自由詩:風なき水面に絶えぬ想い

ジニアの花の咲きほこる夏

乙女は青き星へのおもいを胸に

見上げる夜空に星数え

森に水引みずひく泉へおとずれた

水面に落とす星芒せいぼうしずく

赤き波紋はもんが星空をくだ

悲しみとうれいは溶けていく

その塩辛しおからさを味わった花

風なき水面みなものウトリクラリア

乙女の前に姿を現し

「おぬしの涙は傷より辛い」と

泉のふち

赤光せきこうの乙女の髪の当たる場所に

足をひたして座り

水を蹴って遊ぶ


「私は何度あの娘と別れるのかしら」

水のしたたるようなすすり泣きに

そんなこと混ぜたなら

水面の乙女

「我にはわからぬ」と

風なき水面のごとく

夕凪ゆうなぎのまどろみのごとく

つぶくようこぼ

すすり泣きだけがあとに響く

「最初のあの娘はどこに行ったのかしら」

青き光と散った想い出は

運命さだめを知らぬかつてのジニアの

もっとも強き星芒となった

「何度あの娘を探すのかしら」

消えぬ想いは過去にも先にも

泉より深く輪廻りんねのごとく終わりなし


「それ」と水を赤光に浴びせ

「夏の夜にはこれがよかろう」と

ウトリクラリア無邪気むじゃきを浮かべ

ジニアの涙はくさむらみる

ころもも濡れ目は丸くリンゴのように

「ひどいわ」とすそをしぼり

仕返しかえししなくっちゃいけないわね」と

てのひらで水をすくい上げ

水面の乙女の顔へとかける

肌を星にさらすクエルカス

濡れても困る衣なく

つやめく身体を天に向け

小さく笑い青光せいこうを指す

「あの光は我らの光にきざまれておる」

「だがおのれの光は己に見えぬ」

「ゆえに永久とわに想いを探す」と

そよ風のごとく語る


「しかし我にはわからぬ」と

「光弱き老草ろうそうにはわからぬ」と

起き上がりつつ口に出し

再び水蹴り遊びする乙女

ジニアはそれ見て口角こうかくゆる

「そうね私にもわからないわ」と

足を水に浸しては

共に水蹴りなみてて

星をながめてを過ごす

闇も薄まるかわたれ時に

水面の乙女は水蹴りをやめ

赤光の頬に口づけして

優しく包むよう抱きしめる

ジニアは冷たき夏の夜の夢に

温もりで返して森へと帰る

水面に浮かぶウトリクラリア

ぬくもりを水へと溶かし

流れる時を無為むいに過ごす

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