第350話:ジリニエイユが敬意を向ける存在
改良を幾度となく重ねたルシィーエットの
空を強く輝かせる灼青炎はジリニエイユの頭上で形態を変化させていく。
≪このままでは集中砲火を浴びるだけです。
ジリニエイユからは珍しく焦りの色が感じ取れる。
≪大人しくここで死にな≫
ルシィーエットの
呪具師を滅ぼした
灼青炎の細く鋭い雨が
≪案ずるでないわ。
核を失うのは
かたやジリニエイユは腕一本を失いかねない。かつて左腕をルシィーエットに焼かれたジリニエイユにとって、右腕まで失うなど肉体的にも精神的にも耐え難い苦痛だ。
≪よくもふざけたことを言ってくれる。貴様とて、私がいなければ真の意味で最強にはなれないのだぞ。分かっているのであろうな≫
現状では支配権は五分五分だ。どちらに天秤が傾くかは、それぞれの力の使い方次第であり、人族など弱き存在でしかない中、ジリニエイユの意向に逆らったところで
≪がなり立てるでないわ。我も貴様の重要性は理解しておる。被害は最小限に食い止めてやろう。腕一本は我慢するがよい。それもこれも貴様の判断が遅かったからだ≫
灼青炎の雨がジリニエイユの体表面に突き刺さる。皮膚が刹那に溶け失せ、そこから凄まじい速度で気化が始まる。そのはずだった。
≪十、百の核を失おうとも
ジリニエイユの全身を射貫くはずの灼青炎の雨、そのことごとくが右腕のみに降り注ぐ。
≪痛みは快楽、貴様も耐えるがよい。それに貴様も炎を扱えるのであろう。ならば、やがて心地よいものに変わる≫
ジリニエイユからすれば、
(知能を持つとはいえ、所詮は人とは違う生き物だ。私は大きな間違いを犯しているのか)
ここで考えたところで意味はない。既に危機の真っただ中にある。即座に対処しなければ、瞬時に右腕を失ってしまう。
(迷っている暇などありません。今はこの窮地を脱することだけを考えなければ)
これがジリニエイユの強さの秘訣だろう。迷いはすれど、状況把握をしたうえで頭を切り替える。その判断速度が桁違いに早い。既にジリニエイユの右腕表面には己が魔力による炎が
≪それでは足りぬが、多少は痛みも
今や
その証拠に降り注ぐ灼青炎の雨は右腕以外の部位に一切届いていない。しかも、触れた
さらにその上からジリニエイユの炎と
≪興味深いな。かつて貴様の左腕を焼いた炎を食らうのは初めてだが、これほどまでとは予想外だぞ。名は何と言ったか。この女賢者を是が非でも餌にしたいものだ≫
さすがにこの言葉だけは看過できない。ジリニエイユから凄まじい怒気が発散される。
≪
(ますます面白いではないか。他者を
≪ならば謝罪せねばなるまいな。我が悪かった。
ジリニエイユからの応答はない。控え目な怒気だけが残っている。心の奥底、そこにジリニエイユでさえ気づかない深い想いがある。さすがに
≪もうよい。右腕を失う覚悟はできている。それ以外の部位は必ず
集中砲火を浴び続けるジリニエイユの右腕は、
≪我を信じよ。右腕以外、機能を喪失するなどあり得ぬわ≫
確信を持った
灼赤の炎が勢いよく右腕から
ジリニエイユの顔が苦痛に
痛みを感じたのは束の間、
ジリニエイユの頭上を覆った
≪耐えきったぞ。核を五十、そして貴様の右腕一本、
ようやく安堵できたのか、ジリニエイユがやや背を丸めて大きく息をしている。
(あの炎は危なかったです。さすがはルシィーエット嬢です。いささかも衰えていませんでした。むしろ魔術の威力、精度共に強くなっています。それでこそ、この私が敬意を向ける相手ですよ)
顔を上げたジリニエイユの表情が場にそぐわず
「重畳の結果ですか。そのとおりかもしれませんね。
すぐさま表情を引き締め、消え去った輝青の空を見上げる。ジリニエイユが敬意の対象者たるルシィーエットに向けて
≪私はやられたらやり返す主義です。ルシィーエット嬢、二度も私を焼いた代償は高くつきますよ≫
直接、ルシィーエットを攻撃するなど
だからこそ、ヒオレディーリナはもちろんのこと、おあつらえ向きの攻撃対象者にも捉えられるようにしているのだ。
≪ニミエパルド、ケーレディエズ、私を裏切りましたね。私は手駒にかける情けなど持ち合わせていませんからね≫
突如、二人の核から制御不能なほどの
≪まだ生きてたのかい。
灼青炎を浴びてなおも生存している。考えられることは唯一だ。
まさしくフィアが言ってのけたとおり、
ジリニエイユには遠く離れた地で憤怒に顔を
≪さすがはルシィーエット嬢と
この声を聞いているだけで苛立ちが増してくる。人の神経を逆撫ですることに
ジリニエイユが手駒と称したニミエパルドとケーレディエズに対して最後通告を落とした。
≪この二人で
言い放って、早々に
≪待ちなさい。この二人が最後の
ヒオレディーリナの
≪ヒオレディーリナ、貴女は
ジリニエイユがもう一人の敬意を向ける対象に言葉を投げかける。
≪ヒオレディーリナ、そしてルシィーエット嬢、私と本気で戦いたいなら高度八千メルクまで来てください。その刻こそ全力でお相手いたしましょう≫
その言葉だけを残してジリニエイユの
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