第371話:セレネイアを護る力
切っ先が
甲高い硬質音だけが
「ヨセミナ殿、随分と手荒いですね。私を殺すつもりですか」
ヨセミナは意にも介さず、
極小単位で展開された光壁は完璧に機能している。ヨセミナの
ようやく、ヨセミナも
「ここは私の剣界、必殺の間合いだ。たとえ誰であろうと、私の利き手を封じるなど、殺されても文句は言えまい」
ヨセミナは既に
「貴女が彼女に修行と称して、稽古をつけるとは予想外でした。貴女とは真逆の立ち位置ではありませんか」
ヨセミナは首を
「私にも分からん。気づいたら、そうなっていただけのことだ。セレネイアは、知らず知らずのうちに周囲の者を
表情一つ変えず、ただ
「我が主より
ヨセミナにしてみれば、それこそ理解不能だ。
セレネイアはたかが一王国の一王女に過ぎない。言ってしまえば、主物質界においては取るに足らない存在でしかない。
「
悔しそうな表情を浮かべるヨセミナを、意外そうな顔で見つめる。
「彼女はファーレフィロス家の血を引く者ですよ」
セレネイアの血筋など、取り立てて騒ぎだてるようなものでもない。
「その程度なら誰もが知っている。秘密でもあるまい」
それがどうしたとばかりに、ヨセミナが目で問うてきている。
「それだけではね。これから話すことは、ヨセミナ殿の胸の内に仕舞っておいてください。ファーレフィロス家の血には、固く
謎を明かされたヨセミナの顔が
「なるほどな。セレネイアのあの変わりよう、膨大な魔力量が突然備わるなどあり得ないとは思っていたが。そのような理由があったのか」
二人はしばし黙り込んでいる。
そのような状態でありながらも、二人の意識は常に二百メルク下、まさに戦いの真っただ中にいるセレネイアから片時も離れてはいない。
「秘匿されていたのであろう。重大な秘密を私に明かしてよいのか。それ以上に、そなたはなぜ知っているのだ」
ヨセミナはある程度の確信をもって尋ねている。あくまでも追認のためのものだ。
「言いましたよ。私は彼女が生まれたその刻から、彼女を見守り続けてきたと。それに、明かすか
ヨセミナが珍しく小さな笑みを浮かべている。
「私は合格ということだな。だが、そなたがここに来た理由は、セレネイアだけではあるまい」
ヨセミナの意識は確実にセレネイアを中心にして、ソリュダリアとワイゼンベルグに向かっている。
対して、男の方はセレネイアともう一人のみに限定されている。
「そうか、あのエルフか。道理で魔力質やその使い方までが似ているはずだ。そなた、エルフ嫌いではなかったのか」
いかにもヨセミナらしい
「うるさいですよ。ヨセミナ殿、下は私が片づけます。手出し無用にて」
既に男の身体は飛翔魔術によって宙にあった。いつ発動したのかも分からない。
「ああ、分かっているとも。いずれ機会があれば、そなたとは手合わせしたいものだな、カランダイオ」
セレネイアは激怒している
周囲は既に
≪いつまで保てるか分からないわよ。
≪貴女の力で局所的に薄い雷の層を築くことは可能ですか≫
可能か否かでいえば、もちろん可能だ。
≪いいわ。やってあげる。でも、風を生み出すよりも時間が必要よ。もちろん、魔力も比べものにならないぐらいにね≫
雷層構築には、まず展開している上昇気流を解除したうえで、膨大な魔力を取り込み、新たに発動しなければならない。
≪セレネイア、貴女にできるの≫
試されている。
セレネイアは
≪できるかできないかではなく、やるしかないのです。ここにいる皆の命が、私に
(この娘、いつの間に。少しは成長しているようね。人とは未知、姉様たちがよく言っていたけど、そのとおりね)
初めてセレネイアに手にされた刻のことを思い出す。
(まだまだ
≪上等よ、セレネイア。風を解除して、貴女の魔力を私が取り込み、雷層を上空に構築する。五ハフブルよ。しっかり
風を解除した瞬間、
セレネイアは
≪分かりました。五ハフブル、必ず稼いでみせます≫
強い意志を感じ取った
≪始めるわよ≫
上空でセレネイアと
「確かに、雷層を展開することで、一時的に
飛翔魔術で飛び下りたカランダイオの魔力は、ヨセミナには感じ取れない。恐らくは極力魔力を制限し、姿を隠しているのだろう。
「カランダイオ、何をするつもりかは知らんが、そなたに任せたのだ。セレネイアを死なせたら、この私が絶対に許さんぞ」
上昇気流が消え失せた。
残り四ハフブル、
セレネイアは
残り二ハフブル、天を
≪セレネイア、魔力が足らないわ。ありったけの魔力を注ぎなさい。さもなくば≫
セレネイアの身体が大きく揺れ、片
≪ちょっと、しっかりしなさいよ。あと一ハフブルよ。耐えれば完遂するのよ≫
≪どうして、どうして、こんなところで。私には、まだ≫
「仕方のない娘ですね。貴女を死なせるわけにはいきませんし、私が力を貸してあげましょう」
およそ五十メルク上空、そこにセレネイアがよく知る声が、よく知る顔があった。
「カ、カランダイオ」
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