第361話:二フレプトの攻防
ケイランガは心を落ち着かせるために瞳を閉じ、深い呼吸を数回繰り返す。
「どのような結論になろうとも、私はケイランガ団長の決断を尊重します。誰かを犠牲にしなければならなくなったとしてもです。全滅だけは絶対に避けなければなりません」
ランブールグは
犠牲を
「ケイランガ団長、私が、
体力が回復しきっていないシステンシアが行ったところで、助力になるとは思えない。ケイランガは制止しようとして、彼女の強い瞳に
「システンシア、覚悟のうえですか」
「よいでしょう。システンシア、貴女に命じます。二フレプトです。奴の動きを確実に止めてください」
たかが二フレプト、されど二フレプトだ。
短時間でありながら、システンシアにとってネシェメリィーレの
「ランブールグ、貴男はシステンシアの援護のみに徹してください。奴の動きが止まった瞬間、仕かけます」
システンシアは残された体力の全てを使い切るつもりだ。それほどの強い意思をもって片刃長剣を握り締める。
「行きます」
ネシェメリィーレに向かって、全速力で迷いなく真正面から突っ込んでいく。
ネシェメリィーレもシステンシアの突進に気づいている。気づいていて、取るに足らないと判断している。視線さえ向けず、
既に両者ともに身体の至る所から
防戦一方の二人をシステンシアが追い抜いて、前へと
「システンシア、何をするつもりだ」
タキプロシスが叫ぶも、システンシアの耳にはもはや雑音でしかない。なおも加速を
「ここよ」
システンシアは身体を小さく折り畳んで大地に沈め、両脚に力を
視線の先でシステンシアは確かに
「
暴れ回っていた一対の剣が、ここに来て初めてシステンシアを始末すべき敵と定める。
バンデアロが祈りを籠めてシステンシアに届ける。
「前後二方向同時」
言うまでもなく、ネシェメリィーレが放つ一対の
正確に一フレプト後、右手の片刃長剣は背後から、左手の長細剣は正面からシステンシアを貫かんと豪速をもって襲いかかってきた。
(剣軌は分かっている。ならば私が
空中で自由が利かないことなど、
剣は我流だ。
システンシアが剣に
下段にある片刃長剣を最上段に振り上げる。全身を大きく反らしながら、システンシアは自らを正円と化す。それは空に輝く満月のごとく、柔らかな光に
その正体は魔力だ。
システンシア、最大の長所にして短所でもある。大量の魔力が体内を巡っていながら、自らの意思で魔力を外部に放出できない。
今、まさに握り締めた剣に体内の全魔力が注ぎこまれていく。
ここにただ一度限りの
「
システンシアにとっての必殺の
「愚かな娘だ。背後ががら空きではないか。しかし、それもまた
ネシェメリィーレの指摘どおり、システンシアの振るう剣は正面から襲い来る長細剣にのみ照準を合わせている。背後からの片刃長剣に対しては無防備だ。
それでも構わずに行く。
最上段より振り落とした片刃長剣が、不規則に向かってくるネシェメリィーレの長細剣と激突した。
人であるシステンシア、
「
触れるなり、システンシアが握る片刃長剣の剣身が砕け散り、粉々になって四散する。
「狙いどおりよ」
剣身そのものに意味はない。剣身に注がれたシステンシアの魔力こそが重要であり、だからこその
宙を舞う
「私の全魔力よ、ここに
一気に
「ほうほう、見事、見事であるぞ。これは、氷の魔術か」
液体の力を無効化する簡単な方法は二つだ。
纏わりついた部分から急激に粘性液体の長細剣が氷に包まれていく。ネシェメリィーレもシステンシアの攻撃意図は読めている。
「それでも、我には届かぬな」
全ての液体が凍る前、余裕をもってネシェメリィーレは次なる行動に移っている。粘性液体の剣は鞭状、だからこそ剣軌を自在に変えられるだけでなく、液体そのものを分離させることも容易だ。
無数に分裂した粘性液体の鞭が正面のみならず、上下左右から無秩序にシステンシアをなぶりにかかる。システンシアの片刃長剣は剣身を失っている。万事休すだ。
「させるわけがないでしょう」
ランブールグもまたこの展開を読み切っている。だからこそ、システンシアに届く寸前、迫り来る無数の鞭に対して、同数の魔術矢を叩きこんでいたのだ。
空中で凄まじい
(有り難うございます、ランブールグ副団長)
システンシアの剣技はまだ
呼応するかのように急速に温度が低下していく。
「賞賛しよう。正面の攻防はお前の勝ちだ。だが、背後は我の勝ちだ。
ネシェメリィーレの言葉を受けても、システンシアの目は
「私は一人で戦っているわけではない」
ネシェメリィーレの攻撃は終わっていない。必殺の片刃長剣が背後から迫る。切っ先がまさにシステンシアを貫かんとした
「馬鹿な。防御結界だと。いつの間に」
詠唱の
システンシアの背後に輝きと共に光壁が展開、片刃長剣の切っ先の侵入を防ぐ。それでもなおシステンシアを貫かんとする剣の勢いは止まらず、光壁を削り落としながら突進していく。
その
停滞は正しく一フレプト、前後合わせて二フレプトの封じこめを成功させた。
「システンシア、よくやりました。後は任せなさい」
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