自由詩:風なき水面のウトリクラリア

大いなるクエルカスの地の外

森に水引みずひく泉は波立なみだ

陽光ようこうく肌濡らし

水浴びする乙女あり

戦場いくさば駆ける双子星ふたごぼし

そばに輝く一光いっこうながら

戦場を知らず

強者つわものを知らず

血の渇望かつぼうは眠るまま

水と日ばかりに身を注ぐ

変わらぬ時のまどろみに

豊かなる泉へ沈む


風鳴るぬる曇天どんてんの下

老いも素知そしらぬ乙女の出で立ち

死すらも運命さだめと知らぬはめず

恐れなきは双星そうせい

蜜流す笑みとひとしきも

傷を知らず

虫の味を知らず

血の渇望は水底みなぞこ

じょうせいばかりに身をささ

終らぬ時のまどろみに

星鳴る沈黙へ浸る


語る乙女のこぼこと

いもせぬ花は伏目ふしめがち

散る花にしげる言の葉の嵐

速きはなのケラソスのごとし

ある乙女の死を知らず

訪れた花の名も知らず

血の渇望にのぼりし

想う乙女の身を抱き

まわる悲しみのまどろみに

泉に落つ涙を語りあう


悲しみを

涙と溶かすその泉

森の花精は

星芒せいぼうの泉と呼び

あるじたる乙女は

風なき水面みなものウトリクラリアと呼ぶ

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