたかたは、この本を読むべき。ちなみに私は、作中に登場する動物をダイオウイカ以外は姿を想像できなかった。ちょっとマニアックすぎだ。これらはすべて改造を行う博士の趣味との設定だが、作者は自身の趣味全開で楽しんで書いたのだろう。


 前半で悪の組織の実体を面白おかしく描き、後半では正義のヒーロー(バッタ男)との戦いが描かれる。ヒーロー2号が登場する過程も、特撮ヒーローもののお約束。後半の展開はとにかくシリアス。悪の組織側視点で描かれているので、バッタバッタと仲間が倒されていく悲しい展開が続くことになる。正義のヒーローがとにかく強くて、どんどんやられていく改造人間たちの姿が悲しい。このあたりは前半にしっかりと悪の組織を描いていることが、改造人間への共感を呼ぶ形になり効果的だ。


 正義のヒーローの描き方も一工夫されていて、「世界平和のために悪の組織と戦うのだ!」ではなくて、悪の組織を壊滅させるためだけに存在しているよう。悪の組織が世界征服を目的にしているわりには、あまり悪いことをせず、正義のヒーローがバッタバッタと改造人間をやっつけていく姿をみると、特撮ヒーローものも視点を変えるとどっちが正しいのかわからないなと思わされる。


 作者の特撮ものと無脊椎動物への愛が溢れた作品だった。悲惨すぎない終わり方もよくて、これは90年代名作単巻ラノベといってよいだろう。


 現在では一般的には入手しづらいし、ネットでは高値で販売されているのが、とても残念。もっと沢山の人にも、読んでほしいだが。


※このレビューはブログに書いたものを加筆・訂正したものです。

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