第2話 ここはラノベの聖地なのか 大吉堂・後編
本日の目的である『俺の足には
アニメノベライズ棚の左横はSF中心。新井素子のコバルトシリーズ作品が並んでいる。『星へ行く船』シリーズに『いつか猫になる日まで』、『扉を開けて』もある。これらを他のコバルト文庫が並んでいるところでなく、SFを集めた棚に並べているのがいいね。
60~70年代のSFもたくさんではないが、それなりにある。古書店では定番の筒井康隆がたくさんあるのは当然。昨年ドラマ『日本沈没』で話題になった小松左京の本も、少しだがある。小松左京は長編作は今でも出版されているが、短編集はそれほどなくて、古書店でもなかなか見かけない。豊田有恒なんかもあるが、これは懐かしい。父親の本棚に『タイムスリップ大戦争』なんかが並んでいて、中学生くらいのときに読んだはずだ。表紙が和田誠のイラストで味わいがある。平井和正『狼の紋章』に、眉村卓のジュブナイルSFも並んでいる。眉村ジュブナイルは私のコレクションの対象だが、並んでいる角川文庫のものはすでに持っている。コバルトシリーズから出版されたものがあれば欲しいのだが、なかなか見かけない。
80~90年代のSF作品もなかなかのもの。火浦功や岬兄悟、笹本祐一、菅浩江の作品などが結構ある。それら以外にもソノラマ文庫の高千穂遙『クラッシャージョウ 連帯惑星ピザンの危機』(緑色の背表紙!)や斉藤英一朗『ハイスピード・ジェシー』シリーズなんかもある。どちらもソノラマ文庫を代表するスペースオペラといっても良い。私も中高生の頃には、ずいぶんと楽しませてもらった。それにしてもクラッシャージョウはハヤカワ文庫に移って、現在も続いているのだからすごい。
残念なのは、草上仁や東野司がないことか。草上仁の短編はSFマガジンによく載っていて好きだった。短編集は表紙が吾妻ひでおだったり、横山えいじだったりでこれも好きなイラストだった。東野司はやっぱり『ミルキーピア』シリーズだろう。ネットに意識を潜らせて、そこで探偵活動をするような内容だったはず。第1巻はネット上の架空キャラクターがサーバーから家出するという、今でも充分に通用する斬新さだった。ブックオフや一般の古書店でもあまり見かけないこれらも、見つけたら買いたいと思っている。海外SFもそれなりに並んでいるが、こちらは興味がないのでパスだ。
SFの次は、少しばかりのホラーがあって、ミステリがこれまたたくさん並んでいる。創元推理文庫の日本人作家作品がしっかりと揃っている。これだけ揃っていると、あの独特のクリーム色の背表紙がよく目立つのである。ラノベ好きとしては、谷原秋桜子の『美波の事件簿』シリーズが揃っているのを見逃さない。もともと富士見ミステリー文庫でスタートしたシリーズだ。
富士見ミステリー文庫は「存在自体がミステリー」などと揶揄されていた、ミステリー文庫なのにミステリー作品が少ないライトノベルレーベル。2000年から2009年までの出版で、途中からミステリー路線はやめてしまい、青春・恋愛路線になった(これは帯にでっかくL・O・V・Eと書かれていたことから、ラブ寄せと言われている)。桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』は、最初は富士見ミステリー文庫から出版された作品だったというのは有名だろう。
ミステリーもそれなりに読むが、それほど詳しくないのでタイトルに反応するものはそれほどない。京極夏彦や森博嗣なんかが並んでいるが、いまいちよくわからないのである。江戸川乱歩作品がそれなりに揃っているのや、横溝正史作品はちょっと少ないとわかるくらい。珍しいところでは、創元推理文庫版の辻真先『仮題・中学殺人事件』がある。2020年の『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』で、国内のミステリーランキング1位を取るなど、御年90歳にてまだまだ現役バリバリ作家のデビュー作品だ。これも元はソノラマ文庫から出ていたはずだ。
ミステリーの棚で大吉堂の主な棚は終了。いやもうタイトルを眺めるだけでもお腹いっぱい。残る真ん中の島には一般書籍やアニメ・ライトノベルに関する雑誌やムックが並んでいる。今回は文庫を求めてきているので、この辺はサラッと流す。100円均一のコーナーもサラッと流す。ここにはライトノベルはなさそう。あとは委託ボックスのみだ。
