自由詩:悪食のサラセニア

もっともたけやすらかなる花

もっとも気高く狂える乙女

己の蜜と強者つわものの血に濡れ

甘きに集う強者の群れ

虫精ちゅうせい羽音はおとざわめきに

気が触れ音なくいつくし

風なき木々の静寂せいじゃく

くなき戦場にく落とす

悪食あくじきの名に相応ふさわしく

大食たいしょくかんいただくほどに

幾多いくたの魂を天へとおくり

星空を光でにぎわせた

せた瞳に映るのは

虫の乙女の澄んだ血と

日や月を受けつやめく柔肌やわはだ

幾度いくどと蹴った戦場の土に

ありがとうとつぶやいた


もっとも猛く安らかなる花

もっとも気高く狂える乙女

戻り迎える花は多く

わす言の葉は決して絶えぬ

しかれど最初に交わすのは

鋭歯えつばの乙女のおかえりと

冬の夜のごとく長き抱擁ほうよう

良き友俊食しゅんしょくのディオニアは

悪食の乙女の時を食い

ともに蜜のひとときを味わった

ともに喰らい天を賑わせる

猛き花精かせいの魂は

ならび輝く双子星ふたごぼし

悪食の乙女の蜜の香は

日より甘く星芒せいぼうより柔らかし

幾度と抱いた柔肌の君に

ありがとうと呟いた


もっとも猛く安らかなる花

もっとも気高く狂える乙女

狂気に花散る運命さだめ知る

詩詠うたうたいのつむぐまま

薔薇月ばらづきの夜の戦場に

羽を失い腕を失い

されども腹を満たさんと

強者の群れに飛び込んだ

幼き大食のマメストラ

乙女の腹を喰い千切ちぎ

甘き至福しふくを味わった

戦場の土に蜜しみて

こうを天にささげては

日を懐かしく思いつつ

満足げに微笑ほほえんで

ありがとうと呟いた

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