青傷のシアノボレトゥス

色なきころもの乙女のいち

陰湿いんしつを好む茸精じょうせいの一

夜の戦場いくさばに沈む者

青傷せいしょうのシアノボレトゥス

音なくけそう散らぬ

しかれどの身に傷はえぬ

薄茶うすちゃの衣は濃青こあおに染まり

生傷なまきずより青垂れ落ちる

月影つきかげる其の色

乾けどえるつやに驚き

虫精ちゅうせいどもは望んでらわず

しかれど運命さだめに命をわす

ゆえに行きは色なく帰りに青き

鮮やかなる茸精と呼ぶ者もあり

傷の痛みにおもうのは

日の照る空より深き悩み

いくさに散らず負傷ばかりの日々


はななき衣の乙女の一

湿潤しつじゅんを好む茸精の一

黄昏たそがれの戦場にうれう者

青傷のシアノボレトゥス

ほどなく駆ける時が来る

しかれど其の身は鈍足どんそく

薄茶の衣は舞うを知らぬ

濃青に身が染まるほど

其の足其の手は速くなり

乾き知らぬ地に驚き

虫精どもは望んで戦わぬ

然れど運命は血と蜜望む

故に血と蜜と青まと

甘く鮮やかな乙女と呼ぶ者もあり

汁にまみれて想うのは

月の照る空より深き憂い

死と負傷見るばかりの日々

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花精の森の記録(断片) 狐藤夏雪 @kassethu-Goto

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