委託ボックスは大吉堂ではなく、他の書店や個人が間借りしているスペース。30cm四方の棚に本だけでなく、CDや手作り雑貨のようなものも並んでいる。実はお店に入ったときから、目に入った本があった。左上の棚に並んでいるそれは、1冊だけ表紙を向けて飾られている。その本が石津嵐『宇宙戦艦ヤマト』だった。
1969年生まれの私にとって、アニメ「宇宙戦艦ヤマト」は小学校低学年のときにブームになった作品だ。父親が好きで、人類絶滅の日まであと◯〇〇日という、最後のナレーションの日数を当てるゲームを親子揃ってやっていた。当たると10円くらいの小遣いがもらえるというものだ。映画「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」もTV放送でみて、それなりに感動した。アンドロメダの拡散波動砲がかっこよくて、バンダイからでていた100円プラモなんかもよく買っていた。でも、そこで終わっていればよかったのに「宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち」が放送。しらけてしまった記憶がある。世の中の流れも、ヤマトより999といったところだったろうか。その後の、「機動戦士ガンダム」の大ブームで、愛やロマンを語る「宇宙戦艦ヤマト」はさらに古臭いものとなってしまった。
というわけで、「宇宙戦艦ヤマト」にはそれほど思い入れはない。なので、コバルトシリーズから出ていた、若桜木虔『宇宙戦艦ヤマト』シリーズには心はときめかない。しかし、石津嵐『宇宙戦艦ヤマト』はちょっと違う。
もともと『宇宙戦艦ヤマト 地球滅亡編』と『 宇宙戦艦ヤマト 地球復活編』の2冊で朝日ソノラマからハードカバーで出版されたもの。著者は石津嵐で、原案が豊田有恒。発売日は『地球滅亡編』が1974年10月20日、『地球復活編』が1975年2月3日とのことだ。1974年10月というとTVアニメ放映開始とほぼ同時であり、地球復活編が発売された時はまだ放映終了前ということになる。アニメ、マンガ、小説と同時進行であったようで、メディアをミックスして展開されていたということだ。
内容も豊田有恒が原案ということで、企画段階で没とされた案を元に構成されているらしい。アニメ版と全く違うようで、スターシアが〇〇○〇〇○で、デスラーは〇〇○〇、キャプテン・ハーロックが登場する等など。Wikipediaに記載されている内容を見る限り、”愛とロマン”よりモロにSFっていう感じなのである。これら「地球滅亡編」と「地球復活編」を併せたものが、1975年ソノラマ文庫からレーベルの第1巻目として発売。アニメ自体も社会的な影響を与えたが、ソノラマ文庫のこの「ヤマト」も影響は大きかったようで、ソノラマ文庫ではSFが大きな柱になったとのこと。このあたりについては、作家早見裕司(現・早見慎司)の「ジュニアの系譜」というサイトが詳しい。
このアニメと全く違うという、石津嵐『宇宙戦艦ヤマト』の話は以前から聞いていた。一度は読んでみたいと思っていたが、なかなかのプレミア価格で手が出なかった本だ。こちらでは、はたしていくらなのだろうか。値札を見る、500円。うむ、ぎりぎり出しても良い金額だ。メルカリだと結構安く出ることもあるが、ヤフオクやamazonなんかだと、1,000円を超えることが多いのでこれは安いと言えるだろう。買いだ。
それにしても他の委託ボックスは一般書籍が多いのに、この左上の棚だけライトノベルが充実している。『紫色のクオリア』に『旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。』、『
しかし、今回この委託ボックスで買うのは、『宇宙戦艦ヤマト』だけだ。興味深いものもあるけれど、まだこのあとに立ち寄るところもある。いずれまた来たときに検討しよう。本日の購入は『絶望同盟』『俺の足には
DATA
大吉堂
〒545-0021 大阪府大阪市阿倍野区阪南町3-12-23
営業時間:11:00 〜 19:00、不定休
地下鉄 御堂筋線 昭和町駅4番出口より徒歩10分
阪堺電鉄 東天下茶屋駅より徒歩10分
※登場する書籍や値段は、私が訪れた時の記憶に基づいています。在庫や値段は古書店なので変化している場合がありますので、ご注意ください。
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