第345話:思いを乗せて次なる戦場へ
ルシィーエットが幾つもの複雑な思いを抱えたままレスティーを、ヒオレディーリナを見つめている。
(ディーナ、本当に不器用だね。昔から変わっていないじゃないか)
レスティーは決して振り返らない。ヒオレディーリナも今の自分を
上空では第一解放状態でイェフィヤ、カラロェリ、
≪まずはそなたたちの意向を聞こう≫
イェフィヤの思いは聞くまでもない。カラロェリも当然のごとく、イェフィヤと共に行動するだろう。
問題は
そもそも、
早速とばかりに二人の姉を飛ばして我先にと
カラロェリの発する熱がうねりながら
≪姉様、何するのよ。私が、ちょっと≫
人化している
≪貴女はしばらく寝てなさいね。我らが主様に願い出るなど、そうね、数千年は早いわね≫
カラロェリの
レスティーは三姉妹のやり取りを眺めている。感情は全く読み取れない。
≪よかったのか。叶えるか
イェフィヤとカラロェリが
≪悔しそうな顔をしているわね。これはこれで可愛いのだけれど、もう少し感情を抑制しないといけないわね≫
イェフィヤの
≪我らが主様、大変お見苦しいところを申し訳ございません。この子の
姉二人がそこまで言うならとばかりにレスティーは苦笑しつつも、問題なく了承の頷きを返す。
≪そなたたちはどうするのだ。聞くまでもなかっただろうが≫
イェフィヤの心は既に決まっている。
主の前で応えれば、カラロェリは断らないだろう。それでは意味がない。イェフィヤにとって、カラロェリは一心同体にも等しい。
なぜなら、イェフィヤとカラロェリは
イェフィヤはいささか複雑な想いを
イェフィヤの想いはレスティーにも伝わっている。
≪先にそなたに聞こう≫
レスティーの目はいつもと異なり、イェフィヤではなくカラロェリに向けられている。真の主たるレスティーの視線にまともに
助けを求め、伺いを立てるかのように身体ごとイェフィヤを視るも、姉は黙って首を横に振るだけだ。
「イェフィヤ、カラロェリ」
トゥウェルテナが二人の名を呼びながら勢いよく
「真の主たるレスティー様、お願いの儀がございます」
目の前に来るや、すかさず
「私はイェフィヤとカラロェリと今しばらく一緒にいたいのです。この戦いが終わるまで、私に預けていただけないでしょうか」
居ても立っても居られなかったのだろう。トゥウェルテナの瞳からは二人を信頼する強さが光となって
トゥウェルテナは理解している。レスティーが
頭を下げたままのトゥウェルテナにレスティーが言葉と共に右手を差し出す。
「立つがよい。跪く必要もない。そなたの意向は承知した。そして、決めるのは私ではない。この二人の意思次第だ」
イェフィヤの目がカラロェリに語りかけている。貴女の好きなようにしなさいと。
姉に先んじて、
≪カラロェリ、迷っているなら私にもう少しだけ時間を与えてほしいの。私はレスティー様やヒオレディーリナ様と違う。貴女の力を十分に発揮させてあげられないわ。でも、必ずできるようになってみせるから≫
イェフィヤはもちろん、レスティーでさえ感心しつつ、トゥウェルテナの心の動きを察している。
≪そなたが気にかけるのも頷けるな。この娘は頼りなく、
レスティーはイェフィヤを見つめ、さらにその深淵の影に思いを
≪我らが主様、あの娘もまた一時的ではありましたが、私と妹を手にしておりました。巡る
レスティーに言葉はない。同じ思いだからだ。
あの娘にイェフィヤとカラロェリを一時的に授けたのはレスティーであり、もちろん
(まだまだそなたには及ばぬが、そなたの子孫は着実に成長している)
混沌の
何よりも、カイラジェーネを混沌に還す前後でトゥウェルテナは大きく変わっている。彼女自身は全く気づいていない。視る者が視てこそ分かるものだ。
トゥウェルテナの全身を二つの大きな力が愛をもって包みこんでいる。
(混沌の輪還より見守っているのであろう、エトリティア)
レスティーの目は、エトリティアの魂が嬉しそうに明滅している様を
≪レスティー様、あの子は
砂漠の民が安寧の地を得るのは悲願であり、その使命はトゥウェルテナに託されている。エトリティアとカイラジェーネが力を貸したいというなら、レスティーに異論はない。
レスティーの意識がエトリティアの魂から離れると同時、差し出した右手にトゥウェルテナの左手が重なる。レスティーは力を一切入れることなく、静かにトゥウェルテナの身体を持ち上げる。
まるで羽一枚が宙に浮かんでいるかのごとく、トゥウェルテナは軽やかに立ち上がった。
≪トゥウェルテナ、貴女の思いは受け止めたわ。その言葉を信じて、もう少しの間だけつき合ってあげる≫
カラロェリの思いを受けて、トゥウェルテナには
レスティーの頷きをもって、第一解放状態のイェフィヤとカラロェリ、二人の姿が
≪私も貴女の成長を楽しみにしているわ≫
イェフィヤの言葉を最後に、トゥウェルテナの一対の湾刀に溶けこみ、一切の気配が感じられなくなった。
二人の姉がいなくなり、一人残された
残念ながら、
≪そなたには不本意かもしれぬが、今はあの娘の面倒をみてやってほしい≫
レスティーは
”Tierjev bessazo arkadhez.”
唇に乗せた言霊によって、第一解放状態の
「この剣をあの娘に」
「レスティー様、セレネイアにひと言だけでも」
トゥウェルテナにしてみれば最大限の譲歩だ。それでなくとも
(はあ、私、何をやっているのかなあ)
立ち止まったレスティーの視線が遠くで
「今はその刻ではない。全てはこの戦いが終わってからだ。剣はそなたに託す」
トゥウェルテナは
なぜか受け取った
「承知いたしました」
レスティーは振り返らず、ルシィーエットのもとへ近づいていく。
「見事な
ルシィーエットの前でケーレディエズとニミエパルドの変態を視せてしまった。三人の願いを叶えるためのやむを得ない方法だったとはいえ、レスティーにとって明らかに失策だ。
当然ながら、ルシィーエットも考えただろう。だからこそ
「レスティー殿、私は」
ヒオレディーリナ同様、ルシィーエットもまた失いたくない存在だ。最後まで言わせない。
「ルシィーエット、ディーナを頼む。託せるのはそなたしかいない。高度八千メルクで待っている」
告げるなり、レスティーの身体が上空へと舞い上がる。勢いのまま滞空しているフィアの細い腰を抱き、さらに高く
二人の間に言葉は要らない。
(私の愛しのレスティーは、最後には必ず私のもとに
闇を切り裂きながら二つの
見上げていたルシィーエットの視線が見下ろしに変わる。
「立ちな、ディーナ。哀しみに
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