大阪・日本橋編

第5話 栄枯盛衰 まんだらけと駿河屋・前編

 大阪日本橋。東京の秋葉原と並ぶ、元電気街・現オタクの街である。この日本橋でんでんタウンとかオタロード、日本橋といいつつアクセスは近鉄・地下鉄日本橋駅からより、南海難波駅や地下鉄恵美須町駅のほうが近い。


 恵美須町駅を出て日本橋筋を少し北上すると、まんだらけグランドカオスがある。まんだらけグランドカオスといえば、以前は大阪アメリカ村にあり、オタクとはあまり縁のないファッション系若者の街で、閉鎖した大型CDショップの建物をそのまま使って、デンと構えていた。特に入り口の外側に並ぶ1冊100円・3冊200円の処分本のコーナーはなかなか圧巻で、ここでたくさんのお買い得ライトノベルを買ったものだ。


 それが2020年12月、日本橋に移転となった。まんだらけグランドカオスの前身はまんだらけ なんば店で2008年までは日本橋にあったのだから、正確に言うと日本橋に帰ってきたということになる。以前とは場所が少し変わったが、オタク向けショップなのでアメリカ村にあるよりは、日本橋にある方がしっくりと来るし、マンガや同人誌を買い回る人たちにとっては便利になっただろう。ただ、残念なことにアメリカ村にあったときよりも、ずいぶんと狭くなってしまった。


 そんなまんだらけではあるが、ここはよくお世話になっている。主にライトノベルを扱う3階とアニメムックやサブカル系を扱う4階で、本日も定期調査に来たわけだ。まずはライトノベルを扱う3階へ。


 3階に上るエスカレーターを降りたところには、処分本のコーナーがある。1冊100円・3冊200円という値段はアメリカ村にあったときと変わらないが、圧倒的に量は少ない。90cmくらいの幅の什器が2本だけである。しかも並んでいるのはほとんどがマンガで、ライトノベルはほんの少し。いつ見てもがっくりするだけの棚である。3階のメインはもちろんマンガで、ライトノベルのコーナーは奥の方にある。


 ライトノベルコーナーは日本橋に移転したからというわけでなく、アメリカ村にあったときから、少しずつ縮小して来ている。今は什器でいうと4本。また、ライトノベルが文庫サイズだけでなく、四六判も増えてきたことで、文庫サイズの棚が減りつつあり、什器は4本中の2本だけだ。出版されたタイトルの量から考えるとかなり少ない。また、並んでいるものも流行りものばかりで、ちょっとマイナーなものや10年くらい前のものなんかもあまりない。あったとしても、「スレイヤーズ!」シリーズやあかほりさとる、広井王子作品など有名どころばかり。もう少しマニア心をくすぐるものがあればよいのだが、このところまんだらけに来ても、空振りばかりだ。以前は時々掘り出し物のような本もあったのだが。スペースが小さくなったので、売れ筋以外は買取しなくなったのか。今のまんだらけには、ライトノベルは集まらなくなっているのかもしれない。


 ライトノベルコーナーに失望し、エスカレーターでひとつ上の階へ上がる。4階はDVDにCD、アニメムックやサブカル系の本を扱うフロアーだ。意外と見落としてしまうのが、アニメムックコーナーの片隅にある、ケイブンシャの大百科やアニメのフィルムコミックが並ぶコーナーだろう。実はここにソノラマ文庫やアニメージュ文庫、スニーカー文庫から出版された、ちょっとレアなアニメノベライズが時々並ぶのである(くりいむレモン文庫なんかもあったりする)。以前ここではアニメージュ文庫の『戦国魔神ゴーショーグン』のシリーズを何冊か手に入れた。さて、今日はなにか並んでいるのかな。


 なんと、ソノラマ文庫の『巨神ジャイアントゴーグ』全2巻があった。1984年に安彦良和監督で作られたロボットアニメのノベライズ。著者は1巻が辻真先・塚本裕美子、2巻が塚本裕美子。アニメ「巨神ゴーグ」の脚本家ふたりによるノベライズだ。アニメが放映されたのが84年4月から9月まで。ノベライズはアニメ終了後すぐに出版されている。


 この頃のソノラマ文庫といえば、富野喜幸(現・富野由悠季)『機動戦士ガンダム』『伝説巨神イデオン』、星山博之『太陽の牙ダグラム』、鈴木良武『戦闘メカザブングル』、渡邉由自『重戦機エルガイム』、高橋良輔『機甲猟兵メロウリンク』と日本サンライズ作品のノベライズが多数ある。80年代前半はアニメノベライズが盛んに出版されたが、ソノラマ文庫でサンライズ作品がこれほどまでにノベライズされたのは、すべてガンダムが大ヒットしたおかげなのかもしれない。ただ、富野作品がスニーカー文庫に移籍し、『機動戦士ガンダム』は今も出版されているのに対し、それら以外はソノラマ文庫のみに終わっていて、どれもレア物になっている。


 なかでも『巨神ゴーグ』は、アニメ自体がちょっとマイナーというか、あまり評価の高い作品でもない。84年の本放送は私の住む和歌山県ではネットされていなかったので未視聴だった。最近、見る機会があったので全話視聴したが、あまり面白いといえなかった。作画は素晴らしいのだけど、物語自体がちょっと......


 放送地区が限られていたためか、アニメとしてイマイチと考えた人が多かったのか、ノベライズもそれほど売れなかったようで、ネットではともかく古書店で目にする機会は少ない。というか私は初めて実物を見た(80年代当時、本屋さんでは見ているのだけれど)。表紙イラストは安彦良和によるもので、主人公・田神悠宇とゴーグが描かれている。美しい。やはりアニメを手掛けた人の、しかもキャラクターデザイナーのイラストが使われているノベライズは最高だ。ただ、表紙だけなんだけどね(本文イラストは土器手司)。


 さて、ネットではセットで3,000円くらいでよく売られているこの本だが、はたしてこれはいくらだろうと値段を見る。税込みで1,980円、1冊あたり990円か。このあたりまんだらけの値付けはしっかりしている。ネットのプレミア感を煽るような値付けではなく、現実的に売れそうな価格。私のポリシーとして古本は、1冊500円くらいまでが限界なのだが、今回は別である。2,000円のまんだらけ優待券を持っているのだ。まんだらけは株主になると優待券をくれる。最低単位の100株でも、1年未満は2,000円、1年以上だと5,000円の優待券をくれるというわけだ。まんだらけの株は最近では1株500~600円くらいで推移しているので、5~6万の投資で初年度以降だと毎年5,000円の配当があると考えれば、お得な気がしている。もちろん株が暴落するリスクはあるのだが。私の場合はこれを消費するために、まんだらけに足を運んでいるといってもよい。なんにしろ『巨神ゴーグ』買いである。


 お次はサブカル系のコーナーに。こちらには秋元文庫やソノラマ文庫、集英社文庫コバルトシリーズなどの70年代の作品が並んでいる。しかし、残念ながらここはいつも代わり映えしない。やはり今回ものだ。そもそも新しく入荷した形跡がないし、売れた形跡もない、変わらないラインナップ。需要がないといってしまえばそれだけなのかもしれない。昨年末の移転時から唯一減っているのが、ソノラマ文庫。なんのことはない、私が買っているだけである。アメリカ村にあった時は、それなりに新しい本が入荷していたし、売れていく本もあったのだけど。オタク街に戻ってきて、サブカル系の人が来なくなったのかもしれない。


 本日のまんだらけグランドカオスでの購入は、『巨神ゴーグ』全2巻セットのみ。今回は購入するものがあったのだが、最近では何も購入せずに店を出ることが多くなっている。まんだらけのライトノベルの扱い量に残念な気持ちを持ちつつ、次のお店に向かうのだった。


 DATA

 まんだらけグランドカオス

 〒556-0005 大阪市浪速区日本橋4丁目12-6

 営業時間:12:00 〜 20:00、年中無休

 地下鉄堺筋線恵美須町駅 1B出口から徒歩6分

 各線日本橋駅 5番出口から徒歩12分

 各線なんば駅から徒歩12分


※登場する書籍や値段は、私が訪れた時の記憶に基づいています。在庫や値段は古書店なので変化している場合がありますので、ご注意ください。

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