第372話:最高難度の魔術
残り一ハフブルにも満たない時間の中で、セレネイアは魔力切れを起こし、
中途半端な状態で魔力供給を絶たれた雷は、完璧な層を構築できず、一部だけが雷光となって上空で暴れ回っている。
そこへ間髪入れず、
結果として、幾重にもわたって衝突が繰り返される。その
≪これ以上は無理よ。穴だらけになってしまうわ≫
失敗の要因は二つだった。セレネイアの最大魔力量を見誤ったこと、一気に大量の魔力を吸い上げたことだ。
とりわけ、後者が問題だった。
体内を循環する魔力は、いわば第二の血液であり、それを瞬間的に大量に失えばどうなるか。自明の理だ。セレネイアはいわば重度の貧血状態に等しい状謡に
≪聞きなさい、
爆散して死滅した
新たに発生した
穴埋めは白焔の仕事だ。即座に
カランダイオは
≪いつまで寝ているつもりですか。自己修復魔術によって、十分すぎるほどに回復したでしょう。
声の影響なのか、眠っていた魔力がほぼ強制的に再始動、全身
「やはりそうでしたか。どこかで感じた魔力だと思っていたのです」
いち早く魔力波を感じ取ったコズヌヴィオが、独り言のように
「我が友が知っている者か。あの宙に浮かんでいる男、
二人の視線は上空で静止している男に注がれている。
「知り合いというほどではありません。私も一度会っただけですからね。彼の名はカランダイオ、ラディック王国宮廷魔術師団長だった男です」
ワイゼンベルグが視線を外し、
「だった男か。今は違うということだな」
「ええ、そのとおりです。私もエレニディールから教えられただけで、詳しくは知りません。ただ一つだけ言えることがあります」
先ほどまで意識喪失で微動だにしなかったアメリディオが立ち上がっている。しかも、全身の傷が塞がり、魔力循環も
「承知いたしました、我が主カランダイオ様」
上空に向かって深々と頭を下げ、すぐさま仕えるべき、助けるべき王女に視線を動かす。
「セレネイア姫、お待たせして申し訳ございません。上空は私が始末します。第一騎兵団団長として、我らが仕えし第一王女として、どうぞ
アメリディオの黄金の輝く髪が波打ち、逆立つ。両手を上空に
≪何をするつもりなの。余計な魔力を重ねられると
≪先に言いましたよ。貴女と私たちの魔力は相性が悪いと。だからこそ、私の白焔によって魔力の境界線を創り出したのです。そこにいるアメリディオがこれから行使する魔術は、白焔上層部にのみ効果を発揮します。ご
≪嘘じゃないでしょうね。少しでも私の魔力に干渉したら、ただじゃおかないわよ。いいわね≫
既にアメリディオの詠唱は
ここで唱えるべき魔術は一つしかない。しかも、アメリディオ一人では決して行使できない最高難度を誇るものだ。
「エウェク・セレーヴィ・ヨディザリィ・ウェーネ
ゼーヴェ・ネディロトウ・イェスゥリ・フェレ=メーレ
ラジュリ・グルドゥイ・エヴェレン・リザディネ」
アメリディオによる詠唱第一段階はエルフ語だ。この魔術最大の特徴でもある。
第一段階終了と共に詠唱が引き継がれる。
詠唱は長ければ長いほど、魔術の威力が強まる一方で、魔術師にとって最も危険な要素でもある。
「我が、詠唱を黙って聞き過ごすとでも思ったか。この
完璧な詠唱があってこそ、完璧な魔術が解き放たれる。
詠唱は魔術の根幹であり、その乱れは魔術の威力減衰と直結する。一度途切れ、そこから再開したとしておよそ半減、中断したまま未完に終われば暴発確実だ。
カランダイオとアメリディオ、二人の頭上に漆黒の雲状となって
既にカランダイオの詠唱が始まっている。ここで止めるわけにはいかない。
「メディレーヴェ・パルメティ・オクトゥーヴ
ザロドヴォー・イェジュ・ジョノー・ペレネデシィェ」
詠唱第二段階が成就する。
二人の頭上に押し寄せた
「来たれ我らが下へ
完璧な魔術行使のための詠唱はまだ終わっていない。
「どういうことだ。詠唱は未完のはず。にもかかわらず、魔術が発動するなどあり得ぬわ」
「お前が知らなくて当然です。実に特殊な魔術なのですからね」
虚空を食い破って
共振しながら鳴動、膨大な量となって迫り来る
「何が起きているのだ」
差し向けた莫大な数の
「魔術の原理を完全に無視しています。私には理解できません」
それは賢者たるコズヌヴィオも同様だった。
カランダイオの第三段階詠唱が
「レメレーデ・ヒュミュエ・グレニ・ロウェ・リピュル」
さらに続けて、アメリディオが最終となる第四段階詠唱を成就させるための
「
呑み干し食らい尽くし
終焉へと
完全なる魔術解放のための詠唱が、ここでようやく成就を迎える。
「
カランダイオとアメリディオの解放の言霊が重なる。
先に具現化していた二つの
カランダイオの仕かけた魔力境界線を通り越し、そこで
≪
さすがの
≪あ、当たり前でしょ。誰に言っているのよ。その前に教えなさいよ。どうして、貴男たちが行使できるのよ。この魔術は、私が敬愛する主様の固有魔術のはず≫
≪当然ですよ。この魔術は、偉大なる主レスティー様より私が直接伝授されたものだからです。私とアメリディオの二人をもってしても、完璧に行使などできません。我が主レスティー様の威力を百とするなら、私たち二人でせいぜい五も出さればよいところでしょう≫
それでも十分すぎるほどの威力であることは疑う余地なしだ。
≪そう、そういうことなのね。ようやく分かったわ。貴男の魔力質、確かにそうね。ここまでの無礼な言、謝罪するわ≫
カランダイオが面白そうに
≪な、何が
カランダイオとアメリディオのおかげで、セレネイアの魔力は
立ち上がったセレネイアが
「カランダイオ、アメリディオ、感謝いたします」
カランダイオは応えない。代わりにアメリディオが言葉を発する。
「セレネイア姫、既に
セレネイアは強く
「行きます」
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