第354話:アメリディオの真の実力
アメリディオは愛馬を
「ハクゼブルフトと並んで次期第一騎兵団団長最有力と言われるだけはありますね」
ケイランガには何を言っているのか理解できない。それもそのはずだ。リンゼイア大陸のおける大陸共通語ではないからだ。
「アメリディオ、先に仕かけます」
どうぞとばかりに右手を振って了承を返す。
ケイランガが馬上でプルフィケルメンを構える。左手一本で大型弓を支える。利き手の右手には矢を一本ずつ、指と指の間に
(矢は三本ですか。各々に異なる魔術を付与していますね。面白いです)
「行きなさい、
三連速射で放たれた矢は指向性を持たせているのか、全てが右側面より鋭い弧を描きながら
放ってからおよそ一フレプト、百メルク前方で
「さすがにこの地形では最大威力とはいきませんね」
後方からまたもや怒鳴り声が聞こえてくる。
「団長、またも騒いでいますがいかがいたしましょう。何なら私が黙らせてきても」
馬を進めてきたランブールグがケイランガにのみ聞こえる程度の小声で
「理解はします。今は
ケイランガは表情一つ変えずに淡々と応じている。言葉どおりだ。今ではない。いずれその機会が訪れるだろう。それよりも優先すべきことがある。
「ランブールグ、どのように見ましたか」
「私には
最後まで言わずとも分かる。三色の輝きが収束してなお、
「ええ、そうですね。魔術耐性が強いのか、あるいは天空の影響か。いずれにせよ苦戦は必至です」
口にしながらもまだ余裕の雰囲気を
「団長、あれを試してみませんか」
思いがけない提案にケイランガは驚きの表情を浮かべ、すぐに引き締める。
「この狭小空間で用いるには危険ではありませんか」
馬三頭が横並びできるか
「私たちにとっては不利な地形ですよ。しかも矢をどこから放とうというのです」
ランブールグが迷いなく、ある方向を指差す。
「確かにそこなら可能性はあります。それには」
思案も束の間、進んで提案してきたのだ。考えがあってのことだろう。
「妙案があるのですね。聞きましょう」
我が意を得たりとばかりにランブールグが手短に説明を始める。悠長に構えている時間などない。その証拠にアメリディオが二人に割って入って、口を挟む。
「今のような攻撃では倒せませんよ。どうするのです。近づいてきています。何なら私がまとめて後方二体を倒しても構いませんが」
あえて誘いの言葉を投げかける。アメリディオにしてみれば、一体でも二体でも大差はない。
他の団でアメリディオの戦闘を見た者はいない。そのうえでランブールグが自信をもって言い切る。
「アメリディオ団長にお願いの儀が。魔術師としての御力をもってご助力いただきたく」
頭を下げてくるランブールグに対し、アメリディオの顔からは
「ランブールグ、貴男にしては面白い冗談ですね。私が魔術師とは、いったい」
最後まで言わせない。
ラディック王国の騎兵団に魔術師は存在しない。大陸中の者が知っている既成事実だ。その代わりの宮廷魔術師団であり、もはやその存在自体も
「私の父や兄と同じ
それだけ聞けば十分だ。長話も必要ない。
「なるほど。貴男はセオトドス大陸の出身、そしてその家名は。なぜ魔術師の道に進まなかったのか。無駄話ですね」
誰に向けてのものでもない。独り言としての
「私に何をしてほしいのです」
寡黙で控え目な性格のランブールグが興奮を隠しきれないのか、いつになく
「ケイランガ団長と私で上空に百の矢を打ち上げます。その全てを最高地点で魔術静止させていただきたいのです」
渡りに船か。ちょうどよい機会だ。アメリディオも試してみたいことがある。
「矢を一本追加してください。それは私専用です。その条件でよければ力を貸します」
動きは遅いものの、既に後方に
「感謝いたします」
ランブールグは即座に弓を構え、速射態勢に入る。彼の弓はジュラドリニジェと
「速射のランブールグと称される
思わず
「アメリディオ、貴男の
ケイランガも空に向けてプルフィケルメンを構え、離れ業ともいうべき早さで次々と矢を放っていく。
ランブールグはさらに早い。何しろ矢を
アメリディオは矢の射出方向を見定め、上空に右手を
詠唱はない。その代わりに
「やはり私の目に狂いはありませんでしたね。アメリディオ団長の魔術、まさに恐るべしです」
賞賛の声に
(対峙している
これで取るべき方法が決まった。
一方でケイランガとランブールグが
「これでよいですね。約束どおり、一本はもらい受けますよ」
横並びの百一本の真ん中を自らの矢と定める。アメリディオは宙に浮かび上がったままの魔術文字を指一本で誘導、銀青色の
「リィオド・ベアヌプ・ザォエリィ・ラハーミィ」
アメリディオの
魔術文字を吸収した矢が急降下しながら一定高度で直角に方向展開、凄まじい速度で
「アメリディオ、何をやっているんだ。
タキプロシスの
確かにタキプロシスの言ったとおり、迫りくる
「セピミ・ナハリィ・メーゲ」
矢と
「こちらも始めますよ。やりなさい、ランブールグ」
ケイランガの合図をもってランブールグもまた詠唱に入る。一から魔術を行使するためのものではない。既に魔術付与された百本の矢を解き放つためのものだ。
「天に四つ色の輝きもちて咲き誇れ
アルシェ・ネレイェ・メネジア・ロザネル」
短節詠唱が即座に成就を迎える。
ランブールグは
「
長らく静止を余儀なくされていた百本の矢は、歓喜をもって標的めがけ一斉に降り注いだ。
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