第4話
月曜日。
休日中にまとめた事を、会社の屋上で黒猫の大和先輩に見て貰う。
大和先輩は、胃の調子が良くない様で、
「にゃるほどね、俺たちのメシか……」
「そうです。煮干しをベースに、鶏肉・チーズなどの国産厳選食材を混ぜ、食感は外はカリッと、中はふわっと。コンビニで温めて貰って、猫の最も喜ぶ35度にして貰って食べます」
「うん、超ド直球だが、お前らしくて良いんじゃないか?」
「それに、労いを入れたいんです」
「労い?……そうだな。確かに一日の終わりに、お前のメシを食って、明日への英気を養うのに癒しになったら嬉しいな。俺も考えてみるよ、その労いを」
「よろしくお願いします」
にゃん太郎は深々と頭を下げる。
再び企画部の戻ると、企画部トップ成績の
「猫山さーん、明日の午後三時からコンペだそうですよ。今のうちに机の整理でもしておいたらどうですか?」
と、散らかったにゃん太郎の机を見やる。
周りの猫達もクスクスと笑う。
いつもなら、相手にもせずヘラヘラしていたにゃん太郎だが、いきがる池猫が哀れになり、思わず肩をポンと肉球で叩いた。
「池猫……お前も
「にゃっ!?」
「企画トップのお前が焦る理由も、それで俺をサンドバックにするのも分かる。けど、お前の戦う相手は俺じゃなくて、ニャッスイだ」
周りの笑い声が止まった。
図星だったらしい池猫は、その場でプルプルと震え、それから四つん這いになって企画部から出て行った。
にゃん太郎は、席に座った。
労い……。
にゃん太郎はじっと一点を見つめて考える。
にゃん太郎が、今回やってやろうと思ったのは、ねこ雄の言葉。
ねこ雄から何を貰ったから、俺はやる気になった?
叱咤? 焦り?
……いいや、違う……。
その時、にゃん太郎は閃いてカッと茶色の目を見開いた!
「それだ!!」
にゃん太郎は、にゃにゃにゃ〜っとパソコンを入力し始めた。
自分の企画案を。
にゃん太郎はその日、徹夜をして、『サラリーニャンのメシ』企画書を作り上げたのだった。
◇
翌日。
にゃん太郎達、企画部のサラリーニャン達は第二会議室に集まっていた。
四角いテーブルの上座は部長。
それから成績順に並び、にゃん太郎は末席だった。
企画コンペは、業績トップの池猫から始まる。みんな池猫の持ち込んだ案に感嘆し、「これは凄い!」「にゃ~るを超えられるかもしれない」と口々に言っていたが、緊張しまくりのにゃん太郎には、他の猫の企画など耳にも入らなかった。
「じゃあ、次は猫山」
部長の声に、にゃん太郎は覚醒し、勢いよく返事をして立ち上がり、部長の横に設置された壇上へと歩いて行く。
すでに、池猫から始まった会議は三時間は過ぎていて、正直、みんな飽きていた。
飽きていて、みんな会議室の天井にある空調に付いた紐を見て、ウズウズしている。みんな早く、堅苦しいこの場から解放されたいのだ。
「手短に頼むよ」
部長も、その揺れる紐を見ながらにゃん太郎の事など全く見ようとしない。
にゃん太郎は、ギャラリーが居ないほうが話しやすいなと思いながら、切り出した。
「えー。私の考えたのは、労いメシ『おかえり』です」
にゃん太郎がパソコンの画面をクリックすると、パッとプロジェクターがにゃん太郎の案を白い壁に映す。
そこには、かえり煮干しが映った。
「名前は帰宅する『おかえり』と『かえり煮干し』を掛けて作りました。ご存知の通り、イワシの稚魚を原料とした煮干で、脂肪が少なく、あっさりとした物です。なので、何度も『おかわり(えり)』出来ると言葉も引っかけています」
「……このメシのターゲットは?」
「5~8歳の中年猫です」
「なら、もっとコッテリした味が良いんじゃないの~?」
「部長、その通りですが。このメシは夜遅くまで働いたオスの夜食です。あんまりコッテリしていたら、肥満や成人病を気にするこの年代には辛いし、食も細くなる年代なので、かえり煮干しがちょうど良いかと。その特徴を活かしダイエット食品として、ターゲットを女性全般にも広げられます」
「……続けて」
「はい、先ず、外側はカリッと乾燥させた魚類と肉の歯ごたえに、中身はふわとろの柔らかい魚肉とチーズ。そして、時々食感としてかえり煮干しを入れます。この辺りは商品開発部との兼ね合いで、食材を選んでいきます。そして、この商品の最大の特徴は、パッケージです!」
にゃん太郎は『ぱわーぽいんと』の次のページをクリックした。
それを見て、空調の紐を見つめていた同僚達も、画面に注目し「おおっ!」と驚きの声を上げた。
にゃん太郎は唸り声を上げる彼らをゆっくりと見回し、少しだけニヤリと笑った。
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