第370話:意思の齟齬が生み出す致命の隙
粘性液体の侵略を受けながらも、
「セレネイア姫、お逃げください」
セレネイアは動かない。集中状態でもケイランガの声は確実に届いている。
既に逃げ場など、どこを探してもない。唯一、あるとすれば上空だ。
「逃げたところで意味がありません。当然、想定内でしょう」
素直に
≪
セレネイアは右斜め正眼に
現時点で、セレネイアと
セレネイアは魔力の供給源に過ぎない。半面、セレネイアにとって、有利に働く場合もある。意思
(そうだ、セレネイア。そうやって
戦いを
手を出すつもりは毛頭ない。今のところだ。一人でも命の危険に
(私に手を出させるなよ。お前たちだけの力で切り
心で思いつつ、ヨセミナの右手は
正面と左右、三方向からの攻撃がセレネイアに襲いかかる。
≪力を抜いて、私だけを落とさないようにしていなさい≫
≪それでいいわ。上出来よ≫
≪あの
描き出した円内を風が
安堵するのも束の間、遅延の攻撃がやってくる。ケイランガから放たれた粘性液体の矢は、さながら魔術付与された矢にも匹敵する破壊力を秘めている。
「セレネイア姫」
叫びながら、どうにもできない己が
「ケイランガ、私の心配は無用です。それよりも、自らの意思の力でねじ伏せなさい」
ケイランガが驚きの表情でセレネイアを見つめている。
この場に降り立った時から気づいていた。見違えるほどに別人になっているのだ。アーケゲドーラ大渓谷到着後、別れてからまだ
ケイランガにとって、セレネイアは第一騎兵団団長ではなく、あくまでもラディック王国第一王女であり、絶対的に
武の実力は高いとはいえ、王族として捉えた場合だ。率直に言うなら、騎兵団団長の中ではやはり一番下になるだろう。
今の言動にしてもそうだ。まるで前団長のクルシュヴィックを見ているようでもある。
粘性液体の矢が宙で分裂、四方八方より押し寄せる。
≪何度見たと思っているの。馬鹿の一つ覚えね≫
風嵐結界は単なる防御結界ではない。ザガルドアのそれは一面しか見せていない。彼が原理を知らなかったからだ。
≪こういう使い方もできるのよ≫
風嵐結界内は風がひしめき合い、縦横無尽の流れを創り出している。当然、指向性を持たせることも可能だ。
分裂した粘性液体の矢と同数の風弾が結界内から発射され、矢を包み込むや瞬時に気化させていく。
「やはり、手駒の攻撃程度では
真っ先に反応を寄越してくるのは
≪受け入れる必要など皆無よ。問答無用、速攻で滅ぼすわよ≫
揺れた視線は、最初に師のソリュダリアに注がれ、そこからケイランガ、倒れたままの仲間たちへと移った。
≪セレネイア、何を考えているの。何を相手にしているか、理解できているの。もういいわ。貴女が動けないなら、私がやるわ。真の主様に
セレネイアと
滅ぼすという結論は同じでも、そこへ至る過程が異なっている。
それが引き金となって、動作に遅滞を生じさせる。
(馬鹿者が。ここまで追い詰めながら、肝心な
「人とは、ここまで愚かなのか。我にとって何たる
対岸上空でヨセミナが
遅滞による隙は、
「愚者どもよ。死ぬがよい」
「この形態は、我が必殺と定めた相手にのみ見せるものだ。光栄に思うがよいぞ」
膨大な邪気が
「セレネイア、何を
ソリュダリアの激しい声が飛ぶ。
「今さら何をしても遅いわ」
構えが崩れているセレネイアが立て直すよりも早く、
「必殺
鎧から分離した邪気が勢いよく弾け、微粒子と化して宙に舞い上がった。
「逃げるなら今のうちだぞ。我が邪気によって産み出された
邪気は既に微粒子と化して上空を舞っている。
一度付着したが最後、
≪ああ、もう、どうして私がこんな目に
すぐさま行動に移る。
≪セレネイア、後で責任は取ってもらうわよ。覚悟しておきなさい≫
ヨセミナは右手首だけを軽く振り、左下段に置いた
正しく
(馬鹿な。私に
剣軌を消し、即座に対処する。
右手を押さえる者を標的と定め、
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