第366話:ソリュダリアの本気
コズヌヴィオはソリュダリアの剣技を横目にしつつ、次の治癒者たるシステンシアのもとへ足を進めている。
「友よ、あの魔術師が最も
ワイゼンベルグの疑問は
コズヌヴィオは問題ないとばかりに首を横に振ってみせる。
「あのエルフ属の方は最後です。既に自己修復魔術が発動しています。彼には優れた魔術師がついているようですね。友は彼の名をご存じですか」
今度はワイゼンベルグが首を横に振る番だった。
「そうですか。では、彼女は」
ワイゼンベルグは再び同じ動作を繰り返す。
「済まない。俺はラディック王国のみならず、リンゼイア大陸には
気を失ったままのシステンシアの
「大丈夫です。大きな外傷はありません」
コズヌヴィオは
「ソリュダリア殿のみならず、彼女もまた興味深いですね」
魔術師としての
「ケイランガ、急ぎこちらまで下がりなさい」
身体を動かす
足を引きずりながらも、周囲の観察も忘れない。どうやらタキプロシス、バンデアロ、システンシアはコズヌヴィオたちによって救護されたようだ。安堵しつつ、最も心配なアメリディオがなおも放置されている。
「コズヌヴィオ様、私などよりもアメリディオをお助けください」
ふらつきながらも、どうにか
コズヌヴィオの返答は変わらない。ワイゼンベルグに説明したとおりのことを繰り返す。
「自己修復魔術、そのようなものが。アメリディオ、君はいったい」
アメリディオに視線を向け、
「とても複雑な魔術です。未だに入口の部分さえ解析できていません。恐らくは、エルフ属にのみ伝わる固有魔術で構築されているのでしょう」
当代賢者でさえ解析が難しいほどの魔術だ。後回しで問題ないというコズヌヴィオの判断は正しいのだろう。
「コズヌヴィオ様、エルフ属の秘術といえば、ランブールグが持つジュラドリニジェも」
小さく
「ランブールグの魔弓もエルフ属の手によるものですね。彼らの鍛冶技術は既に失われたと伝えられています。そして、もう一つです」
コズヌヴィオが指差した方向にケイランガが視線を転じる。
「ソリュダリア殿が振るう剣ですか。セレネイア姫の師匠でもありますね。確かに彼女の実力は
ケイランガが言いたいことはよく分かる。
「友よ、いかがですか」
コズヌヴィオがワイゼンベルグに問いかける。ケイランガは
「コズヌヴィオ様、こちらの御方は」
ワイゼンベルグはドワーフ属らしく、
「私の友ワイゼンベルグ殿です。ヴォルトゥーノ流現継承者ヨセミナ様の直弟子にして、序列筆頭の剣士ですよ」
ケイランガが目を見張り、慌てて頭を下げる。
「ケイランガ殿、頭を上げられよ。俺にそのような礼は不要だ」
恐る恐る顔を上げる。
噂ばかりで、ヨセミナは無論のこと、他の継承者二人とも会ったことがないケイランガにしてみれば、彼らは雲の上の存在だ。その直弟子であり、序列筆頭ともなれば、実力はいかばかりか。容易に想像がつくというものだ。
「ソリュダリアの真の力を知りたければ、手合わせしてみればよい。下位流派だと
序列筆頭が足元をすくわれたなど、ケイランガには
その視線に気づいたのだろう。ワイゼンベルグは苦笑を浮かべ、言葉を続ける。
「ソリュダリアは実力をひた隠しにしている。理由など俺には分からぬがな。あの剣にしてもそうだ」
ソリュダリアが振るっている剣は
(本質とはなかなか変わらぬものだな。お前の美徳でもあろうが、かえって死を招くこともある。相手は人ではない。
ようやく無駄だと悟ったのか、攻撃の手が止まる。ソリュダリアを完璧に護りきった
「ほうほう、
小娘と
「お前は我と戦うに
ソリュダリアは
「
改めての仕切り直しだ。
出方を
(何だ、この全身を刺激する嫌な感覚は)
(あの小娘からではない。もっと上位の存在、賢者か。いや、違う)
思考がまとまらない。
いつしか、
「どうした。身体が揺れているぞ」
ソリュダリアの口調は冷酷そのもの、仲間と相対する際とは
告げられて、ようやく気づく。一瞬とはいえ、恐怖心を
「認めよう。お前もまた強者であると。ここからは本気だ。全力で
唯一残った
「手段を選ばず。なりふり構わずだな」
天に輝く三連月が欠け始めて、まもなく一ハフブルになる。
主物質界に最も近い
闇に完全同化した
「師父ヨセミナ様の命は絶対だ。ならば、私も出し惜しみなどせず、全力でお前を
ソリュダリアが動く。
右手の剣を最上段に
“Ceaf qpiu xizne, misec kislii.”
十六枚の
≪ようやく私を呼ぶ気になったのね。随分と待たされたわね、ソリュダリア≫
花は美しい
≪本当にごめんなさい。私の力と覚悟が足りなかったの。もう大丈夫よ。私に力を貸して。愛しい風の精霊スフェルエレネ≫
スフェルエレネは四枚の羽を
細くしなやかな腕を伸ばし、ソリュダリアの髪を優しく
間違いなく、
≪いいわよ。それがソリュダリアの願いなら、私が
主物質界において、ここまで強く具現化した精霊は珍しい。それだけソリュダリアとスフェルエレネの結びつきが強固なのだ。
≪ええ、容赦なくね。行くわよ、スフェルエレネ≫
ソリュダリアは闇に溶け込んだ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます