第367話:決着の刻
切っ先を起点にして、全方位の大気が激しく震え出す。スフェルエレネによる振動は風波となって、あらゆるものを
いかに
そもそも、精霊は異界の存在、主物質界に具現化した際はその
その一例がソリュダリアとスフェルエレネの関係だ。
精霊は主物質界の住人と契約することで、精霊界の掟を主物質界に持ちこめる。今のスフェルエレネにとって、人が頼りにせざるを得ない五感は全く必要ないのだ。
四枚の
ソリュダリアにも
≪ソリュダリア、どうしてほしいの≫
スフェルエレネらしい問いかけに、ソリュダリアは表情一つ変えず、即答をもって返す。
≪闇を
羽ばたきをもって
≪任せておきなさい≫
ソリュダリアの視線が持ち上がる。
(随分と上空まで。楽しんでいるわね。よかったわ)
「使うべき
頭を痛打された気分だった。
過ぎたる力は己をも滅ぼす。スフェルエレネがなぜ己を選んだのか。ずっと怖くて聞けなかった。
異界の住人との契約は、力を示し、己が上だと証明しなければ成立しない。最低でも対等な関係が求められる。
どう考えても、スフェルエレネが圧倒的上位だ。にもかかわらず、契約は
契約直後、ソリュダリアは一度だけ精霊の力を解放した。当時はまだスフェルエレネという名はなく、ただの風の精霊にすぎなかった。
眼前に広がる惨状にソリュダリアの心は壊れかけた。二度とこの力を使うまい。固く誓って、力を封印した。そこからだ。ソリュダリアの苦悩が始まったのは。
「今の私は違う。素晴らしい
ソリュダリアは振り下ろしていた剣を再び
既にスフェルエレネの姿は視認できないほどの高度に達している。上空四千メルクを超えている。
≪ソリュダリア、いつでもいいわよ≫
スフェルエレネの準備は整っている。瞬時に二千メルク以上を翔け上がった影響は誰の目から見ても明らかだろう。
「友よ、ソリュダリアの本気の攻撃が来るぞ」
ワイゼンベルグに言われるまでもない。コズヌヴィオの目はソリュダリアと風の精霊の動きを、とりわけ魔力の動きを
「
ソリュダリアの視線が
「来ます」
掲げた剣の剣身が美しい淡碧緑に染まっている。ソリュダリアは剣を振り下ろす代わりに、ただ一言だけ
"Cajahwifuiye."
剣身が
「何という魔力量、これがソリュダリア殿の本気ですか」
人が有する魔力量は、属によって
「ソリュダリアがあれほどの魔力量を持つのか、俺も知らぬがな。あの娘は備わった膨大な魔力を極端に恐れていた」
ソリュダリアの全身もまた淡碧緑の光で満たされている。
「ソリュダリア殿が魔術師としての道を歩んでいたならと、つくづく思いますよ。ですが、人の運命など誰にも分かりません。不謹慎かもしれませが、だからこそ面白いのでしょう」
コズヌヴィオの本心だ。
ソリュダリアが魔術師の道を知り、幼い頃から歩んでいたなら、魔術高等院ステルヴィアも放っておかなかっただろうし、もしかしたら賢者候補になっていたかもしれない。
「ああ、友の言うとおりだ。ソリュダリアは
ソリュダリアの全身を包む光が淡碧緑から
≪スフェルエレネ、私の魔力を受け取って≫
光は強さを増し、上昇気流が瞬時に下降気流へと転じる。
翔け上がった淡碧緑は、濃碧緑となって翔け下り、
「恐れ入りますね。あれほどの攻撃を仕かけながら、極小範囲での魔力制御ですか」
コズヌヴィオが
周囲は濃碧緑の輝きで満たされ、紛れこんだ異物だけが白日の下に
「異物は排除されるべきね。私たちの目からは
剣身のない剣を下段に置いたソリュダリアの姿が消えた。
カヴィアーデ流の
依然として剣身は存在しない。
ここに精霊剣ミオルイェーレは成った。
弧は正円へと受け継がれ、宙に濃碧緑の軌跡を残しながら一回転、再び下段の位置に戻った刻、全てが
「よもや、このような結末を迎えようとはな。真なる強者よ、見事だ。だが、これで終わりではないぞ」
ソリュダリアは
「知っているわ。お前に残された唯一の核、
右手に握っていたはずの剣が、左手にも握られている。
「馬鹿な。剣が
ソリュダリアは左手にした剣をもって、精霊剣ミオルイェーレが描き出した正円をなぞるがごとく、真逆の軌跡をもって一回転させる。
「精霊剣ユヌフィレーヴェ、ミオルイェーレと
ミオルイェーレの風の力で
豪炎の勢いは
「風に加えて、炎の力をも。よもや、ここまでとはな。嬉しい誤算であった」
最後に残った
「私の師父を誰だと思っているの。ヴォルトゥーノ流現継承者にして三剣匠が一人、
欠片の奥底で
「小娘、いや偉大なる武人よ。賞賛を贈ろう。強き者に破れた。それだけだ。我は滅びる。だが、我が残したのはこれだけではないぞ」
炎が
≪何を長々と
炎の中にさらに強い炎をくべる。最後の欠片が完全に消滅した。
ソリュダリアは炎を見上げ、頭を下げる。
≪有り難う、スフィレリアレ。私を助けてくれて≫
最後まで言わせてはくれない。スフィリレアレの怒りが熱となって一気に押し寄せてくる。
≪遅いわよ。ほんと、馬鹿じゃないの。もっと早く呼びなさいよ。私が護ってあげなければ死んでいたわよ≫
耳元で騒ぎ立てるスフィレリアレを
たまらず、スフェルエレネに助けを求めるソリュダリアだった。
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